「マークIIに、一生乗る」。オーナーの人生と走り続けるトヨタ・マークII GTツインターボ(GX71型)
80年代に起こったいわゆる「ハイソカーブーム」は、日本が豊かになった象徴のひとつだった。各日本車メーカーから高級志向のクルマたちが続々と登場し、「女子大生ブーム」が訪れた時期とも記憶が重なる。バブル景気の恩恵にあずかり、女子大生というブランドがもてはやされたなか、ハイソカーは強力な“モテアイテム”として人気を博した。
1984年11月に発売された、5代目にあたるトヨタ・マークⅡ「GX71型」は、コロナの名が外れた「マークII」の名を冠する最初のモデルとなる。エンジンは、水冷直列6気筒ツインターボを搭載し、さらには5速MT仕様もラインナップされていた。現代では新鮮に感じてしまうが、当時、MTモデルは珍しくなく、走りを楽しみたいユーザーにも愛された。兄弟車のチェイサー、クレスタとともに「3兄弟」と呼ばれ、ハイソカーブームを牽引した。
今回は、そんな5代目トヨタ・マークII(以下、マークII)を2台にわたって乗り継いでいるというオーナーをご紹介したい。
オーナーの個体は、オリジナルを徹底的に保つ美しい外観だ。オドメーターは22万8000キロを刻んでいるという。
「この個体の走行距離は、22万キロを超えました。私が手に入れてからの走行距離は約10万キロでしょうか。このマークⅡは、1987年式のGTツインターボ(純正5速MT)です。手に入れて今年で10年目になります。実はこの前にもATをMTに換装したマークIIに乗っていたのですが、事故で失ってしまって…。どうしてもまた乗りたくなり、「純正の5MTモデル」をショップに探してもらいました。そうして奇跡的に見つかったのがこの個体なんです」。
免許取得からS13型日産・シルビア、130系V8トヨタ・クラウン、スズキ・アルトワークスなどを乗り継いできたオーナーは現在37歳だという。ハイソカーブーム当時はまだ幼かったことを考えると「ハイソカーブームをリアルタイムで見てきた世代」ではないはずだが、このマークIIに惹かれた理由とは何だったのだろうか?
「マークIIは、同級生の親に乗せてもらった思い出をきっかけに、ずっと憧れていたクルマでした。ただ、マークIIに乗るならハードトップだと決めていました。そしてターボの純正5MTであること、これは譲れなかったんです。専門のショップで探してもらい、奇跡的に見つかったので購入しました。下取りで入ってきた個体だったのですが、見つかるまで1ヶ月近く掛かりましたね」。
1台目のマークIIはAT車だった。MTに換装すると、AT用のインジケーターランプが残ってしまう。どうしてもそれが納得できなかったという理由もあり、生産時から純正の5MTを搭載しているモデルを探したという。5代目マークⅡも、誕生から30年以上の年月を経ているが、オーナーのクルマはコンディションも良好で、一見故障知らずのように見える。
「よく壊れますよ(笑)。クラッチは3回も直しましたし、足廻りもヘタって交換。エアコンも壊れました。ブレーキのマスターシリンダーが、経年劣化により穴が空いてオイルが漏れ出したこともありましたよ。そうそう、昨年のイベントではパワステのホースが抜けてしまい、配管ごと修理しました」。
部品はネットオークションでストックしているという。その他の部品は、主治医のところにワンオフで製作を依頼しているそうだ。
ここまでオリジナルを保っていると、モディファイを施しているかどうかの質問は愚問というものだが、思いきって尋ねてみた。
「プラグのコードとペダルくらいかな。あ……そういえば一時期、社外のホイールを一度履かせたのですが、純正に戻しましたね」
オリジナルの外観をほぼ完璧に保ちつつ、ホイールだけが社外品では、統一感という点においてオーナーのこだわりを満たせなかったのかもしれない。それだけオーナーのマークIIは「オリジナル度が高い貴重な個体」といえるのではないだろうか。
今回のインタビューでも、オーナーが苦労している点はパーツの調達だった。古いクルマは、数が減ることはあっても増えることはない。現存してこその「名車」である。クルマ文化を守っていくうえで最も重要なことが「パーツ供給」だと再認識させられた。
そして確信したのだが、古いクルマを愛する若いオーナーは確実に増えている。日本特有のクルマ文化が生んだ名車を、クルマよりも若い世代がその魅力に気づき残していく。それは決して「懐古主義」ではない。時代を超えて新しい世界を開くものだ。新しい価値観で愛することが、クルマ文化を守ることにつながるのではないだろうか。
そんなオーナーたちの愛を、メーカーは支えなくてはならないと思う。一部の車種ではパーツ供給が再開、リフレッシュサービスも行われている。喜ばしいが、もっとさまざまなモデルのオーナーが抱く深い愛情を知り、メーカーとしてできうる限り、その愛に応えるべきなのではないかと感じるのだ。
最後に、このクルマと今度どう接していきたいかオーナーに伺ってみた。
「一生乗るつもりです。これからも、ずっと」。
シンプルな言葉から、愛車に対する深い愛情はもちろん、オーナーの覚悟も伝わってきた。マークIIは今日も、オーナーの想いを乗せて走り続けるだろう。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
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