【車のエンブレムに込められた思いをたどる】車のエンブレムとは?

【車のエンブレムに込められた思いをたどる】車のエンブレムとは?

クルマの性能に直接かかわるものではないが、車両には欠かせない重要なパーツのひとつにあげられるのが「エンブレム」である。過去から現在に至るまで、およそほとんどの市販車両において使用されていると言っても過言ではない。

三省堂が発行する『大辞林』によれば、エンブレム(emblem)は、
「① 象徴。象徴的文様。寓意(ぐうい)画。視覚的形象において直示的ではなく表現されている物や意味のこと。②紋章。記章。特に、ブレザーの胸につける校章など。ワッペン」とある。
クルマであれば、メーカーやブランド、そして車種を文字やデザインで示すことが多く、ひと目でブランドや車種を特定できるものになっている。

さらに言えば、各カーメーカーが持つ歴史や価値、ブランドとしての誇りさえもこの小さなパーツに込められている。翻ってユーザーの立場で見れば、製品の信頼性を測る物差しにもなるかもしれない。

そうした歴史あるエンブレムを眺めていくと、大きく9つのテーマに分類できることに気づく。今回は、それぞれの分野の代表的なエンブレムを紹介しよう。

1:紋章(エンブレム様式:ヨーロッパの紋章を参考に図案化したもの)

CADILLAC
CADILLAC
キャデラック(1918年・アメリカ)

キャデラックは、1902年に設立されたアメリカの高級車ブランド。17世紀にデトロイトを開拓したフランス人貴族“Le Sieur Antoine Laumet de la Mothe Cadillac(アントワーヌ・デ・ラ・モース・キャデラック)”にちなみブランド名(当時は社名)を「キャデラック」としたといわれている。
ヨーロッパの貴族階級で使用された紋章は、アメリカでもその影響を見ることができる。新大陸を開拓した先人たちへの尊敬を込めて、車のエンブレムに紋章様式を取り入れたのは必然だったのかもしれない。
同社設立時のエンブレムは、そのキャデラック家の紋章をモチーフにデザインされている。写真は1918年当時のもの。その後、幾度かの変更をうけ、現在は2014年にリニューアルされた直線基調のシャープなクレストを使用している。

Cadillac Type57
Cadillac Type57
キャデラック・タイプ57(1919年・アメリカ)

第28代アメリカ大統領トーマス・ウッドロウ・ウィルソンが第1次世界大戦の戦勝記念パレードで使用した、1919年製のキャデラック・タイプ57。7人乗りのオープンカーであった。
キャデラックは現在まで続く歴代アメリカ大統領の専用車ブランドとして有名だが、初めて大統領専用車となったのが、このタイプ57だった。当時のエンブレムは車両正面、ラジエーターグリル上部に取り付けられ、クレストとリース(月桂樹)を組み合わせたデザインだった。(写真:ゼネラルモーターズ)

2:イニシャル(社名をイニシャルで簡素化したもの)

ISOTTA-FRASCHINI
ISOTTA-FRASCHINI
イソッタ・フラスキーニ(1899年・イタリア)

1899年にオレステ・フラスキーニとチェーザレ・イソッタがイタリアのミラノで共同設立したイソッタ・フラスキーニ。社名にもなった設立者両名のイニシャルをそのままデザインし、エンブレムに使用している。同社は当初ルノーの輸入製造販売会社として誕生し、後に自社ブランドの車両を開発販売するようになったという歴史がある。販売された車両はパワフルなエンジンと強靱(きょうじん)なシャシーを持ち、レースでも活躍。カロッツェリアによって作られた豪華で魅力的なボディーを架装され、当時はフランスのブガッティと並ぶ超高級ブランドとして認知されていた。後にスポーツカーメーカーを興すエンツォ・フェラーリやアルフィエーリ・マセラティも、同社のドライバーとして若き日に活躍した。

Isotta-Fraschini Voiturette
Isotta-Fraschini Voiturette
イソッタ・フラスキーニ・ヴォワテュレット1号車(1901年・イタリア)

1901年に製造された、イソッタ・フラスキーニの「IF」エンブレムを付けた記念すべき第1号車。ルノー・タイプDをベースとしたいわゆるライセンス製品で、エンジンには単気筒のド・ディオン・ブートン製を用いていた。この個体はかつてイタリアの元首相ムッソリーニが所有し、アメリカのヘンリーフォード博物館に寄贈したという歴史を持つ。不思議なことに寄贈された時から現状と同じくボディーがない状態だったという。(写真:ニュースプレス)

3:切り抜き文字(社名を切り抜き文字で表したもの)

FORD
FORD
フォード(年代不詳・アメリカ)

黄銅をプレスしたシンプルなものから、メッキやエナメル加工などの加飾を施したものなど、さまざまなタイプがある。フォードはT型フォードで表面研磨された切り抜き文字タイプのエンブレムをオプションで販売していた。

4:ウイングのあるもの(ウイング=翼とメーカーロゴ等を組み合わせたもの)

HISPANO-SUIZA
HISPANO-SUIZA
イスパノスイザ(1904年・スペイン/フランス)

空を飛ぶ鳥のようなスピードへの憧れから翼をモチーフにしたものや、写真のイスパノスイザのように、もともとの航空機製造から自動車製造に移行したメーカーにも、エンブレムにその名残を見ることができる。

5:伝説上の生物(ギリシャ神話等に登場する架空の生物を図案化したもの)

VAUXHALL
VAUXHALL
ヴォクゾール(1903年・イギリス)

機械メーカーとして創業し、1903年から自動車製造に乗り出したイギリスのヴォクゾールが採用しているエンブレムは、グリフィンがモチーフとなる。グリフィンは、タカの上半身とライオンの下半身を持つ架空の生物である。

6:動物たち

TALBOT
TALBOT
タルボ(1903年・イギリス)

ライオンをモチーフにしたエンブレムを用いていたのが、イギリスのタルボである。1903年にロンドンで設立されたタルボは、後にサンビームと共にダラックに買収され、STDモーターズのいちブランドになった。

7:幾何学模様(クルマの名称や、社名を図案化したもの)

STEYR
STEYR
シュタイアー(1920年・オーストリア)

各メーカーの出自を表現した図柄や、エンブレムの模様を見れば社名が分かるものなど。代表的なエンブレムとして取り上げるのは1920年にオーストリアで誕生したシュタイアー。射撃用の的を図案化したデザインは銃器製造から発展した同社のルーツを感じさせる。

8:地名や社名に由来するもの

PLYMOUTH
PLYMOUTH
プリマス(1928年・アメリカ)

クライスラーのエントリーカーブランドとして1928年に誕生したプリマスは、米マサチューセッツ州の港湾都市からその名が取られた。17世紀、この地に初上陸した清教徒が乗っていたイギリスのメイフラワー号がモチーフとして描かれている。

9:ストーリーのあるエンブレム

ROLLS-ROYCE
ROLLS-ROYCE
ロールス・ロイス(1933年・イギリス)

車のエンブレムには、秘められたエピソードを持つものもある。例えば、イギリスの高級車ブランドとして知られるロールス・ロイス。もともとは赤を基調としたデザインだったがある時から黒に変わった。その理由は、また別の機会に紹介しよう。

【資料提供】
トヨタ博物館(https://www.toyota.co.jp/Museum/)

2019年4月17日(水)、トヨタ博物館に「クルマ文化資料室」がオープン。
今回ご紹介した、車のエンブレム(カーバッジ)の現物(一部展示していない場合もございます)が展示されています。
クルマ文化資料室(https://www.toyota.co.jp/Museum/exhibitions/data/showroom/index.html)

[ガズー編集部]

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