【大学自動車部】強豪校ならではの自信と誇り -中央大学編-

全国の大学や専門学校などの自動車部におじゃまして、日ごろの活動風景やご自慢の部員を紹介するこのコーナー。
今回うかがったのは屈指の強豪校である中央大学。
2012年以来となる全日本年間総合杯の奪還を狙う同校の、強さの源を探りました。

★​中央大学学友会体育連盟自動車部プロフィール
●部員数:男子 19名/ 女子 3名 ※部員数は2014年10月現在
部員紹介ページ
●部車:ホンダ シビックほか
●活動内容:毎週水曜・木曜の18:30~21:45および土曜の9:00~15:00、東京都八王子市の多摩キャンパス内ガレージにて部車の整備を行う(夏休み期間中は毎週水曜と土曜)。競技シーズン中は土曜または日曜にサーキットで走行練習を行う。
目標は全日本および全関東各大会での優勝、全日本年間総合杯の奪取。
●活動実績:2012年度 全日本学生自動車連盟年間総合杯 男子団体戦 優勝
2014年度 全日本学生ジムカーナ選手権 男子団体の部 優勝

強さの秘密は下級生の成長を促す環境にあり

都内5カ所にキャンパスや記念館を構える中央大学。自動車部のガレージは、広大な敷地を有する多摩キャンパスに位置する。
自動車部の創部は1931年。今年で83年という歴史を誇る、伝統ある部なのだ。
​取材でお伺いした時は、次の週にせまった軽自動車6時間耐久レースの講習会に参加するため、支度をしているところだった。
今回は副将でエースの多田康治さんに話をうかがった。先日の全日本学生ジムカーナ選手権大会で個人トップのタイムを記録した、「日本一速い自動車部員」である。

今回おじゃましたのは東京都八王子市などにキャンパスを構える中央大学、その学友会体育連盟自動車部です。中央大学の源流は、1885年(明治18年)に創設された「英吉利法律学校」。実地応用に優れたイギリス法についての理解と法知識の普及こそが、日本の独立と近代化に不可欠であると考えての建学でした。現在は6学部と大学院8研究科、専門職大学院3研究科、4付属高等学校、2付属中学校を擁する総合大学となり、多様な学問研究と幅広い実践的な教育を通して「行動する知性」を育んでいます。

そんな中央大学に自動車部が創部されたのは1931年(昭和6年)12月ということで、その歴史はすでに83年。ここ数年は特にスピード競技に強い強豪校として名をはせており、男子団体の部では2010年度と2012年度に全日本総合杯を獲得。今年2014年度も、昨年度はライバル校の日本大学に持っていかれた総合杯を奪還すべく、全部員一丸となって車両づくりと走行練習、そして試合に臨んでいます。

近年の中大自動車部の強さの理由はどのあたりにあるのでしょうか? まずは副将の多田康治さん(4年)に聞いてみました。ちなみにこの多田さん、過日行われた2014年の全日本学生ジムカーナ選手権でもぶっちぎりのトップタイムをたたき出し、男子団体の部優勝の立役者となった、大学自動車界きってのスピードスターです。

「わたし個人がもっと速くなりたい、もっとうまくなりたいと思っているのは当然のことですが、でも一人勝ちでは面白くないし、わたし自身の成長もありません。しかし下の年代がどんどん実力をつけて迫ってくれば、わたしも正直焦りますし(笑)、わたしを含む上級生たちがもっともっと成長できる。そういった意味で、1年生や2年生が少しでも早く成長できるような環境づくりと意識づけをしていることが、中央大学自動車部の特徴ではあるでしょう」

多田さんによれば、入学当初の1年生はさすがに野球部で言うところの「球拾い」のようなことだけやらされるそうですが、それも夏合宿前までのこと。スキー場の駐車場を借りきっての夏合宿は、「下級生は1週間とにかく走りっぱなし状態(多田さん談)」。3、4年生は整備とバックアップに徹し、1年生にはとにかくガンガン走ってもらいます。そこで、普通のシチュエーションではほとんど行うことのない「アクセル全開」や「フルブレーキング」を体験してもらうそうです。

そして2年生には「自分たちで走り、壊れたときにどう対処するかを自分たちで考え、実際に自分たちだけで対処してもらう」(多田さん談)という実戦的なメニューが用意されます。このあたりの「何かといちいち実戦的」という部分が、もしかしたら中央大学の速さの秘密なのかもしれません。

常日頃から実戦を想定した行動を心がける

ガレージにて作業中の1年生。写真中央が川谷勢矢さん。向かって左が村上未紘さん。
こちらも1年生の有賀涼太さん(右)。1年生にとっては、次の軽自動車6時間耐久レースが初めての大きな大会となる。
​現在、中央大学自動車部には3人の女子部員がいる。こちらは2年生の前岡春花さん。先日のジムカーナでは太田晶子さんとともに出走し、団体7位の成績を収めた。
上級生にまじり、先日のジムカーナで選手を務めた2年生の宮下 敬さん。2本目ではパイロンにさえ触れなければ1分12秒台という走りを披露した。

「何かといちいち実戦的」といえば、中央大学自動車部のガレージで連呼されている「休憩開始までの残り時間」も、実は実戦を見越してのものです。

中大のガレージでは主に1、2年生が「昼休憩まであと42分です!」「昼休憩開始まで39分です!」といった感じで、2~3分おきに壁の時計を見て、作業終わりまでの残り時間を周囲に大声で知らせています。他大学では見ることのない光景であったため、大きな声で時計を読んでいた村上未紘さん(1年)に理由を尋ねました。すると、

「ただ作業をするのではなく、“定められた時間内に正確な作業を完了させる”という意識を徹底するため、ウチの部では普段からこうしているんです」

とのこと。なんと素晴らしい実戦マインド! やはりこのあたりの徹底ぶりが、本番で結果を出すためには重要なのでしょう。ちなみにこの村上さん、高校生時代にたまたまテレビ中継で見たF1シンガポールGPに魅了され、自動車部に入ったのだそうです。もう一人お話をお聞きした女子部員の太田晶子さん(2年)も、きっかけはF1グランプリだったとのこと。

「受験勉強をしていた頃、深夜さみしくてテレビをつけたらF1というものをやっていて、勉強しながらとりあえず音だけ聞いていたんですが、あるとき画面も見てみたらこれが面白い! 操縦テクだけでなくマシンの差が出てしまうということを知ったり、さかのぼってセナ時代の映像を見てみると今のF1よりもずっと人間くさい部分があったりで、これは面白いなぁということでハマりました。で、入学後に『F1の話ができるサークル』を探したつもりなんですが、気がついたら体育連盟自動車部に(笑)。活動は何かと大変ですが、楽しいですよ。辞めたいと思ったことは一回もありません。大変ななかで『どう続けていくか?』ということだけを考えてますね」

男子部員にも話を聞いてみましょう。過日の全日本ジムカーナで2年生ながら選手となり、パイロンタッチはあったものの、それでも見事なタイムを残した宮下 敬さん(2年)です。

「子供の頃はクルマ好きでしたが、その後はサッカーに打ち込んでいたため自動車部に入るつもりはなかったんですね。でも学部の友人である仲田(現・自動車部同期)に誘われて自動車部の新歓に行き、当時の主将の横で同乗走行を体験させてもらった瞬間『うおおおおっ!』となり(笑)、入部を決めました。誘ってくれた仲田と一緒に日本一を目指しますよ。できますか、って? はい、もちろん。ただただ真剣に練習に打ち込めば、あのクルマならば勝てると思ってます。逆に、あのクルマで勝てないようじゃおしまいだと、僕はそう考えています」

「クルマが速ければ勝てる」というほど本番は甘くない

​OBから寄贈されたという競技車両のホンダ・シビック。先日のジムカーナで第1走を務めた森屋隆仁さんいわく、「諸先輩方とのつながりも中央大学の強さの理由」とのこと。
部室には数々のトロフィーとともに、平成26年度全日本学生ジムカーナ選手権大会優勝の表彰状が飾られていた。
昨年の苦いエピソードを語ってくれた松本百百太さん(左)。下級生の成長を重視する中央大学だが、上級性も日々成長しているのだ。
先日のジムカーナにて、選手とマシンをコースへと送り出すメンバーたち。奪還を目指す全日本年間総合杯の行方は、11月に行われる自動車運転競技選手権大会で決定する。

ところで、宮下さんの発言にある「あのクルマならば勝てる」という「あのクルマ」とは一体どんなモノなのでしょうか?
「今から7年ぐらい前にOBの方から寄贈していただいたクルマなんですが」

と答えるのは前出の副将、多田康治さん。

「学生レベルを超えたお金をかけていろいろと仕上げられているクルマであることは確かです。とにかくエンジンがすごい。でもハコ(ボディー)がかなり老朽化してきているため、来年は別のシビックにエンジンを移植する予定です」

そこまですごいエンジンだということは、もしかして過日の全日本ジムカーナで多田さんが勝てたのも半分以上はこのクルマのおかげ?

「や、それはありません(キッパリ)。……確かに、試合前にデモランを行った全日本クラスの方以上のタイムを出せたのは、クルマのおかげです。当然ですがあの方たちのほうがわたしより断然うまかったので、同じクルマならば、全日本クラスの方のほうがわたしより圧倒的に速かったでしょう。でも学生同士のレベルであれば、クルマはさほど関係ないんですよ。中大のクルマに乗りさえすれば誰でも速く走れるというものではありません。そこに関しては、自分の努力や練習量に自信を持っています」

実際そんな素晴らしい試合車であっても、昨年の中大はスピード競技で結果を出すことができませんでした。マシントラブルにより完走できなかったからです。

「僕の整備がゴミだったんですよ」と自嘲気味に語るのは、主務兼車両担当の松本百百太さん(4年)。

「僕自身が担当する箇所はきちんとやっていたつもりでしたが、周囲や下級生への指示というものがまったくできていなかった。で、いざ車両が壊れると『なんでココやってないんだよ!』と文句を言うだけで。……責任感みたいなものがなかったんですね、今にして思うと」

しかし今年の松本さんは違う模様。多田副将が語ります。

「去年のコイツは整備というか人間性がほんとアレでしたが(笑)、今年は整備のリーダーとして安心して任せることができます。人間として成長したんだなぁと思いますよ」

中央大学自動車部に全体として漂うのは、その種目の強豪校ならではの厳しさと、同時にある確たる自信やプライドのようなもの。それは、半端な者にとってはやや大変な空気感かもしれませんが、本気で何かを求める者、自分を磨いてみたい者にとっては最高の環境といえるでしょう。そんな環境に身を置いてみたいと考える入学志望者は来年春、ぜひとも多摩キャンパスの自動車部ガレージをのぞいてみてください!

(文=谷津正行/写真=ダン・アオキ)


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[ガズー編集部]