レクサスNX200t 試乗レポート 驚きの走り

RXの弟分として、待望のデビューを果たしたプレミアムコンパクトSUV、レクサスNX。このブランド初となるターボエンジンを搭載した、200tの実力を試した。

デザインも技術も出し惜しみしない

NXの兄貴分であるRXを、レクサス自身は「世界のプレミアムクロスオーバーSUVのパイオニア」と誇らしげに表現する。確かにそのとおりだ。ただ、RXを後から猛然と追い上げたドイツブランドは、いつしか3種以上のクロスオーバーを用意するのが普通になっている。

対するレクサスは、これまで基本的にRXのみだった。パイオニアなのに……とツッコミを入れたくなるが、そこにはレクサスなりの事情がある。RXはBMWでいうとX5とX3の中間的なサイズと価格であり、その絶妙さゆえに今なおレクサスの圧倒的なドル箱であり続けているという側面もあった。だから、NXのサイズや性能、価格は、実に熟慮を重ねた感が強い。

結果的にドイツブランドのミドルクラスSUVと競合するサイズとなったNXは、世界の激戦区に最後発で投入されることになった。それだけに、デザインや要素技術に出し惜しみ感がまるでないのは好印象。どことなくロボットアニメをほうふつとさせるデザインも、欧米人から見れば、なるほど“クールジャパン”と好意的に受け入れられる可能性が高く、インパクトも強い。それでいて、ルーフラインは後席周辺が最高地点で、リヤオーバーハングも削りすぎない真面目なプロポーション。「カッコで買ったけど、使いづらくて……」といった後悔は、少ないのではないだろうか。

ホイールベースなどの基本パッケージにはトヨタブランドのハリアーとの共通点も見られるが、細ピッチ溶接(レーザースクリューウェルディングと呼ぶ)や最新の接着技術を多用したNXの骨格剛性は、もちろんハリアーとは別物だ。静粛性や細かな振動も見事に抑え込まれており、ステアリングは正確にしてリニア。ハリアーとの血縁関係を持ちながらも「よくぞここまで!」といううれしい驚きがNXにはある。

ハイブリッド的思想を取り入れたターボ制御

NXのパワートレインは、大きく分けて2種類ある。ひとつが、新開発の2.0リットル直噴ターボを積むNX200tである。200tはもうひとつのハイブリッドモデルNX300hに対して価格も少し安めの設定なのだが、面白いのはこの2つのパワートレインに明確なヒエラルキーがないことだ。加速性能などの純粋な動力性能は、わずかではあるが安価な200tのほうが高いのである。

実際の乗り味においても、ピックアップも含めた活発さでは200tが300hの上をいく。過給ラグは皆無ではないが、いわゆる“ドッカン”な感覚が不思議なほど薄いのは、「スロットル操作から必要なトルクを予測演算して、ギヤボックスを含めて統合制御する」というハイブリッド的な思想を取り入れたのが大きいのだという。車両重量(当然だが300hより軽い)から想像されるようにフットワークも総じて軽快であり、またヌケのいいサウンドもなかなかエンスージアスティックな音質で、200tは活発なSUVである。

NX200hも駆動方式はFFとAWDが用意される。2.0リットルターボは、トラクションコントロールをあえてカットすると、FFでは加速の瞬間にギャリッと路面をかくほどトルキーだ。その点、この豊富なエンジントルクを4輪にうまく配分するAWDでは、ほぼどんなシーンでも、そうしたヤンチャっぷりは息を潜めることになる。

こうしたハイパワーAWD用のシステムは“曲がり”をこれ見よがしに演出するタイプも目立つが、NXのそれは良くも悪くも、AWD感が薄い。なんの違和感もなく、また運転になんのコツも要さずに、ふと気づくと自然と走行ペースが速くなっている……というタイプである。

“F SPORT”は 別格のデキ

要素技術に出し惜しみのないNXは、フットワークチューンも多彩だ。最も高度なのはAVS(Adaptive Variable Suspension system)と名づけられた電子制御可変ダンパーで、減衰力をリアルタイムで変化させながら走るのは従来通りだが、その減衰力の可変ピッチが従来の9段階から一気に30段階という緻密なシステムになったのが最大のキモだ。

AVS付きのNX200tは上屋のムダな動きをピタリと抑制しつつ、細かいギャップを滑らかにいなすサジ加減が巧妙。ナビによる先読み制御が入るのもレクサスの自慢であり、このAVSは単独で選べるグレードだと10万円強のコストとなるが、予算があるならぜひ選択肢に入れたい推奨オプションである。

もっとも、AVSを装着せずとも、徹底的に作りこまれたボディの恩恵か、乗り心地とハンドリングの両立点は、ちょっと驚くべきレベルにある。総じて快適性が高いのは予想どおり標準モデルや“I package”の17インチホイール装着車だが、“version L”の18インチでもそつなく履きこなしているのには感心する。

そんななかでもちょっと別格のデキと思わせるのが“F SPORT”である。専用チューンのAVSを標準装備しつつタイヤも専用、そしてボディにはおなじみのパフォーマンダンパーが追加される。“F SPORT”はもちろん基本的に最も引き締まったスポーティ志向のチューニングなのだが、より正確で俊敏なレスポンスとともに、トータルでの乗り心地も印象も“F SPORT”がベストだ。パフォーマンスダンパーの効果か、ボディそのものが微細な振動をジワッと吸収するのだ。

基本から磨かれたボディやサスペンションなどのハードウェアに、レクサスでは屈指のスポーティテイストを持つ新開発ターボエンジンを積んだNX200tは、ベースモデルでも従来のレベルを明らかに超えるデキだが、ノーマルよりはAVS付き、そしてできれば“F SPORT”……と、「お金を出すほどに幸せ度が確実に上がるクルマ」といえそうだ。