20才のオーナーが惚れ込む、ランボルギーニ ムルシエラゴのオレンジを纏った最終型トヨタMR2

「MR2にオレンジ色の設定があっただろうか?」

率直に言って、まずこの個体に惹かれたのはその点だった。しかし、暗闇の中に浮かび上がるオレンジ色のトヨタ・MR2(SW20)は、単に目立つボディカラーというだけではなく、どこかオーナーの愛情が感じられるオーラを放っていたのだ。

SW20型のMR2がデビューしたのは1989年。初代トヨタ・セルシオや日産・スカイラインGT-R(R32型)、ユーノス・ロードスターなど数々の名車が誕生した、日本の自動車史に残る年だ。2シーターのミッドシップスポーツカーとして人気を博した先代モデルであるAW11型はボクシーなデザインだったが、SW20型は一転して流麗なフォルムを得た。当時、このクルマにどことなくフェラーリのイメージを重ねていたファンも多いのではないだろうか。幾多の仕様変更を繰り返し、1999年に生産終了となるまで、結果として10年間も製造・販売されたロングセラーモデルとなった。

パーキングエリアにクルマが停まったタイミングを見計らい、オーナー氏に声を掛けてみた。思っていた以上に若いことにまず驚いた。聞けば何とまだ20才だということで、俄然興味が湧いた。

高校卒業後、18才で社会人になったというオーナー氏。実家は自動車関連業を営み、父親はトヨタ・スープラ(GA70型)に乗っていたというから羨ましい限りだ。人生初の愛車もトヨタ・MR2(SW20型)だった。このときはスーパーホワイトIIにペイントされたGリミテッドを購入。つまりNAエンジンのグレードだ。指名買いでMR2を手に入れたというわけではなく、オーナー氏の予算内で程度の良かったクルマが「たまたま」MR2であり、最初の愛車となったのだ。

しかし悲劇が起きた。居眠り運転のクルマにぶつけられ、このクルマは廃車となってしまったのだ。そんな失意の最中に出会ったのが現在の愛車、つまりは2台目のMR2というわけだ。今回は最終型のGT。NAからターボモデルに格上げとなった。メンテナンスが行き届いた個体で、さらに当時人気のあったTバールーフモデルではなく、ノーマルルーフという点も気に入ったという。

購入してまだ3ヶ月しか経っていないというオレンジ色のMR2。純正色の正式なボディカラーは「オレンジマイカメタリック」であり、通称5型と呼ばれる最終モデルにしか設定されていない希少色だ。しかし、この個体は純正色のオレンジマイカメタリックとは色味が異なるようだ。本来のボディカラーよりはもう少し色味が濃いのだ。このオレンジはどちらかというと明るい色になる。オーナー氏曰く、このオレンジは、ランボルギーニ・ムルシエラゴのボディカラーとのことだ。正式名称は「ARANCIO ATLAS(アランシオ アトラス)」というらしい。しかもオレンジパールだ。

前後ホイールはよく見ると銘柄が異なる。フロントはAZ-sports製、リアはNISMO製だが、同色にペイントされ、デザインも似ているため違和感がまったくない。マフラーはHKS製サイレントパワーマフラーが装着されている。オーナー氏が購入後にモディファイしたところは、減りが早いというリアタイヤと、父親から譲り受けたという脱着可能なMOMO製のステアリング「RACE」、そして父親の愛車だった70スープラから受け継いだブーストメーターとデジタルメーターだという。父親が愛用した部品を成人した息子へと託す。オーナー氏の父親の心境も聞いてみたくなった(きっと喜んでいるに違いない)。

あくまで現オーナー氏の推測であるが、歴代オーナーの誰かが初代MR2にあたるAW11型が好きだったのではないか?とのことだ。フロントおよびリアガーニッシュのエンブレムをはじめ、髄所にその気配が感じられるという。リアガラスに「HORNET」社および「CARBOY」誌のステッカーが貼ってあるあたりも、愛車を大切に乗り、それなりにキャリアを積んだ自動車愛好家が所有していた個体ではないかとのことだ。確かに、この推測は当たっているように思える。

オーナー氏はこの個体を手に入れてから、サーキットやジムカーナ走行を楽しむようになった。自分の走りがタイムや順位で見極められるところに惹かれているという。競技に参加することで、日々そのテクニックに磨きを掛けるようになった。また、MR2の生息数が減りつつあることも自覚している。それだけに、無理をしてクラッシュさせないよう気をつけているそうだ。そんなオーナー氏の真摯な姿勢に頭が下がる思いだ。

すでに22万キロを走破し、まもなく23万キロを迎えるというこの個体。消耗品が壊れることも少なくないし、部品の欠品に悩まされることもしばしば。最高出力も、現在はカタログ値の245馬力には届かないかもしれない。それでもバケットシートが奢られた運転席に座り、短いシフトノブの手応えとセンタートンネルの高さからくる「包まれ感」がたまらなく気に入っているという。

20才のオーナー氏は、何気なく購入したはずのMR2の世界観にいつのまにか魅了されているようだ。と同時に、愛車を労りリスペクトする姿勢は、歴代のどのオーナーにも負けていないのではないか。そう遠くない未来、ランボルギーニ・ムルシエラゴのオレンジを纏ったMR2とそのオーナーが、モータースポーツの世界で名を馳せるかもしれない。そんな予感が現実になるように思えてならない清々しい出逢いであった。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]