累計生産台数100万台突破!ギネス世界記録を更新しつづける、歴代マツダ ロードスターの魅力

1989年は、日本の自動車業界にとってヴィンテージイヤーであった。トヨタ・セルシオの誕生、日産・スカイラインGT-R(R32)の復活、同じくフェアレディZ(Z32)の華々しいデビュー等々。いずれも、いまだに現役として街中で見掛けるモデルばかりだ。そして、同年に誕生したユーノス・ロードスターの存在も忘れてはならない。

ロードスターの登場によって、安価で購入できる2シーターオープンカーというジャンルを見事に復活させ、世界各国の自動車メーカーがこれに追随するべくライバル車を次々に投入したことは知っての通りだ。それでも、ロードスターの存在感は色褪せなかった。2011年に累計生産台数が90万台を達成した際にはギネス世界記録に認定された。そして2016年には100万台を突破し、現在も記録を更新している。

マツダは、現行ロードスターのハードトップモデルにあたる「MX-5 RF」の日本初披露の場所を、毎年5月下旬に長野県軽井沢町で開催される「ロードスター軽井沢ミーティング」に選んだ。ロードスター軽井沢ミーティングは、2,000人を超える来場者と1,000台を優に超える歴代ロードスターが全国から集結する、世界的に見ても一大イベントだ。まずは熱狂的なロードスターファンにお披露目したいという、マツダの粋な計らいなのかもしれない。数ある日本車の中でも、ロードスターが多くのユーザーに深く愛されているという事実をマツダ側も熟知していることは間違いない。

そんな唯一無二の存在であるロードスターの歴代オーナーは、自分の愛車や仲間たちとどのように接しているのだろうか。月に一度、空いている早朝の街中を歴代ロードスターでクルージングするオーナーたちにその心境を訪ねてみた。

初代 マツダ・ユーノス ロードスター VR Limited コンビネーションB(以下、NAロードスター)

手に入れて約5年というNAロードスター。1995年末に発売された限定モデルだ。以前はNBロードスターを所有していたというが、その間もNAロードスターを探していた。あるとき、インターネットオークションでこのクルマを見つけて、入札を繰り返しようやく手に入れることができた。

この個体には数奇な運命がある。後述するNBロードスターのオーナー氏がかつて所有していた個体そのものだ。その事実が判明するのは、手に入れてからしばらく経ってからの話だ。偶然、オークションで競り合った相手とも知り合う機会があり(その相手も同じ限定モデルを手に入れたという)、今や一緒にツーリングへ行く間柄だ。

一見するとノーマル然とした佇まいだが、裁断されたレザーをイギリスから取り寄せ、オーナー自ら内装を仕上げた世界に1台しか存在しない仕様だ。オフホワイトのレザーに、ボディカラーと同じグリーンのステッチが品良くまとまっている。メーターカバーやサンバイザー、Aピラーまでオフホワイトのレザーに張り替えてある(よく見ると、ステアリングコラムまでレザー張りだ!)。

このNAロードスターに乗るようになってから、仲間と走る機会が増えたというオーナー氏。この個体は一生モノと決めていて、いずれある名工にレストアしてもらうように頼んである。マツダが純正部品の再生産とレストアを示唆する発表も大歓迎とのことだ。

2代目 マツダ・ロードスター VS(以下、NBロードスター)

NAロードスターを2台乗り継ぎ、NBロードスターを手に入れたオーナー氏。1台目のVスペシャル、2台目となる前述のVR Limited コンビネーションB、そしてこの個体と、いずれもボディカラーはグリーン系だ。

結婚と同時に2台目のNAロードスターを購入したが、お子さんが5才になった時点で手放した。その後はホンダ・オデッセイに乗っていたが、東日本大震災が人生観を変えた。「やりたいことをやらなければ後悔する。乗りたいクルマに乗ろう」と考えるようになった。お子さんが中学生になったのを機に、NBロードスター(後期モデル)の購入を決意。あるときこの個体が売りに出ていることを知り、即決したという。まったくの偶然だが、このNBロードスターはお子さんと同い年だ。

このNBロードスターでは、NAロードスターでモディファイしたノウハウを活かし、ヴィンテージっぽさを意識させる部品を厳選して取り付けている。モディファイしているのは主に内装で、本来であればタンレザーのシートをブラック表皮に変更。シフトプレート部分のパーツは4カ月掛けて磨きあげたそうだ。

月に一度、歴代ロードスターオーナーたちが集う早朝クルージングは、オーナー氏が2012年に企画し、以来4年間欠かすことなく実施しているという。ロードスター軽井沢ミーティング2016のテーマは「笑顔 逢える。」だったが、自らそれを実践し、手塩に掛けたロードスターで仲間と走ることの喜びを共有する場を創り出している。この早朝クルージングを通じて親交を深めたロードスター乗りも多く、仲間たちも毎月の開催を心待ちにしている。

3代目 マツダ ロードスター RS(以下、NCロードスター)

これまで通称「鉄仮面スカイライン」など、日産車を中心に乗り継いできたオーナー氏。当時所有していた日産・スカイラインGT-R(R33)が盗難の被害に遭い、つなぎのつもりでNAロードスターを手に入れた。これがきっかけでオープンカーの魅力を知ることとなり、奥様が見つけたという当時6,000kmしか走っていない真紅のNCロードスターに乗り換えた。

NAロードスターならではの走りの感触が懐かしいと感じることもあるそうだが、このNCロードスターは奥様との旅行の大切な相棒でもある。実用車としての快適性を重視しつつ、走りの楽しさを両立するなら断然NCロードスターだ。この個体に乗り替えてからは、高速道路の移動も至極快適だという。

ARRIVE製サスペンションキットとブラックにペイントされたワーク製ホイールが足元を引き締め、内装はシフトノブとハンドブレーキカバーをボディカラーと同色系のブーツを手に入れ、さりげなくコーディネートしている。

真横から見たフォルムがたまらなく好きだと語るオーナー氏。当初は屋根を開けて走ることに抵抗があったそうだ。しかし、気づけばオープンカーならではの開放感に魅了され、いつしか屋根を開けて走る時間が増えた。定年退職後は、奥様とこのNCロードスターで全国各地をドライブしたいと今から話し合っている。きっと一生の思い出となる旅行になるはずだ。

4代目 マツダ ロードスター S(以下、NDロードスター)

オーナー氏にとって、このNDロードスターは約20年振りの愛車となる。あるとき、NAロードスターに乗る機会があり、オープンカーならではの気持ちよさと、軽快な走りにすぐに魅了された。そのタイミングでロードスターが新型となり、その佇まいに惚れ込んだ。迷った末、予約開始と同時にオーダーを入れた。

以来、元々はインドア派を自認するオーナー氏は、夏場は山沿いを、冬場は海沿いの道を毎週のようにドライブするようになった。オドメーターも、納車されて1年数ヶ月にも関わらず、すでに2万キロ目前という距離を刻んでいる。久しぶりのMT車だったが、すぐにクラッチ操作やシフトチェンジの感覚が戻ったという。

NAロードスターの走りのイメージもあり、愛車にあえてもっとも軽量なグレードである「S」を選んだのもこだわりだ。現在はノーマルのままだが、タン色の幌やボディと同色のホイールに交換することにも興味があるそうだ。

フロントマスクが吊り目なので、1人で走るときはジェントルな走りを心掛けているというオーナー氏。仲間と走るときは、他のロードスターオーナーの走り方を見て、グループで走る際のセオリーやマナーを学んでいるという。最近、ケータハム・スーパー7も気になるそうだが、当面の目標は「目指せ10万キロ」とのことだ。

今回の4人の歴代ロードスターオーナーは、お互いの愛車に対して敬意を払っている。本心ではこの中の誰もが「俺のロードスターが最高」と思っているだろう。しかし「仲間のロードスターも最高」。そんなスタンスが印象的だった。ロードスターには不思議な引力がある。人と人を結びつけ、笑顔にする力がある。こんな素晴らしいクルマが日本という国で生まれ、すでに100万台以上も生産され、いまも世界各国の道を走っている。実に誇らしいことではないか。

余談だが、先日、マツダがNAロードスターのレストアおよび部品の再生産を計画しているとの発表があった。純正部品の調達と確保に苦しんでいる多くの日本車の旧車オーナーにとっても、かなりインパクトのあるニュースだったはずだ。これが実現すれば快挙と言っていいだろう。ビジネスとしては旨みがないかもしれないが、各自動車メーカーが旧車の部品の再生産に踏み切る契機となってほしいものだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]