トヨタ シエンタ クロスレビュー ~島下 泰久~

楽しい時間が過ごせる一台

シエンタの販売が素晴らしく好調というニュースを聞いて、何だかうれしくなった。おーっ、皆この良さを分かってくれているんだ! と、まるで自分のことのように。何しろこのデザイン、サイコーだと思ったから。

正直言うと、もっと拒絶されちゃうのかな? とも思っていた。ライトからバンパー下側を通って反対側のライトまでつながる前後のガーニッシュや、サイドウインドゥの輪郭なんて、とてもインパクトが大きい。でも、これらのおかげでシエンタ、とっても躍動的に見えるのだ。楽しいのは、フレックストーンと呼ばれる2色のコーディネート。けれどフォルム自体きれいだから、落ち着いた色を選べば意外なほどシックにまとめることもできる。

インテリアもデザインはやはり凝っていて、見せ場もたくさん用意されている。特にお気に入りなのは、助手席アッパーボックスのふたの隙間から、オレンジに塗られたキルティング模様の内張りが見えるという演出。コレには思わず、意味もなく開けたくなってしまう。コンビニフックもそう。思わずひっくり返して、出してみたくなる。
決して高級というわけではないけれど、質はちゃんとしていて、見ても触れても心地いい。トヨタのインテリア、最近サエてるなと思わせる。

見てくれだけじゃなく機能的にも優れている。スライドドアはステップ高が低くて乗り込みがしやすいし、2列目だけでなく3列目も、身長177cmの筆者が不満なく座っていられる余裕がある。かと思えば、この3列目は使わない時、2列目の座面下にきれいに収めて、広いラゲッジスペースを確保することもできる。とてもよく考えられているのだ。

このシエンタ、3列シート車としては最小の部類なのに、どこかにしわ寄せがいくこともなく、シートもラゲッジスペースもしっかり使える。こういう空間設計の巧みさは、まさに日本車らしい。面積は小さいけれどフレキシブルに使えて快適。まさに狭小住宅という感じである。

しかもステアリングを握る役目になっても、シエンタは損したという気分にはさせない。カチッとしたボディにしなやかに動くサスペンションのおかげで、乗り味は思いのほか上質で、速度を上げていってもとても落ち着いている。

パワートレインは2種類。ハイブリッドは、燃費の良さもさることながら、電気モーターの強力なトルクによる出足の良さとスムーズな加速が好印象。実はガソリンモデルに乗ったのはその後だったので、見劣りしてしまうかなと思いきや、軽やかな吹け上がりとリニアなパワーの立ち上がりで、こちらは爽快さが際立つ走りを披露してくれた。いやいや、これはどちらも悪くない。

シエンタはファミリーユースでも、あるいは若いカップルや老夫婦が乗っていたって、どれもサマになるし、活躍してくれる。きっと一緒に楽しい時間が過ごせる一台だろう。遊びに出掛けるのはもちろん、近所に買い物に行くのだってテンションが上がりそう。いや、この内外装デザインである。どこも行かない日に洗車をするのだって、シエンタならきっと楽しめるんじゃないだろうか?

(文=島下 泰久)

島下 泰久(しました やすひさ)

1972年神奈川県生まれ。走行性能だけでなく先進環境・安全技術、ブランド論、運転そのもの等々クルマを取り巻くあらゆる社会事象を守備範囲に執筆している。『間違いだらけのクルマ選び』など著書多数。先進環境、安全技術など未来のモビリティを探究するサイト『サステナ』( http://sustaina.me )を主宰する。

[ガズー編集部]