トヨタ エスクァイア HYBRID Gi 試乗レポート

高級感だけじゃない、割安な最新ミニバン

「新上級コンパクトキャブワゴン」をうたうエスクァイアのハイブリッド版は、23.8km/Lというクラストップレベルの燃費を誇る。使い勝手にも工夫をこらした最新の5ナンバーミニバンをテストした。

ヴォクシー/ノアより15万円高

トヨタの販売ネットワークとその取り扱いモデルを見ると、エスクァイアは全国のトヨタ店およびトヨペット店で販売される。ちなみに、同じくトヨタの5ナンバーミニバンであるヴォクシーはネッツ店、ノアはカローラ店の扱いだ。

これでおわかりだろう。ヴォクシー/ノアと基本骨格を共用しつつ、各部を高級化したエスクァイアは、販売ネットワークにおけるヴォクシー/ノアの隙間を埋める役割も担っている。エスクァイアの登場で、トヨタ系の全販売店に5ナンバーワンボックスが置かれることになったのだ。

それにしても、他メーカーはとっくに手を引いた「多チャンネル戦略」を、トヨタはひとり維持して、そのメリットをフル活用している。その是非はともかく、それを実現するトヨタの商品供給力と販売力には、素直に感心するところである。

エスクァイアは、同じパワートレーンを積むヴォクシー/ノアのおよそ15万円高。エスクァイアを上級ミニバンたらしめているキモは、良くも悪くも高級車の記号であるクロームメッキの大面積フロントグリルと、インテリア各部に効果的にあしらわれたメッキやレザーの仕立てである。さらに、今回の取材車であるGiという上級グレードは、昇温降温抑制機能付きのレザー調シートやフロント2席のシートヒーター(商品名は快適温熱シート)まで標準装備となる。

わかりやすい魅力の超ロングスライド機構

こうした内外装の仕立て以外は、エスクァイアとヴォクシー/ノアとは変わらない。だから、走行性能や機能性についてはヴォクシー/ノアと寸分の違いもない。

5ナンバーワンボックスというジャンルは、ご存じのとおりトヨタと日産、ホンダという日本のビッグスリーが寡占して、日本国内だけで争っている市場である。エスクァイアのベースモデルともいえるヴォクシー/ノアのデビューは2014年初頭。今から約1年前であり、現時点では最も新しい5ナンバーワンボックスである。

少数精鋭メーカーが狭い市場でしのぎを削り合っているだけに、このジャンルは、競合他社の手の内も、またユーザーの心理や生活スタイルも知り尽くしたうえで争われている。ニューモデルを出すときにはあらゆる面でライバルを上回るのは当然であり、だから現時点でのハードウェアの完成度と商品力は、お世辞ぬきで、トヨタのヴォクシー/ノア、そしてこのエスクァイアが最も高度でデキがいい。

たとえばサードシートは空間の広さ、居住性、着座姿勢の健全性のすべてでクラストップであると同時に、収納時には跳ね上げ式としては最もコンパクトで邪魔にならない。そして運転席のドライビングポジションの自由度もトップなら、この7人乗りのキャプテンシートの超ロングスライド機構は、クラスで最もわかりやすい魅力にあふれる。

セカンドのロングスライド機構は、途中からリヤホイールハウスを避けるように横スライドが組み合わせられる非常に凝ったメカニズムである。なのに、それがレバーひとつで、しかもちょうどいい重さと操作感で動くので、事前知識がなくとも最初から使いこなせるところが見事だ。このあたりも日本のミニバンユーザーの心理と体格を読み切った高度なエンジニアリングを感じさせる。

かつては女性が苦労したサードシートの跳ね上げ収納も、これまたちょうどいいスプリング効果で、何の迷いも、腕力も不要で出し入れできる。まさに熟成の域という印象だ。

5ナンバーミニバンは「最新が最良」

走りについても、ヴォクシーやノアと比べて、エスクァイア独自の部分は基本的にない。標準タイヤサイズも穏当な操縦性と静粛性に有利な15インチで全車が統一されている。

特別な新機軸がなくとも、エスクァイアの走りや快適性になんら不満がないのは、そもそも基本となるヴォクシー/ノアがクラス最新鋭のミニバンであり、しかもこの試乗モデルがクラスで唯一の本格ハイブリッド車であることが大きい。5ナンバーワンボックスミニバンの世界では、静粛性、操縦安定性、乗り心地、燃費……のすべてで「最新が最良」と考えておいておおむね間違いはない。

ミニバンをハイブリッド化するにあたって、最も懸念されるのが動力用バッテリーの搭載方法だが、エスクァイア(もちろんヴォクシー/ノアも同様だが)では“フロントシート下”という最も邪魔にならない位置を確保した。ここであればセカンド、サードのシートアレンジにはなんら影響せず、また基本的な居住性にも犠牲を伴わない。

大柄な乗員がセカンドシートスライドを前気味にして座ったときに限れば、「フロントシート下につま先を入れづらい」という違いを指摘できないわけではない。ただ、180cm級の男性がフル乗車しても、セカンドシートスライドをうまく融通すれば、シート下につま先を入れる必要などまったくないだけの絶対的な居住空間が確保されているので、そうした指摘はまさに重箱のスミもスミ……である。

静粛性と燃費でハイブリッドが優勢

もうひとつの2.0リットル4気筒モデルに対して、この1.8リットルのハイブリッドに動力性能の明確なアドバンテージはない。確かに極低速からのピックアップ感ではハイブリッドに電気動力ならではの力強さがあるものの、トータルではハイブリッドのウェイト増で相殺されて、総合的な動力性能は2.0リットルもハイブリッドも同じくらいだ。

ただ、ウェイト増がメリットとなる低速での乗り心地、時折エンジンがストップすることによる静粛性、そして燃費……といったポイントでは、さすがにハイブリッドが優勢。現在のハイブリッドは単純な燃費経済性だけでなく、こうした走りにおける上級感も日本で好まれる要因のひとつになっていることは確かだ。
操縦安定性の仕立ても、ほぼ文句なしのサジ加減。過大なロールは抑制しつつも、決して突っ張った不快感がないのは、さすが長い経験を感じさせるところだ。この点でも5ナンバーワンボックスは「最新が最良」である。
基本ハードウェアをヴォクシー/ノアと共用するエスクァイアを、あえて皮肉っぽく見ると、「ヴォクシー/ノアのドレスアップコンプリートカー」といえなくもない。しかし、エスクァイアの内外装の仕立てには、なるほど高級感はしっかりと上乗せされているし、自慢のレザーシートは合成皮革だが、最近の合皮はびっくりするほどよくできており、肌触りや柔らかさなど、それなりの高級感がきちんと演出されている。
エスクァイアのレザーシートに実際に2~3日座って気づいたのは「ファブリック表皮よりシートの掃除が楽そうだな」ということだ。ヤンチャ盛りのお子さんをお持ちのファミリー層であれば、高級うんぬん以前に、こうした機能性でレザーシートのエスクァイアを選ぶケースもあるだろう。
いずれにしても、クラス最良のヴォクシー/ノアに、これだけの仕立てがトッピングされて15万円高のエスクァイアである。その内容を冷静に考えれば「高級だな」というより「けっこう割安だな」という感想のほうが先に立つというものだ。