SUVでもステーションワゴンでもなく、「トヨタ MR2」で釣りに行く理由

「本格的な釣り人が使うクルマ」といえば、筆者が釣りの現場で見聞きした限りでは軽のワンボックスがもっとも多く(機動性と積載性に優れるため、本当に“使える”のだ)、次いでSUVまたはステーションワゴンといったところだろうか。

だが神奈川県在住の編集/翻訳業・関 耕一郎さんが使う釣り車は、バリバリのスポーツモデル。それもミッドシップ2シーターの2代目トヨタ MR2だ。

「なぜMR2を釣り車に使ってるか――ですか?まぁ僕の場合はおかっぱり(船やボートなどに乗るのではなく、陸地から竿を振るスタイル)でブラックバスを狙っている関係で、釣り道具の量がさほど多くないから……というのがそもそもあるのですが、それ以上に、“遊びに対して欲張り”なんでしょうね。釣りだけじゃなく、釣りに行くまでの道中も楽しみたいという(笑)」

釣りに目覚めたのは小学3年生の頃。そしてMR2の魅力に目覚めたのは新社会人の頃、今から20年前のことだった。

「本格的に釣りをやるようになったのは、父に連れて行かれた海釣りがきっかけです。釣り船で沖へ行ったのですが、もう面白いように釣れて釣れて。それですっかりハマってしまい、今度は自分でルアーなどをそろえて芦ノ湖に行ったんです。ルアーを選んだのは、『エサがいらないから』ぐらいの単純な理由です。そしたら、今度はもうウソみたいにまったく釣れないという(笑)」

ルアーマンにとっては「あるある」な話だが、とにかく悔しくてたまらなくなった関少年は、そのときに湖畔で目撃したブラックバスを「いつか絶対釣ってやる!」と決意。ブラックバスが棲む近所の池に通い詰めたが、ルアーで初めてブラックバスを釣り上げることができたのは、芦ノ湖での決意から2年が経過したある日のことだった。

「で、そんなこんなでおかっぱりのバス釣りはずっと続けているのですが、社会人になって『じゃ、クルマ買うか』と思ったときに偶然、SWと巡り合ったんです」

SWというのは、関さんが乗っている2代目トヨタ MR2の型式(SW20型)からの呼び名。物心ついた頃にはすでにランボルギーニ カウンタックとランチア ストラトスのミニカーを部屋に飾っていたというほどスポーツカー好きだった関さんが、新社会人としてとりあえず買おうと思っていたのは、FRレイアウトとマニュアルトランスミッションを採用する何らかのクーペだった。

「でも中古車雑誌でたまたま、本当にたまたま、2代目MR2が目にとまったんですよね」

AWこと初代MR2は子供の頃から大好きだった関さんだが、2代目MR2については特に興味はなかったという。だが「ま、参考程度に……」という思いで試乗してみた中古の2代目トヨタMR2に、関さんは図らずもシビレてしまった。

「もうドライビングフィールというか“すべての動き”があまりにも気持ちよかったので、買うつもりで行ったわけではないのに、結局は即決しちゃいました(笑)」

新社会人だった関青年が購入したのは「Gリミテッド Tバールーフ仕様車(5MT)」というグレード。2代目MR2というと、強力なターボエンジンを搭載するグレードがイメージリーダーだったが、関さんが選んだGリミテッドはノンターボの程よいパワーのエンジンを搭載したグレードだ。

2代目MR2ならではの小ぶりなサイズと流麗なデザイン、そしてミッドシップレイアウトならではのシャープな回頭性、さらにはGリミテッドならではの程よいパワー感など、そのすべてを大いに気に入った関青年だったが、若気の至りか、翌年春には自損事故で廃車となってしまった。

「でもターボ無しのTバールーフありで、それでもってMTで――というのが自分的にはドンピシャだったため、まったく同じ仕様のMR2を再び探しました。とはいえ、その仕様は市場に少ないため、探すのにはかなり苦労しましたが……」

結局、関青年が2台目の同仕様車を手に入れたのは、自損事故から約1年がたった2002年5月のことだった。走行距離5万kmの1992年式 Gリミテッド Tバールーフ仕様車。それがすなわち現在の関さんの相棒、今や走行距離22万kmに達したトヨタ MR2である。

「もはや28年落ちですし、走行距離も22万kmですから、車検や修理のたびにいろいろ苦労はしてます。でもね、これに代わるクルマって――主観的にも客観的にも――ないんですよ」

前述のとおり小ぶりなサイズ感と流麗なフォルム、そしてミッドシップならではのシャープな回頭性、さらにはGリミテッドならではの程よいパワー感などがこのクルマの主たる魅力なわけだが、それに加えて「けっこう実用的なクルマでもある」という部分において、2代目MR2は関さんにとっての「代えが利かない存在」になっている。

「前後にある2箇所のトランクを使えば、釣り具と数日分の旅支度は余裕で積み込めますし、ブラックバスだとロッド、つまり釣りザオはせいぜい2mくらいまでなので、ちょっと無理すれば車内に積めちゃいますしね」

そのように“積める”ミッドシップ2シーターは、2代目MR2以外にもあるようでいて、実はほぼ存在していない。

「さすがに妻と2人で乗るときは車内にロッドは積めませんので、携帯しやすい分割型のロッドを持って行きますけどね。また、エンジンのすぐ後ろにあるリアトランクは熱が入るので、ロッドはなるべく断熱できそうなケースに入れたり、プラスチックのルアーはフロントトランクに入れるなどの工夫はしてます。でも逆に言えばその程度で、MR2だって普通に“釣り車”として使えるものなんですよ。まぁおかっぱりのルアーマンである僕の場合は――ということですが」

関 耕一郎さんというアングラー(釣り人)にとっては何ら不足のない“釣り車”である2代目トヨタ MR2 Gリミテッドだが、当然ながら純粋なスポーツクーペでもある。それゆえ関さんの休日は、「釣りをするのが楽しくて、ついでにその行き帰りの運転も楽しくて」という、いわば“一粒で二度美味しい”という状況になっている。

「たまにね、実家のSUVを借りて釣りに行くこともあるんですよ。もちろん、それはそれで十分楽しい釣行です。でも……やっぱり湖までのワインディングなんかを走っている最中には、MR2が恋しくなりますね。自分のMR2はもはや塗装のクリアもハゲちゃってますし、メンテナンスもいろいろやらなくちゃいけないので、悩みは尽きないです。もしもこれと同じように使えて楽しめるクルマがあるならば、買い替えを考えるかもしれません。でもね……ホントないんですよ。このサイズで、この走りで、そしてこんな使い方もできるクルマって」

過日は劣化した足回りのパーツを交換し、お次はエンジンとボディの大規模メンテナンスを行う予定だという関 耕一郎さん。「もしも似たクルマが他にあるならば、買い替えを考えてもいい」と言ってはいるが、結局のところは5年後も、あるいは10年後も、リフレッシュさせたこのMR2に乗っているような気がする。

6.4フィートのワンピースロッドを車内に斜め置きし、軽快なリズムで5MTを変速させながら。

(文=伊達軍曹/写真=阿部昌也)

[ガズー編集部]

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