自動運転ゴルフカートが市民の足になる…“輪島モデル”に見る交通の未来

石川県輪島市でおこなわれている電動ゴルフカートを用いた自動運転の実証実験「WA-MO(ワーモ)」。写真は自動運転中の様子
石川県輪島市。輪島塗や朝市、最近ではNHK連続テレビ小説「まれ」の舞台として注目が集まった能登半島北西端の街で、電動カートが走っている。

車両は、ヤマハ発動機のゴルフカートをベースにした小型電動車両。ゴルフ場でクイックに動くゴルフカートを、街なかでただ走らせるだけではなく、自動運転の実現に向けた実証実験として運用されている点が新しい。

このおだやかな港町で、ヤマハのゴルフカートがどう動いているか、街の流れといかに共存しているか。そんな想いで能登空港からクルマを走らせること30分。朝市でにぎわう輪島市中心街に敷かれた自動運転エリアへと向かった。

輪島を行くヤマハゴルフカートの走行コースは3つ。旧輪島駅や文化会館と河原田川を渡ってショッピングモールや市立輪島病院を結ぶ「病院コース」、輪島の奉燈が保存されているキリコ会館や足湯を経て馬場先商店会と旧輪島駅を結ぶ「キリコ会館コース」、そして自動運転の実証実験コースが含まれる「塗めぐりコース」だ。

◆千年の漁師町を自動運転小型EVが行く

この「塗めぐりコース」は、キリコ会館や輪島塗会館、輪島工房長屋・足湯を経て、にぎわう朝市通りのまわりをぐるっと一周するコース。その約4割の部分に自動運転コースが設置された。

乗車感覚は、ゴルフ場の電動カートそのもの。自動運転コース上では、ゴルフ場で無人で動くカートと同じく、地面に幅1cmほど埋め込まれた電磁誘導線を頼りにすすむ。自動運転といっても、専属ドライバーが運転席に乗車する。手動区間の運転はもちろん、自動区間の危険回避・急ブレーキ・再始動などを、ハンドルとペダル、発進・停止ボタンなどで実行する。

「とまれ」の標識前では自動で停止し、一定の時間を止まって再び発進するが、その再スタートのタイミングは、運転手が意図的に変えることもできる。ブレーキを踏めば自動運転がいったん解除。同様に、自動運転軌道上でハンドルを切れば、オートパイロットは解除されて手動運転になる。

「車体の3つのガイドセンサーが、誘導線の信号を感知してすすむ。停止・発信は、路面に埋め込まれたマグネットの電圧信号を、(3つのうちの)2つのガイドセンサーで確認して実行する」(商工会)

◆高齢者が自由に動ける街をつくりたい

この実証実験の正式名称は「専用空間における自動走行等を活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」。

経済産業省と国土交通省の平成28年度「スマートモビリティシステム研究開発・実証事業」のうち、「専用空間における自動走行等を活用した端末交通システムの社会実装に向けた実証」を産業技術総合研究所が受託。産総研はこの実験機会を公募し、23地域の提案があったなかで、石川県輪島市(輪島商工会議所)、福井県永平寺町(永平寺町、福井県)、沖縄県北谷町(北谷町役場)の3か所が「小型電動カート応用・開発」の場に選ばれた。

輪島商工会議所の坂下利久専務理事が、この「小型電動カート応用・開発」実証実験に対する想いをこう語る。

「この自動運転カート実証実験は、里谷光弘会頭をはじめとする商工会の信念でやる直轄事業という位置づけ。『将来社会、新しい日常の足が必要』『5~10年後の新たな交通システムを考えていこう』という想いが込められた次世代交通対策事業の一環。輪島市じゃなく、商工会が独自に立ち上げたプロジェクト」(坂下専務)

輪島商工会議所は民間の協力相手にヤマハ発動機を選び、施設整備や運用面でチカラを借りた。「ヤマハさんには、道交法や輪島市内の交通事情にあわせたチューニングや、ナンバー取得などで尽力いただいた」と坂下専務はいう。

◆特区申請に2度落選したことで転機

現在は、輪島の街なかを走れるように、軽自動車の黄色ナンバー、方向指示器、バックミラーなどを付けたヤマハ製電動カート「G30s」が4台走行中だ。モーター出力は3.5kW、最高速度は19km/hと、基本性能はあくまでゴルフ場の電動カートと全く同じだ。

この実証実験が実現するまで、いくつものハードルが立ちはだかったが、最も大きなインパクトだったのが、構造改革特区申請を2度行ったが、2度とも認定されなかったこと。

「この特区認定が下りなかったからこそ、地元の警察や交通事情に合わせた、どの自治体でも導入できる“特例なし”で実現できる自動運転ゴルフカートのモデルができあがった」(坂下専務)

◆“輪島モデル”の行方が国内波及のカギに

ヤマハ発動機の製造・操作・運用ノウハウと、輪島商工会議所の「高齢者が自由に動ける街をつくりたい」という想いが重なり合い、自動運転実現へ向けて動き出した朝市通り界隈。商工会は将来計画として、市役所・消防署・税務署・図書館・学校・病院・保育所・高齢者施設などを結ぶ自動走行エリアをさらに拡大させる構えだ。

「シルバー人材を活用し、走行コースを拡大させ、既存の路線バスやコミュニティバス、その先にある能登空港を離発着する旅客機と連携したダイヤ編成を組んでいきたい」と坂下専務。

この“輪島モデル”が実現すれば、国内全土に自動運転ゴルフカートが波及するはず。特区としてではなく、商工会とヤマハが組んだように、官民連携で道交法や地元警察などのルールにあわせた自動運転カーとが、スピード感を持って具現化できると見込む。

◆現在のフェーズは「地下鉄・銀座線」

東京から向かった我々は、このヤマハ製ゴルフカートが街のゆっくりとしたリズムに見事に調和しているように見えた。実際に乗って、商工会の人たちの話を聞いて、「カートが、地元警察や街の事情に歩み寄る設計思想」という乗車後感を得た。坂下専務は、現在の自動運転電動カートのフェーズについて、東京の地下鉄に例えてこう語ってくれた。

「いま走っている自動運転電動カートは、東京でいえば銀座線のようなもの。東京地下鉄の始まりは、東京地下鉄道銀座線(1925(大正14)年~)。この銀座線から地下鉄ネットワークは拡大していった。この自動運転電動カートは、市民ファースト。観光目的ではない」

この輪島モデルが、今後の自動運転電動カート波及へ向けた試金石になることは間違いない。坂下専務は最後に、この「小型電動カート応用・開発」実証実験の今後について、「枯れた技術」と前置きしながら、こう意気込んだ。

「ゴルフ場の電動カートは、『枯れた技術』なんて言う人もいるかもしれない。でも、我々が住む輪島の風の流れを感じて、そのリズムとスピードにうまくマッチしているのが、この電動カートなんです。この成熟した技術を応用させ、新たな自動運転社会実現に向けたモデルとなるはず」



(レスポンス 大野雅人)

[提供元:レスポンス]レスポンス