元整備士がカーライフの集大成として楽しむ『20代の頃に乗れなかった』セリカLB(TA27)
エンジン、変速機、内外装などを自由に組み合わせることができる『フルチョイスシステム』を提げて1970年に登場したスペシャリティカー、トヨタ・セリカ。
『ダルマセリカ』と呼ばれた2ドアクーペに続き、1973年には3ドアハッチバックの『リフトバック(LB)』も追加され、その選択肢はさらに広がった。
そんな数多ある選択肢の中からセリカリフトバック1600GT(TA27)にこだわって手に入れたという新潟県在住の森田盛一さん(63才)。
「僕が小学校の高学年になった昭和40年代後半あたりからは自家用車の普及が進んで、大人はもちろん子供たちもクルマに憧れを持つようになっていった、そんな年代でした。
だから高校を卒業してすぐに免許を取った後は、クルマが好きだったので整備士になり、ハコスカやケンメリ、シティーターボ、セリカXX、MR2やハチロクといろんなクルマに乗りました。スキーにハマっている時は4WDのスプリンターカリブに乗ったりもしましたね。
そして、そんな時期が終わると今度は改造しがいのあるAE86に相当ハマって、20年近くで3台を乗り継ぎました」
「お客さんに僕が作ったAE86にドライバーとして乗ってもらって、サーキット走行や耐久レースに参加することもありました」
地元の日本海間瀬サーキットで、自身が走行を楽しむだけでなく、レースメカニックとしても活躍していたという森田さん。しかし10年ほど前に「AE86よりもっと古いキャブ車に乗りたい!」という想いを持つようになったという。
「免許を取ってすぐハコスカやケンメリに乗ってはいましたが、その頃に所有したことがなかったセリカに乗りたくなったんです。当時、友達のセリカに乗ってみて『やっぱりいいな』と感じた記憶もありましたしね。だから10年前にこのクルマが見つかった時は長岡まで現物を確認に行って、即決しました。本当にいいものが見つかったなと嬉しかったですよ」
こうして森田さんが購入したのが、1975年式の初代トヨタ・セリカリフトバック1600GT(TA27)。もともと長岡にあるクラシックカークラブの会長さんが所有されていたコレクション中の1台で、とても綺麗だったそうだ。
セリカといえば、当時はどちらかというと2000GTの方が人気が高かったが、森田さんはあえて1600GTを選んだという。それには大きな理由あった。
「1600GTに載っているヤマハ製2T-Gエンジンの音が好きで、チャンスがあったら乗りたいと考えていたんです。2000GTと1600GTの音ってやっぱり違うんですよ。1600GTの方がエンジンの音が軽くていいなと。
だから引き取った時はエンジンがかからない状態だったけれど1600GTを手に入れることができたことがすごく嬉しくて、早く憧れでもあった2T-Gエンジンで気持ち良く乗れるようにしたいと思いました。そして、その後に自分で全部直したので思い入れもさらに強くなりましたね」
そんな憧れのエンジンを搭載したセリカリフトバック1600GTを所有して10年。森田さんに愛車のお気に入り部分やカスタムポイントなどを伺ってみた。
「外見で一番気に入っているのはリヤの“バナナテール”ですね。そうそうナンバーは希望ナンバーで『1600』にしています。それに正面から見るとマスタングみたいに見えるところや、ダルマとは異なる形状のフロントグリルも気に入っています。マフラーはキャブ音が響くのが気に入っているのであえてノーマルのままにしています」
ホイールはいろいろ試してみた結果『やっぱりこれが一番しっくりくる』と、前オーナーが履いていたトムスの井桁ホイールを履かせているとのこと。
また塗装は買った当時の純正カラーのままで、雪国でサビが心配な下まわりには購入してすぐに錆防止対策の塗料を施工したという。
「ハンドルはナルディに交換していますが、純正も保管してあります。シフトノブはGT専用の純正品だし、メーターや時計も純正のままで今でもちゃんと動いていますよ。後部座席は倒して2人乗りにすればいろいろ置けるので、その状態でオーディオも積んでいます。リフトバックはこの使い勝手の良さがいいところですよね。
それから、鍵は昔限定で発売されていたマックツールズのドライバー型キーホルダーを使っています。これまでも、その時期その時期にいちばん気に入っている愛車の鍵をコレにしてきたんです」
また、森田さん自身の手によって復活させたエンジンが搭載されたエンジンルームは「ソレックス40φのキャブレターに、点火系は和光テクニカルのCDIで強化していてエンジンは快調ですね。タコ足はこれからフジツボ製に交換する予定でストックしています」とのこと。
その他にも車高調はAE86用を流用し、ヘッドライトをハロゲンに交換したりCDで音楽を聴けるようにオーディオを装着したりと、森田さんが安心してドライブを楽しめるように整備とカスタムが行き届いている。
ちなみに現在は家業のガソリンスタンドを継いでいて、お店の裏にある作業場を兼ねたガレージで愛車を保管整備しているという森田さん。セリカのほかにも、2T-Gエンジンのクルマを探している際にセリカよりも前に購入してあったTE27カローラレビンや、去年知り合いのクルマ屋さんの紹介で手に入れたというS54Bスカイラインなどが置かれている。
セリカの修復維持作業を優先しているためレビンのメンテナンスは後回しになってしまっているが、不動車だったスカイラインはやっと動ける状態にまでなったとか。
「ナンバーがあるのはセリカだけなので、普段は軽自動車に乗っていて、天気のいい日やイベントにはセリカで出かける感じですね。セリカのイベントには毎年参加していて、東北セリカデーのヒストリックカー部門で1位に選んでいただいたこともあるんですよ。それから、石川県の博物館で開催されるイベントにも展示したことがあります」
「それまでも旧車イベントに行ったりはしていましたが、リフトバックに乗るようになってからは知り合いや旧車仲間がぐっと増えましたね」
愛車とのカーライフを楽しんでいる森田さんだが、今後もやりたいことがあるという。
「僕にとってこのリフトバックは、20代の頃にできなかったことを今やっている、いわばカーライフの集大成なんです。1600GTのエンジンもとても気に入っているんですが、2000ccにボアアップしたエンジンも持っているので、最後にそのエンジンに載せ換えてみたいですね! その後はスープラに乗っている子供が引き継いでくれるなら、このまま手元に残していてもいいかなと思っています」
20代でスポーツカーをはじめとするさまざまな愛車を乗り継ぎ、現在は憧れだったセリカリフトバック1600GTを自らの手で復活させて『カーライフの集大成』として楽しむ森田さん。
その生き方は、クルマ好きにとって理想のカーライフともいえるかもしれない。そしてこれからも、大好きな愛車と共に、森田さんのカーライフは続いていく。
取材協力:宝山酒造
(文:西本尚恵 / 撮影:金子信敏)
[GAZOO編集部]
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