【藤井真治のフォーカス・オン】中国ブランド車の一帯一路、アセアン現地生産の勝算は?

五菱のMPV「光宏」
東南アジア自動車市場での日本車ブランドは、これまで各国で総じて高いシェアを謳歌してきた。その日本車天国において中国ブランド車本格進出の動きが顕在化している。

シンガポールやブルネイなどを除けば東南アジア諸国での自動車ビジネスの拡大に不可欠な要素は「現地生産」である。ほとんどの国が完成車の輸入に関税や内国税など何らかのハンディを設け台数を制限しているからだ。アセアン域内の関税優遇策や域外とのFTAなどによる完成車輸入関税低減の動きはあるものの、自動車メーカーにとってアジア各国で量産量販というブランドプレゼンスを発揮するには現地生産は欠かせない。

一方、中国国内ではGM、VW、日産といった外国企業との合弁による外国ブランド車の販売がメインの中国企業。内外で自社ブランド車を売り込みたいのが本音だ。これまで東南アジア市場では中国国内生産車を細々と輸出していたが、ここにきてタイ、マレーシア、インドネシアで次々と現地生産をスタートさせている。

早くから地道な現地生産によって日本車天国となっていた自動車市場に、無謀ともとれる勝負を挑もうとする中国ブランド車の攻勢は、まさに“一帯一路”の流れの一環のようにも見える。

一体狙いは何なのか?勝算はあるのだろうか?

◆順調な販売立ち上がりを見せたインドネシアの「ウーリン」

7億ドルもの投資額のインドネシアの工場で2年に及ぶ現地生産準備を終え、中国ブランド車「五菱光宏(インドネシア名:CONFERO)」がラインオフされ、8月から販売も開始された。そのタイミングに合わせるべく開業したインドネシア全土50店もの販売網がそれを支える。評判は上々で9月以降月間1000台レベルの販売をキープしており、まさに日本車天国に楔を打ち込む形となった。

この五菱光宏を生産する中国のメーカーは、「上海汽車通用五菱」という名前である。その名の通り資本構成は上海汽車50%、GM44%、柳州五菱6%と極めて複雑である。一言で言うと「キャッシュリッチな上海汽車集団が地方ブランドの柳州五菱(ウーリン)を傘下に納め、もともと提携関係のあった GMに開発&国際経営支援を求めた3社連合の国産ブランド」と言える。

中国名は呼びにくいので本稿では会社もこのモデルも「ウーリン」と呼ぼう。

とにかくこのウーリン、インドネシアのユーザー受けする形をしているのが特徴だ。ローカルモデルである3列シートのMPVは、トヨタの『アバンザ』や『イノーバ』のコピーモデルと揶揄する声もあるが、なかなかどうして外観や内装のチープ感はなく大変よくできたモデルである。

そして、とにかく安い。性能やスペックを両モデルと比較するとざっと3割はお買い得だ。日本車を使い慣れかつデザインも見慣れたインドネシアのユーザーに一定の評価を得たようで、あとはアフターサービスやCRなど時間とともに醸成されるブランド知名度やイメージのアップ次第で大きなプレゼンスを得そうな予感がする。

少なくともこれまでのバイクも含めた中国ブランド車の「安かろう悪かろうイメージ」は完全に払拭した。

◆ウーリンは中国本国のベストセラーカー

実はこのウーリン、中国本国では何と年間80万台も販売しているベストセラーカーなのである。日本でのベストセラーである『プリウス』や軽自動車の『N―box』で20万台レベル、米国での『RAV4』『カムリ』『CR―V』『シビック』などが30万台前後であることを考えると、単一モデルでの破格の量が理解できるであろう。かつ中国単一国でのすざましい生産量は部品のコストダウンという破壊力を生む。

インドネシアのウーリンの国産化に当たっては、その低コストの中国製部品がインドネシアの部品メーカーに輸出されているのではないだろうか?

つまりウーリンの低価格は、中国本国の生産量からたたき出された低コストの中国製構成部品によると著者は見る。

さらにもう少し想像を働かせると、中国の急激なEVシフトの中でエンジン付き車の事業拡大のために東南アジアに本格進出を開始したのと考えられる。本国80万台の生産に対し、インドネシアは当面生産2万台程度。中国的マネージメントとしては「国産化の手間暇はかかるが70万台の内の2万台くらいは誤差の範囲…」くらいの感覚で700億のリソース投入決断したのではないだろうか? それをインドネシアから2回生産撤退しているGMの精緻な生産販売マネージメントが帳尻を合わせるために躍起になっている、という構造が見て取れる。

◆マレーシアでもタイでも

一方、隣国マレーシアでは瀕死の国産ブランドのプロトンに中国の自動車資本である「吉利汽車(ジーリーと呼ぶ)」が資本参加し、プロトンが現在持っているリソースを活用しジーリーのコンパクトSUVモデル(博越)を2018年末より現地本格生産販売する。このSUV博越も本国で年間11万台売っているモデルだ。インドネシアのウーリンと同様の勝算を持って攻めていくと思われる。新生プロトンはインドネシアでのGMのような役割を発揮できる元大手メーカーの日本人現地法人トップという大物を副社長に据えるなど、今回のプロジェクトへの本気度が伺える。

タイでも上海汽車本体とタイ資本の合弁会社が、2018年稼働を目標に10万台規模の第2工場を立ち上げ、タイ政府が奨励しているエコカーや SUVを生産販売するという発表がされているが、こちらはあまりにも威勢のいい発表で勝算がまだ見えてこない。元々、MGというブランド名でタイ販売しているモデルは知名度がないだけでなく、本国での生産も数万台レベルであり、今後のウォッチが必要だ。

地道な経験の積み上げ、カイゼン、すり合わせ。そうした自動車生産カルチャー自体の現地移転によって現地生産の日本車ブランドは東南アジア各国で評価されてきた。

これに対し、ゼロからの大胆な大型国産化投資、本国の生産量が叩き出す安い部品コストなどルールの異なる手法で東南アジアを攻め始めた中国ブランド車。日本市場で中国ブランドの携帯やパソコンが起こしたことが、東南アジアの自動車ビジネスでも起こるのだろうか?

日本メーカーにとって過剰反応は必要ないが、少なくともインドネシア製のウーリンをバラして研究してみても損はあるまい。

<藤井真治 プロフィール>
(株)APスターコンサルティング代表。アジア戦略コンサルタント&アセアンビジネス・プロデューサー。自動車メーカーの広報部門、海外部門、ITSなど新規事業部門経験30年。内インドネシアや香港の現地法人トップとして海外の企業マネージメント経験12年。その経験と人脈を生かしインドネシアをはじめとするアセアン&アジアへの進出企業や事業拡大企業をご支援中。自動車の製造、販売、アフター、中古車関係から IT業界まで幅広いお客様のご相談に応える。『現地現物現実』を重視しクライアント様と一緒に汗をかくことがポリシー。

(レスポンス 藤井真治)

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