トヨタ エスクァイア Gi 試乗レポート

バリエーションがうれしい万能選手

エスクァイアには、2種のパワートレーンが用意されている。ハイブリッド車は2WDで7人乗りという組み合わせのみだが、2.0リットルのガソリン車では4WDや8人乗りの設定がある。今回は2WDで8人乗りのガソリン車Giに試乗した。

魅力は機能主義的なコンセプト

ミニバンの世界で(も)牙城を築き上げた感のあるトヨタ自動車が、2014年11月に発表したエスクァイア。バットマンと、クローム加飾の大型グリルを持ったフロントビューを対置した広告表現が、強烈な印象を残したモデルである。

中世ヨーロッパの騎士の階級からとったという車名をはじめ、矛と盾のモチーフに現代のビジネスマンの象徴であるスーツにネクタイを組み合わせて図案化したシンボルマーク。さらに、高い車格の記号性を与えたとするフロントグリル……。なんとなく突っ込みたくなる要素も多いけれど、クルマの成り立ちは、まっとうだ。

最大の魅力は、機能主義的なコンセプトにある。およそ4.7mの全長に、1.7m以下に抑えられた全幅。日本でのさまざまな使い勝手を考えたコンパクトさである。一方、「車外からでも室内の広さがわかる」とトヨタが言うとおり、“四角いパッケージング”を利用して、室内は驚くほど広々と仕上げられている。

姉妹車であるヴォクシー/ノアの取り回しのよさは、先代から定評があったが、2014年に発売したそれらの現行モデルでは、さらに低床化が図られたうえ(2WDモデルで地面から360mm)、3列目も含めた室内の各座席へのアクセス性が大幅に向上している。

すべてのシートが居場所になりうる

エスクァイアは3列シート仕様車で、ハイブリッドは2列目に独立したキャプテンシートが備わる7人乗りのみだけれど、ガソリン仕様には2列目にも3人掛けができる8人乗り仕様も用意されている。8人乗りのベンチシートのよさは、荷物も無造作に置けて、さっと3人が横並びで座れるところだ。日常生活における利便性でいうと、この8人乗りのほうがいい、というユーザーも少なくないだろう。

シートレイアウトはよく考えられている。まず評価したいのは、先にも触れたパッケージングのよさで、比較的コンパクトな外寸に、上手に3列ぶんのシートがはめこまれていいて、どの席も窮屈な印象はない。

2列目のシートは前後にスライド可能で、大きな荷物を積むとき、8人乗りなら前後に580mm動かせる。引っ越しすらできそうだ。多用途性は、いざというときのことを考えると心強い。また3列目への乗り込みも、2列目シートのスライド量が大きいため容易である。

ワンタッチで跳ね上がって収納スペースを作る、3列目シートの仕掛けもよくできている。輸入車でも3列シートを備えたモデルがけっこう入ってきているが、多くのモデルでサードシートは緊急用ととらえられる程度だ。小さすぎたり、レッグスペースやヘッドスペースが窮屈だったり……。

エスクァイアで感心するのは、3列目に乗る人も大切にしていることだ。前席との距離もとられていて脚がつかえることもないし、室内はウォークスルー可能(7人乗り仕様)だけあって、頭上の空間は広々としている。座面の高さも確保されていて、大人でも快適だ。

クルマの最良の席は運転席か助手席というのが通り相場だけれど、エスクァイアの場合は、すべてのシートが自分の居場所になりうる――そんな印象である。

内燃機関のトルク感を味わえる

宣伝ではハイブリッド仕様が前面に押し出されているが、ガソリン仕様もあなどれない。112kW(152PS)/6100r.p.m.の最高出力と、193N・m(19.7kgf・m)/3800r.p.m.の最大トルクを発生する2.0リットル4気筒エンジンは、体感的にもパワーは十分。2WDだけでなく、4WDも用意されているのは、ガソリン仕様のみだ。

よくできたハイブリッド仕様に対して、ガソリン車のメリットはなにか。価格も30万円ほど抑えられているが、やはり、われわれが慣れ親しんだ内燃機関のトルク感を味わえる点が大きいだろう。エンジンを回していく気持ちよさは、ガソリン車に分がある。

このエンジンは、吸気バルブの開閉タイミングを連続的に変化させる従来のVVT-i に、新たにバルブリフト量を連続的に変化させる機構を組み込んだ「バルブマチック」を備えていて、走行状態に応じて適正なトルクを与えてくれる。無段変速機が組み合わせられ、燃費重視で回転を抑える設定だが、7段に区切った「Mポジション」を選べば、スポーティなフィーリングが楽しめる。

高速では法定速度の範囲内では室内の静粛性も高くて、快適だ。ハンドルへのフィードバックがやや希薄なので、スポーティなクルマに乗っていた人には多少慣れが必要だ。実際の直進性はよく、コツはハンドルに軽く手を添えるだけ。クルマがまっすぐ走るのにまかせておけばよい。

ハイブリッド技術の熟成度の高さを実感

ガソリン車に設定される4WDは、基本的には前輪駆動がベースになっている。タイヤの接地や、加速やコーナリング時のGフォースのかかりかたに応じて、後輪に適正なトルクを配分するオンデマンド型だ。繰り返しになるけれど、先に説明した8人乗り仕様があるのはガソリン車のみなのだ。

ミニバンはファミリー向けととらえられているきらいがあるが、先にも触れたように万能選手だ。エスクァイアはゴルフやマリンスポーツに取り組む男にも評価されるだろうし、ウィンタースポーツが好きな人は4WDと、駆動系にバリエーションが用意されているのもメリットといえる。

シート地は、専用のブラック基調のもの。趣味のための乗り物、という印象すらある。男はやせ我慢の動物ともいわれるが、エスクァイアの快適性を知ったら手ばなせなくなってしまうかもしれない。

(text:小川フミオ/photo:田村 弥)