ロータリーエンジンの始祖、マツダ・コスモスポーツを31年間乗り続けるオーナー

マツダのロータリーエンジンの系譜はここから始まった。1967年に世界で初めて実用車として量産ロータリーエンジンを搭載したのがこのマツダ・コスモスポーツだ。なお、世界初のロータリーエンジン搭載車は、ロータリーエンジンを生み出した企業でもあるNSU社が1964年に発売したヴァンケルスパイダーとなる。

NSU社はヴァンケルスパイダーの次に「Ro80」というロータリーを搭載したセダン車を発売したが、トラブルが続出。その後、フォルクスワーゲン社に吸収され、ロータリーエンジンを搭載したモデルはここで潰えてしまう。しかし、マツダはその後もロータリーエンジンの火を絶やすことなく、ついにはル・マンで栄冠を勝ち取ったことはもはや周知の事実だろう。

オーナー氏がこのクルマを手に入れたのは1985年。つまり、約31年も同じクルマに乗り続けていることになる。コスモスポーツを所有する以前はRX-7を所有し、すっかりロータリーエンジンの虜となっていたそうだ。あのRE雨宮がチューニングしたマツダ・RX-7に乗せてもらった際に、ロータリーエンジンの持つポテンシャルに驚いたという。やがて自然吸気のロータリーエンジンを味わいたいという感情が芽生え、かねてよりコスモスポーツのスタイルに魅力を感じていたときに偶然目にする機会があり、一気に心を動かされたという。
やがてコスモスポーツを探し始めたものの、当時は状態の悪い中古車が多かった。当時RX-7の上級グレードの新車を300万円で買うことができた時代。コスモスポーツの相場は150万円前後だったそうだ。現在の感覚からすると、コスモスポーツが150万円前後で手に入れることができたのは、もはや衝撃的としかいいようがない。

結果として程度の良い個体を手に入れることができたものの、修理が必要であることに変わりなかった。購入後から2年ほどは、走るよりも、修理している時間の方が長かったそうだ。その後、さまざまなトラブルを解消していくうちに少しずつ安心して乗れるようになっていったというが、購入から5年程度はトラブルの連続だった。結果的に、燃料タンクやデフ以外はすべて手を加えたという。

車内やエンジンルーム内はもとより、クルマのあらゆる部分が美しく磨かれている状態で、クルマに対するオーナー氏の熱意と深い愛情が伝わってくる。フルオリジナルを保っているこの個体なのだが、部品の入手はやはり難しいそうだ。この状態を保つために、これまでドナーとして2台のコスモスポーツを手に入れたという。

単に修理が必要といっても特殊なクルマゆえ、技術や色々なノウハウは、多くの先人から助言を得たという。また機械工学や電気工学といった分野も独学で学び、今では車検整備に相当するレベルであれば自らこなしてしまうという。しかし、マツダとの関係性を築き続けるために、車検そのものは馴染みのディーラーにコスモスポーツを託している。

購入当初はこれほど長く乗るつもりはなく、2年ぐらいで壊れてしまうだろうと考えていた。しかし、ドライブすることの楽しさなどを味わい、今日まで所有するに至っている。コスモスポーツのような往年のロータリーエンジン搭載車が、何十年経ってもこうして元気に走る姿を見せることで、ロータリーエンジンは壊れやすい、といったマイナスなイメージを払拭したいという使命をオーナー氏は強く感じているそうだ。

ロータリーエンジンというのはマツダのアイデンティティであるが、現在のラインナップにはロータリー搭載車の姿はない。アメリカのクルマがデメリットを抱えながらも、古典的なOHVの大排気量V型8気筒エンジンに拘り続けているのは、単純に数値では表せないロマンがそこにあるからだろう。より高性能を求めるならばこの形式に拘る必要はないのだから。ロータリーエンジンも同様に、そのロマンに魅せられ、復活を待ち望んでいる人々が世界中にいる。そしてこの瞬間も、世界の誰かがロータリーエンジンの火を灯し続けていることを忘れてはならない。
※掲載車両:1968年式 マツダ コスモスポーツ

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]