ウルトラセブン放送開始から51年!ポインター号(TDF PO-1型)はいつの時代も未来を感じさせるメカだ

ウルトラマンシリーズといえば、もはや日本男児で知らぬ人はいないのではないかと思われるほど幅広い世代に愛されている。今からちょうど半世紀前、1967年から68年に掛けて、日曜日の夜7時というゴールデンタイムに放映されていたシリーズが「ウルトラセブン」だ。

映画やドラマ・特撮・アニメなどの劇用車に魅せられ、忠実に再現してしまうオーナーはしばしば存在する。しかし、今回のオーナーほど情熱を持った人は限られるかもしれない。このポインター号に対する想いをじっくりと伺った。

「このクルマは、ウルトラセブンの劇中に登場したポインター号です。ナンバーを取得してから今年で26年経ちました」

ポインター号といえば、オーナーが語ったとおり、ウルトラセブンの劇中で地球防衛軍の警備車両として活躍したメカだ。このメカをデザインしたのは、故・成田亨氏。成田氏は、ポインター号に留まらず、初期のウルトラマンや怪獣などのデザインも手掛けている。あのバルタン星人を生み出したのも成田氏だ。武蔵野美術大学時代には絵画や彫刻を学んでいたようで、デザイナーというよりは芸術家として捉えるべきなのかもしれない。

劇中でのポインター号は、1957年式クライスラー・インペリアルがベースとなっている。この個体は既に廃車となっており、この世には存在していないという説が有力だ。つまり、オーナーのポインター号は、劇用車を忠実に再現したレプリカということになるのだが、オリジナルやレプリカなどと論ずること自体が野暮というものだ。まずはポインター号を知ったきっかけから伺ってみることにした。

「現在、私は55歳です。初めてウルトラセブンを観たのは幼稚園くらいのときだったと思います。幼心に格好いいメカだなと思いました。当時は、YouTubeはもちろん、ビデオ録画やレンタルビデオなんてない時代でしたから、ウルトラセブンが再放送される度に夢中になって観ていましたね」

ここまではよくある話だろう。しかしオーナーは違った。

「日本SF大会(1962年〜)というイベントが開催されていまして、私も1980年代あたりから参加するようになったんです。そこで『自分にも何か面白いことはできないか』と考え、当時、所有していたマットビハイクル(帰ってきたウルトラマンの劇用車として活躍したメカ。ベースはマツダ・コスモスポーツ)に乗って会場へ行きました。実は、私より先にポインター号を製作した方がいらっしゃって、感銘を受けましたね。その方とも実際にお会いできて、意気投合しました」

では、ポインター号を実際に造ってみようと思ったきっかけは何だったのだろうか?

「その後、仲間内でポインター号のベース車となっている1957年式クライスラー・インペリアルを探そうという話になり、ツテをたどって、アメリカから1958年式の同型車を輸入することになったんです。当時はインターネットもない時代でしたが、数ヶ月で見つかったんですね。そのまま乗ってもいいかな…とも思ったんですが、現地からクルマが届いてみると、1957年式とほとんど違いがなく『これならポインター号が造れるかもしれない』ということになり、言い出した本人が責任を持つことになりました(笑)」

劇中のポインター号のベース車に限りなく近い個体が手に入ったとはいえ、大変なのはここからだった。

「設計図なんてありませんから、ポインター号の模型をプロモデラーの方に造ってもらい、これをベースに実寸サイズで再現していくことにしたんです。再現するにあたり、私1人の主導というわけではなく、仲間内で相談しながらポインター号を再現していきました。住まいから離れた工場で製作していたので、私が確認できないときは仲間にチェックしてもらったり…。結局、製作に半年、ナンバーを取得して公道を走れるようになるまで半年。試行錯誤の末にポインター号が完成したときは、嬉しかったというよりも疲れ果てた…というのが本音でしたね(苦笑)」

こうして、可能な限り劇用車を忠実に再現したポインター号が誕生した。イベント会場では、フロントウインカーの部分に機銃が備わる。これももちろんダミーだが、その道に長けている友人が作った紙製だとはにわかに信じがたいほどのクオリティだ。デザインされたのは半世紀も前のはずなのだが、21世紀の現在でも古さを感じさせないほど未来感にあふれている。

多くの仲間に支えられているオーナーとポインター号…。実際にポインター号のオーナーとなってみて、オーナーの生活に変化はあったのだろうか?

「このポインター号を通じて知り合った方、出会った方がたくさんいらっしゃいます。ウルトラセブンの俳優陣や、ポインター号をデザインした成田亨氏にもお会いすることができました。ポインター号に乗ってロケ地巡りもしましたし、これは現在も継続中です。50年も経つと、ロケ地がなくなってしまうことも珍しくありません。なるべく多くのロケ地をまわりたいと思います」

このクルマ(というよりメカというべきか?)は、あきらかにポインター号なのだが、完成した時点で35年落ち、現時点では60年以上前のアメ車だ。正直言って気になるのは、これまで、どれほどのトラブルに見舞われたのだろうか…。

「もう、トラブルの連続ですよ(苦笑)。走り出してすぐにミッションが壊れてオーバーホールです。アメリカに送っても直る保証がないから、部品を取り寄せて日本で組み上げました。当時はインターネットもありませんし、部品の取り寄せ方も分からない。どうにか取り寄せてみたら、品番は合っているのに部品がつかないというトラブルは日常茶飯事でした。壊れたら直す、そうすると他の部品が壊れる。そしてまた修理する…。最近でこそ落ち着いてきましたが、思い返せば26年間、その繰り返しでしたね。意外に思われるかもしれませんが、26年間で1〜2万キロしか走っていないと思います。不具合を一度に直せばよいのは分かっていますが、経済的な負担が大きいのと、同人誌を作成しているので、ネタがあった方がありがたい面もあるんです」

苦労の末に完成したポインター号は確かに魅力的だが、数々のトラブルに見舞われてきたことも事実だ。正直、もう手放してもいいやと思ったことはないのだろうか?

「これが1度もないんです。ポインター号が壊れたら直す方法を考えます。妻と知り合って結婚したのもポインター号が縁ですし、もはや家族同然の存在です。子どもの具合が悪くなったら病院に連れて行きますよね?その感覚と同じです。それに、ピンチになると誰かがカンパしてくれるんです。妻は、人のクルマにお金を出してもらえることが信じられないみたいですけれど。仲間内からは『ポインター教のご本尊』と言われています(笑)」

オーナー家族はもちろん、多くの人に愛されているポインター、もっとも気に入っている点を挙げてもらった。

「アメ車特有の乗り心地ですね。長距離移動でも疲れません。いずれは手つかずの内装をきれいにしてあげたいんですけれどね。ただ…古いクルマなので、異音を早く感知したいですし、なるべくカーステレオの音を切っているんです。実は、当時とは別の個体になるマットビハイクル号(マツダ・コスモスポーツ)も所有しているのですが、こちらは車内がタイトなので大変です」

では、このポインター号でもっともこだわっているポイントを伺ってみた。

「テールランプです。日産セドリック(130型)のものを流用しているらしいのですが、旧車イベントなどに足繁く通ってようやく手に入れることができたんです。このランプがないとポインター号として成立しませんから。今のようにインターネットオークションがなかった時代なので、手に入れるのも大変でしたね。もちろん、いざというときのために予備も持っています」

最後に、今後愛車とどう接していきたいかを伺ってみた。

「現存しているポインター号は、私の知る限りではこの1台だけらしいんです。命続く限り乗り続けます。手放したら仲間に怒られますし・・・。私には息子がいるのですが、いずれは彼に引き継いでもらいたいですね。息子はイベントや主治医のところにも同行してくれますが、今のところ、仮面ライダーの方が好きみたいで…。主治医も『将来、キミが乗ることになっても面倒みるよ!』と言ってくれています」

取材中、道行く人がポインター号を観た瞬間、びっくり仰天している光景を何度も見かけた。オーナーと同世代くらいの男性が「写真を撮らせてもらってもいいですか?」と話し掛けてきて、夢中で携帯電話のカメラのシャッターを切っていた。さまざまな質問にもていねいに答えているオーナーの誠実な人柄を垣間見た気がする。

1台のクルマがオーナーの人生を変える。クルマを単なる道具にしている人にとっては理解しがたいかもしれない。しかし、本当にそういう出会いがあると断言できる。オーナーの人生は間違いなくポインター号によって変わったはずだ。オーナーはもちろん、家族や友人、多くのファンに愛され、ポインター号は時代を超えて生き続けていくに違いない。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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