仲睦まじい夫婦が選んだのは、世界的にも希有なロータリーエンジンを積んだオープンカー、マツダ・サバンナRX-7カブリオレ(FC3C型)

世の中にはさまざまな種類の「贅沢」があるように思う。

美食を極めるため、遠く離れた場所にある土地まで愛車を走らせたり、高価だけれど仕立ての良い革靴を購入して、補修を繰り返しながら履き続けるのも素敵だ。これがクルマなら、ボディカラーはもちろんのこと、内装の色やシートの素材、果てはステッチの色や太さまで指定可能なモデルも存在する。もし、青天井にお金を掛けられるのであれば、コーチビルダーに依頼して、世界に1台しか存在しない仕様を創ることも不可能ではない。このように、贅沢を極めようとしたら際限がなくなってしまう。

もちろん、大金を掛けたり、豪華さを追求することだけが贅沢だとは思わない。大切なことは「本人が満たされた気持ちになれるか否か?」。これに尽きるのではないだろうか。単なる自己顕示欲や、他人からの承認欲求を満たすような贅沢は、所詮はうわべだけの「見栄」を追求しているにすぎない。それでは永遠に真の贅沢を知ることはできないし、その道具にされてしまっているモノや、創り手たちにも失礼ではないだろうかとさえ思えてくる。

パーキングエリアに、マツダ・サバンナRX-7カブリオレ(FC3C型/以下、RX-7カブリオレ)が佇んでいた。

このクルマも、日本に生まれ、この国に暮らしているからこそ味わえる「贅沢」のひとつであることに異論はないだろう。何しろ、世界的にも希有な存在であるロータリーエンジンを搭載したクルマのオープンモデルなのだ。

ご夫婦でドライブに来ていたという、このクルマのオーナーであるご主人に話し掛けてみた。年齢を伺って驚いた。まだ30歳という若いオーナーだったのだ。果たしてどのような経緯でこのクルマを手に入れ、所有しているのだろうか。

「実はこのクルマ、昨年手に入れたばかりなんです。自動車関連業の仕事をしている兄に頼んで、スポーツカーや2シーターのクーペモデルの出物を探してもらっていました。このRX-7カブリオレは、指名買いではなく、ノーマーク。本当に一目惚れでした。初めて見たとき、このクルマが輝いて見えたんですね。ほぼ即決でした。妻にもこの種のクルマを買うことは事前に伝えて許可を得ていましたが、RX-7カブリオレを選んだことは事後報告でした」。

RX-7カブリオレは、ロータリーエンジン搭載車発売20年を記念して作られたモデルだ。デビューは1987年。今から30年も前にこれほど端正なフォルムを纏ったモデルが存在していたことに、改めて驚かされる。1989年にマイナーチェンジを行い、1991年に後継モデルとなるアンフィニ RX-7(FD3S型)へフルモデルチェンジを果たした後も、FC3C型のRX-7カブリオレは継続して販売された。そして、1992年夏に販売されたファイナルバージョンを世に送り出した時点で生産終了となった。

オーナーが手に入れた個体は1989年式のRX-7カブリオレ。つまり、マイナーチェンジ後の後期モデルだ。ミッションは5速MT、ボディカラーはブリリアントブラック。購入時のオドメーターは8.4万キロだったが、現在は8.9万キロを刻んでいる。

かつては、漫画「ジゴロ次五郎(加瀬あつし原作)」の主人公の愛車だったことがきっかけで手に入れたという、日産・シルビア(S13型)を所有していた時代もあったそうだ。この個体は前期型だったが、手に入れたときから後期型のエンジンに載せ換えられ、走りを意識した仕様となっていた。しかし、結婚してからはホンダ・バモスに乗り換え、家庭を優先してきた。それがなぜ、再び2ドアクーペ、さらには屋根が開くRX-7カブリオレを選んだのだろうか?

「夫婦でドライブが楽しめるクルマが欲しかったんです。2人でドライブしていれば自然と会話が生まれます。それがオープンカーであれば、四季の移ろいや匂いを肌で直接感じ取ることができます。今回、勢いで手に入れたところまでは良かったんです。実際にはボディの状態が年式相応だった点や、過去のオーナーが内装にワンオフパーツを組み込んでいたところが気になりました。そこで、少しずつでも本来の姿に近づけようと決心しました」。

ご存知の通り、現在、ロータリーエンジンを新車で購入できるクルマは、マツダを含めてこの世には存在しない。そのため、確実にその絶対数が減りつつある。マツダがロータリーエンジンを搭載したスポーツカーの復活を示唆しているようだが、これが現実にならない限り、このまま過去の遺産となってしまう可能性も否定できない。しかし、2015年に開催された第44回東京モーターショーで最も注目を集めたのは、ロータリースポーツコンセプト「Mazda RX-VISION」だったと断言できる。多くのロータリーエンジンファン、スポーツカーファンが復活を待ち望んでいるのだ。この声はマツダで働く人々にも届いていると信じたい。

話を戻そう。オーナーは熱狂的なロータリーエンジン崇拝者ではない。しかし、手に入れたRX-7カブリオレに魅せられ、このクルマ本来のコンディションを取り戻したいと考えるようになった。それは、このクルマのメンテナンスを行う主治医も同じ考え方だったようだ。双方の意向が一致し、マツダから現在でも購入可能な部品を取り寄せるなど、少しずつこのクルマ本来の姿を取り戻しつつある。

外装は、ADVAN製のModelT7ホイールが目を引くくらいで、見た目は当時の面影を残している。それは内装も同様で、レカロ製バケットシートやJURAN RACING製のステアリング、2DINサイズの枠に収められたカーナビが交換されているなど、モディファイは最小限に留められている。エンジンルームも、ストラットタワーバーやエアクリーナーが交換されている程度で、純正インタークーラーも健在だ。

オーナーはかつて2輪のレーサーとしてキャリアを積んでいたことがあるのだという。ロータリーエンジンには、2ストロークエンジンを思い起こさせる振動や音色など、相通ずるものを感じ取っているようだ。「オリジナルに戻す作業と並行して、エンジンをオーバーホールして、心臓部をリフレッシュさせました。思っていたほど燃費も悪くないですし、エンジンを高回転まで回したときは本当に気持ちがいいですね」。

ロータリーエンジンは、加速は鋭いが燃費が悪く、加速時のフィーリングがモーターみたいだと揶揄する人もいる。その一方で、同クラスの排気量のレシプロエンジンを搭載するクルマと比較して、軽量かつコンパクトでありながらパワーがある。さらに、チューニングされたロータリーエンジンをトップエンドまで回したときの音色は、レシプロエンジンでは奏でられない甲高さだ。ロータリーエンジンは、あきらかに人を魅了する何かを秘めたエンジンといえる。

「今後も欲しいクルマが他にあるかもしれませんが、このRX-7カブリオレを手放すことは考えられません!エコカーが支持される昨今ですが、このクルマが時代とともに忘れ去られて欲しくないのです。これほどドライビングが最高に楽しめる、完成度が高いクルマをもっとたくさんの人に知って欲しいと思います。それと実は、オリジナルに戻しつつも、ガルウィング化に憧れていまして・・・。ボディ剛性が落ちるから、長く乗るつもりならやめた方がいいと主治医にも言われています」。

オーナーが熱意を秘めつつも、穏やかに話す様子をにこやかに見つめていた奥様にもRX-7カブリオレの印象について伺ってみた。「このクルマは乗り心地がいいですね。助手席も快適ですよ!」とのことだった。このご夫婦にとって、もはや、なくてはならない存在となりつつあるRX-7カブリオレ。旅行を兼ねて、軽やかなロータリーサウンドを響かせて全国各地をこのクルマでドライブするのだろう。最後にオーナーがこんなことを語ってくれた。

「もっと、クルマ好きの人たちと語り合いたいんです。見掛けたら、ぜひ声を掛けてください」とのことだ。識別ポイントは、ブリリアントブラックのRX-7カブリオレ、後期モデル。見た目はほぼフルノーマルだが、ADVAN製のModelT7ホイールが目印になるはずだ。街中や高速道路のパーキングエリアで見掛けた際は、ぜひこの仲睦まじいご夫婦に話し掛けてみてほしい。きっと、笑顔で応えてくれるに違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)


[ガズー編集部]