【日産 リーフ 1200km試乗 後編】EV登場から8年、充電インフラは普及したのか…井元康一郎
日産自動車が15年秋に追加したEV『リーフ』の航続距離延長版。バッテリー総容量を24kWhから30kWhへと増やし、公称航続距離は228kmから280kmに延びた。そのリーフ30kWh版で初冬の東北地方を1200kmあまりツーリングしてみた。前編ではドライブフィールなどについてお届けした。後編では電力消費率やバッテリーのパフォーマンス、充電インフラの使い勝手などについてレポートする。
◆航続距離280kmは非現実的
横浜の日産グローバル本社でクルマを拝領。東京・葛飾で普通充電によりバッテリー残量を98%まで回復させてから、まずは国道新4号線経由で福島方面へ向かった。国道新4号は信号の少ない走りやすい郊外路で、夜は平均的なクルマの流れが非常に速いのが特徴である。そこをノロノロではないが、さりとて優速な流れには乗らないという程度のスピードでクルーズした。
外気温計の数値は5度を下回るなか、平均電費計は7km/kWh台半ばで推移した。夏場であれば同じ条件で8~9km/kWhくらいで走れるのだが、冬場はさすがにそうはいかないようだった。
宇都宮を過ぎ、那須高原が近づくにつれて次第に登り坂が多くなってきた。葛飾からおよそ135km地点の栃木・矢板付近でバッテリー残量が14%となり、残量低下の警告が出た。そこから10kmあまり走ったところにある三菱自動車ディーラーで最初の充電を行った。そこまでの走行距離は146.0km、上り勾配が連続する区間を通過したこともあり、平均電費計値は7.0km/kWhに落ちた。バッテリー残量はスタート時の98%から8%へと、ちょうど90%ぶん変化した。
三菱自動車のディーラーにある急速充電器は出力30kWと、フルスペックのCHAdeMO規格に対して若干ローパワーで、充電器マップサイトでも“中速”と表示されている。バッテリー残量8%から58%まで、すなわち容量の半分を回復させるのにかかった時間は26分で、30分の充電が終わったときのバッテリー残量は65%だった。この“中速”充電器の面白いところは、充電電力量が表示されること。スタートから50%ぶん充電された時点の数値は11.6kWh。
このデータから単純計算すると、バッテリー残量計0→100%の容量は23.2kWh。これは総容量30kWhの8割弱にとどまる。これが低温環境によるものなのか、マージンを大きく取っているのかは不明だが、バッテリー容量をフルに使えることを前提とした航続距離280kmという公称値は平均電費以前の部分で非現実的であるようだった。
平均電費計値と走行距離、バッテリー残量ゲージ上で90%電力消費という3つの要素から計算した0→100%容量は23.17kWhと、充電量から得られた数値とほぼ同じ。リーフの車載コンピュータの消費電力量やバッテリー残量の判定は結構精度が高いと言える。また、バッテリーゲージ10%あたり約2.3kWnということがわかったことで、あまりあてにならないメーターパネル内の航続距離残表示に頼らずとも航続距離残をざっと計算できるようになり、ドライブ計画が立てやすくなった。たとえばバッテリー残量20→80%の6割(約13.9kWh)を使って100kmを走るには、平均電費7.2km/kWhのペースで行けばいいということになる。
◆冬場は電費が悪化する
その電費であるが、前述のように、冬季ドライブにおけるリーフの電費は2年前、夏季に24kWh版でロングドライブを試した時に比べると少なからず落ちた。夏季は飛ばし気味に走った区間を除けば、郊外路においては平均電費計値が9~10km/kWhで推移。面白いように航続距離を稼ぐことができた。が、冬場はさすがにそうはいかなかった。
福島の郡山から磐越自動車道を使って会津若松に達した区間、および秋田の横手から国道107号線のワインディングロードと秋田自動車道を併用して奥羽山脈を越えたときの電費は6km/kWhを下回った。前者の区間は気温1~3度、後者はマイナス2~3度と、いずれも低温であったのに加え、平均車速も高くなったことから、こういう数字になったものと思われた。それ以外の気温1~5度の郊外路および市街地における電費は6.4~7.3km/kWh。充電区間によって電費に差が出た最大要因は道路の交通状況による平均車速の違いである。
これに対し、最も電費が良かったのはドライブの最後、東京・葛飾から横浜の日産グローバル本社までエアコンオフで走ってみたときで、9.2km/kWhに達した。このほか、岩手の花巻から宮城までの区間もデフロスター暖房をかけながら8.6km/kWhの電費で走ることができた。この2つの区間に共通するのは、気温が7~13度と高かったこと。今回のツーリングの経験に照らし合わせれば、おおむね5度を境に車両のエネルギー効率が大きく変化するものと思われた。
ドライブ中に一度、外気温0~3度という低温環境下でエコランを試してみた。みぞれの降りしきる寒気の中をエアコンOFFにし、パワープログラムはエコモード、スロットルワークも丁寧に行うというパターンで山形の米沢から天童まで走った時の電費は8.2km/kWh。寒さに打ち震えながらのドライブは楽しいものではないが、うっかり残電力量が心もとなくなったときなど、エコランの有効性はそれなりにありそうだった。
◆急速充電器は普及したのか
さて、今回ロングツーリングしたのは東北地方。ここは数年前まで、急速充電器の過疎地帯がほうぼうにあり、その空白エリアを乗り切るためにバッテリーをこまめに充電しなければいけないようなシーンも少なからずあったのだが、今回ドライブしてみたところ、状況は一変。人口密度が大変に低いような地域でも24時間対応の急速充電器があちこちにあり、また街道沿いの日産ディーラーには打率9割くらいで急速充電器が設置されていた。航続距離が落ちる冬場でも、もはやドライブするのに恐れをなすようなところはほとんどないと言ってよさそうだった。
急速充電器はまだ技術進化の途上にある製品で、実は結構トラブルが多い。ドライブ中、会津若松で充電しようとある日産ディーラーを訪れたところ、たまたまその日の朝に急速充電器が故障したとのことで、使うことができなかった。近くにある別のディーラーの急速充電器はちゃんと稼動していたため困ることはなかったが、航続残ギリギリまで攻めすぎたときにこういうことがあると、ちょっと困ったことになるかもしれない。
これらの問題は急速充電ネットワークがIoT化されれば、事前に稼働状況がリアルタイムでわかるようになり、解決をみるだろう。現状では、残り航続距離15%、冬場の走行距離にして20~25km程度の余裕をみてドライブするといい。そのくらいの航続残があれば、かりに当てが外れても代替の充電スポットを探すことは容易だと思われた。
第1回目の急速充電のところで少し触れたが、急速充電器とひとくちに言っても、モノによってスペックに違いがある。三菱自動車系のディーラーに置かれているのは出力30kWクラスの中速型が主流。道の駅も30kW型が多く、たまに急速型が混じっているという状況。それに対し、日産ディーラーに置かれているのはもっぱら44kWの急速型。
中速型と急速型の間に性能差があるのは当たり前だが、個体差か仕様差か、はたまた出力を絞っているのかは不明だが、急速充電器のあいだでも結構な充電速度の違いがみられた。最も充電が早かったのは日産プリンス秋田販売の横手支店で、気温2度と寒かったにもかかわらず、充電開始後30分が経過した頃に戻ってみたらバッテリー残量が15%から91%まで76%ぶんも回復していた。80%を超えると充電速度は落ちていくはずなので、そこまではあっという間だったことになる。福島日産自動車富田支店が僅差でこれに続いた。この2店が速さのツートップだった。
遅いところはこれよりずっと遅い。もし充電ごとに課金されるとすれば、いささか不公平感が残る。それでも30kW型に比べれば速いし、日産がEVのカスタマーに提供している料金定額制充電サービスでは日産ディーラーで自由に充電できるので、街道沿いにある日産ディーラーで充電しながら飛び石伝いにドライブするのがいちばん良さそうだった。ちなみに三菱自動車ディーラーでの充電は日産のサービスに加入していても有料なので、あくまでエマージェンシーと考えてよかろう。
◆ロングツーリング愛好家の選択肢になりうる
2009年に三菱自動車『i-MiEV』がリース販売されてからすでに8年目の今、日本の急速充電規格であるCHAdeMOに準拠した急速充電器の数は大幅に増え、一般顧客にとってもEV所有のハードルは相当低くなった。そのネットワークの多くを月2000円の定額料金で使える日産のサービスは、EVによる旅の自由度を広げるのに大いに役に立っていると感じられた。
最近、世界で従来の急速充電を大幅に超えるペースで充電できる超急速充電の規格策定が進んでいる。充電時間が短くなるのは素晴らしいことだが、それでインフラ利用料が高くなり、EVのフリーライド感が失われるとしたら元も子もない。それが普及した頃にはCHAdeMOは低速充電と呼ばれるようになるかもしれないが、せっかく今まで税金も含め、大金をはたいて整備したことでもあるし、CHAdeMOのほうもネットワークとして残してほしいなどと思った次第であった。
リーフはすでにモデル末期に差しかかっている。航続距離はいまだ、普通のクルマに比べると極端に短く、誰にでも勧められるものではない。が、今の急速充電ネットワークが維持され、日産が定額料金制をやめさえしなければ、ロングツーリング愛好家にとってなかなか魅力的な選択肢のひとつと言えるだろう。
(レスポンス 井元康一郎)
◆航続距離280kmは非現実的
横浜の日産グローバル本社でクルマを拝領。東京・葛飾で普通充電によりバッテリー残量を98%まで回復させてから、まずは国道新4号線経由で福島方面へ向かった。国道新4号は信号の少ない走りやすい郊外路で、夜は平均的なクルマの流れが非常に速いのが特徴である。そこをノロノロではないが、さりとて優速な流れには乗らないという程度のスピードでクルーズした。
外気温計の数値は5度を下回るなか、平均電費計は7km/kWh台半ばで推移した。夏場であれば同じ条件で8~9km/kWhくらいで走れるのだが、冬場はさすがにそうはいかないようだった。
宇都宮を過ぎ、那須高原が近づくにつれて次第に登り坂が多くなってきた。葛飾からおよそ135km地点の栃木・矢板付近でバッテリー残量が14%となり、残量低下の警告が出た。そこから10kmあまり走ったところにある三菱自動車ディーラーで最初の充電を行った。そこまでの走行距離は146.0km、上り勾配が連続する区間を通過したこともあり、平均電費計値は7.0km/kWhに落ちた。バッテリー残量はスタート時の98%から8%へと、ちょうど90%ぶん変化した。
三菱自動車のディーラーにある急速充電器は出力30kWと、フルスペックのCHAdeMO規格に対して若干ローパワーで、充電器マップサイトでも“中速”と表示されている。バッテリー残量8%から58%まで、すなわち容量の半分を回復させるのにかかった時間は26分で、30分の充電が終わったときのバッテリー残量は65%だった。この“中速”充電器の面白いところは、充電電力量が表示されること。スタートから50%ぶん充電された時点の数値は11.6kWh。
このデータから単純計算すると、バッテリー残量計0→100%の容量は23.2kWh。これは総容量30kWhの8割弱にとどまる。これが低温環境によるものなのか、マージンを大きく取っているのかは不明だが、バッテリー容量をフルに使えることを前提とした航続距離280kmという公称値は平均電費以前の部分で非現実的であるようだった。
平均電費計値と走行距離、バッテリー残量ゲージ上で90%電力消費という3つの要素から計算した0→100%容量は23.17kWhと、充電量から得られた数値とほぼ同じ。リーフの車載コンピュータの消費電力量やバッテリー残量の判定は結構精度が高いと言える。また、バッテリーゲージ10%あたり約2.3kWnということがわかったことで、あまりあてにならないメーターパネル内の航続距離残表示に頼らずとも航続距離残をざっと計算できるようになり、ドライブ計画が立てやすくなった。たとえばバッテリー残量20→80%の6割(約13.9kWh)を使って100kmを走るには、平均電費7.2km/kWhのペースで行けばいいということになる。
◆冬場は電費が悪化する
その電費であるが、前述のように、冬季ドライブにおけるリーフの電費は2年前、夏季に24kWh版でロングドライブを試した時に比べると少なからず落ちた。夏季は飛ばし気味に走った区間を除けば、郊外路においては平均電費計値が9~10km/kWhで推移。面白いように航続距離を稼ぐことができた。が、冬場はさすがにそうはいかなかった。
福島の郡山から磐越自動車道を使って会津若松に達した区間、および秋田の横手から国道107号線のワインディングロードと秋田自動車道を併用して奥羽山脈を越えたときの電費は6km/kWhを下回った。前者の区間は気温1~3度、後者はマイナス2~3度と、いずれも低温であったのに加え、平均車速も高くなったことから、こういう数字になったものと思われた。それ以外の気温1~5度の郊外路および市街地における電費は6.4~7.3km/kWh。充電区間によって電費に差が出た最大要因は道路の交通状況による平均車速の違いである。
これに対し、最も電費が良かったのはドライブの最後、東京・葛飾から横浜の日産グローバル本社までエアコンオフで走ってみたときで、9.2km/kWhに達した。このほか、岩手の花巻から宮城までの区間もデフロスター暖房をかけながら8.6km/kWhの電費で走ることができた。この2つの区間に共通するのは、気温が7~13度と高かったこと。今回のツーリングの経験に照らし合わせれば、おおむね5度を境に車両のエネルギー効率が大きく変化するものと思われた。
ドライブ中に一度、外気温0~3度という低温環境下でエコランを試してみた。みぞれの降りしきる寒気の中をエアコンOFFにし、パワープログラムはエコモード、スロットルワークも丁寧に行うというパターンで山形の米沢から天童まで走った時の電費は8.2km/kWh。寒さに打ち震えながらのドライブは楽しいものではないが、うっかり残電力量が心もとなくなったときなど、エコランの有効性はそれなりにありそうだった。
◆急速充電器は普及したのか
さて、今回ロングツーリングしたのは東北地方。ここは数年前まで、急速充電器の過疎地帯がほうぼうにあり、その空白エリアを乗り切るためにバッテリーをこまめに充電しなければいけないようなシーンも少なからずあったのだが、今回ドライブしてみたところ、状況は一変。人口密度が大変に低いような地域でも24時間対応の急速充電器があちこちにあり、また街道沿いの日産ディーラーには打率9割くらいで急速充電器が設置されていた。航続距離が落ちる冬場でも、もはやドライブするのに恐れをなすようなところはほとんどないと言ってよさそうだった。
急速充電器はまだ技術進化の途上にある製品で、実は結構トラブルが多い。ドライブ中、会津若松で充電しようとある日産ディーラーを訪れたところ、たまたまその日の朝に急速充電器が故障したとのことで、使うことができなかった。近くにある別のディーラーの急速充電器はちゃんと稼動していたため困ることはなかったが、航続残ギリギリまで攻めすぎたときにこういうことがあると、ちょっと困ったことになるかもしれない。
これらの問題は急速充電ネットワークがIoT化されれば、事前に稼働状況がリアルタイムでわかるようになり、解決をみるだろう。現状では、残り航続距離15%、冬場の走行距離にして20~25km程度の余裕をみてドライブするといい。そのくらいの航続残があれば、かりに当てが外れても代替の充電スポットを探すことは容易だと思われた。
第1回目の急速充電のところで少し触れたが、急速充電器とひとくちに言っても、モノによってスペックに違いがある。三菱自動車系のディーラーに置かれているのは出力30kWクラスの中速型が主流。道の駅も30kW型が多く、たまに急速型が混じっているという状況。それに対し、日産ディーラーに置かれているのはもっぱら44kWの急速型。
中速型と急速型の間に性能差があるのは当たり前だが、個体差か仕様差か、はたまた出力を絞っているのかは不明だが、急速充電器のあいだでも結構な充電速度の違いがみられた。最も充電が早かったのは日産プリンス秋田販売の横手支店で、気温2度と寒かったにもかかわらず、充電開始後30分が経過した頃に戻ってみたらバッテリー残量が15%から91%まで76%ぶんも回復していた。80%を超えると充電速度は落ちていくはずなので、そこまではあっという間だったことになる。福島日産自動車富田支店が僅差でこれに続いた。この2店が速さのツートップだった。
遅いところはこれよりずっと遅い。もし充電ごとに課金されるとすれば、いささか不公平感が残る。それでも30kW型に比べれば速いし、日産がEVのカスタマーに提供している料金定額制充電サービスでは日産ディーラーで自由に充電できるので、街道沿いにある日産ディーラーで充電しながら飛び石伝いにドライブするのがいちばん良さそうだった。ちなみに三菱自動車ディーラーでの充電は日産のサービスに加入していても有料なので、あくまでエマージェンシーと考えてよかろう。
◆ロングツーリング愛好家の選択肢になりうる
2009年に三菱自動車『i-MiEV』がリース販売されてからすでに8年目の今、日本の急速充電規格であるCHAdeMOに準拠した急速充電器の数は大幅に増え、一般顧客にとってもEV所有のハードルは相当低くなった。そのネットワークの多くを月2000円の定額料金で使える日産のサービスは、EVによる旅の自由度を広げるのに大いに役に立っていると感じられた。
最近、世界で従来の急速充電を大幅に超えるペースで充電できる超急速充電の規格策定が進んでいる。充電時間が短くなるのは素晴らしいことだが、それでインフラ利用料が高くなり、EVのフリーライド感が失われるとしたら元も子もない。それが普及した頃にはCHAdeMOは低速充電と呼ばれるようになるかもしれないが、せっかく今まで税金も含め、大金をはたいて整備したことでもあるし、CHAdeMOのほうもネットワークとして残してほしいなどと思った次第であった。
リーフはすでにモデル末期に差しかかっている。航続距離はいまだ、普通のクルマに比べると極端に短く、誰にでも勧められるものではない。が、今の急速充電ネットワークが維持され、日産が定額料金制をやめさえしなければ、ロングツーリング愛好家にとってなかなか魅力的な選択肢のひとつと言えるだろう。
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