初めての愛車は、パリダカに参戦するために買った ランドクルーザー70

幼少の頃からミニカーで遊んだり、クルマのプラモデルを作ったりしていた普通の男の子でしたが、エンジンが載った乗り物に乗りたいと思ったのは、14歳の正月でした。ふとテレビをつけると、ブラウン管に映ったのは見渡す限りの大きな砂丘。その上をまるで大海原を漂う小船のようにバイクやクルマが走っている。強烈なインパクトとともに自分もこの砂丘を走ってみたいという衝動にかられました。調べてみたら、それがパリ・ダカールラリー。私にとって乗り物とは、自分と一体となってどこへでも連れて行ってくれる相棒だと思っています。思い立ったら、いてもたってもいられなくなって親父を説得して、貯めていたお年玉をすべて使って80ccの競技用モトクロスバイクを買って走り始めました。バイクは10台近く乗りましたが、大学4年の夏、当時パリ・ダカールラリーの次に過酷と言われていたオーストラリアを縦断するラリーに参戦。オフロードを走ること、海外を旅することがどんどん好きになり、1997年に目標だったパリ・ダカールラリーにランドクルーザー70とともに初参戦しました。私の初めての愛車は、ランドクルーザー70です。

砂漠の魅力にとりつかれた20代

学生時代からパリ・ダカールラリーをテレビで観たり、海外を旅するようになって、過酷なオフロードを力強く走るランドクルーザーに惹かれました。特に、日本人として初参戦した横田紀一郎さん率いるTeamACPが、スターレット(KP61)やレビン(AE86)など二輪駆動のマシンで参戦しながら必ずランドクルーザー60もエントリーし、サポートしながら完走していたこと、さらにランドクルーザー70、80でもエントリーして活躍していたことが印象深かったです。私が1996年にサハラ砂漠でのNPO医療支援活動に参加した時、首都ではいろんなクルマが走っていたのですが、砂漠の奥地へ入っていくと、最後は人々の交通手段がランドクルーザーとラクダしかありませんでした。日本製のクルマが世界の過酷な環境の中、絶大なる信頼を受け、生活そのものを支えている。日本人としてとても誇らしかったし、自分が作っているわけではないですが、日本人というだけで感謝されたことが今も忘れられません。またランドクルーザーに乗ってサハラ砂漠に行った時、初日はすぐスタックしたのですが、翌日からコツを掴み、スタックすることなく走破でき、ランドクルーザーの走破性の高さを知りました。

1996年から毎年1ヶ月はサハラ砂漠が国土の3/4を占めるモーリタニアで、このランドクルーザーに乗って医療支援活動をしていました
1996年から毎年1ヶ月はサハラ砂漠が国土の3/4を占めるモーリタニアで、このランドクルーザーに乗って医療支援活動をしていました
1997年にパリダカに初参戦。これは翌1998年の20回記念大会に参戦した時のもの
1997年にパリダカに初参戦。これは翌1998年の20回記念大会に参戦した時のもの

ハイブリッドカーに目覚め、買った2台目の愛車

1997年に初参戦した時に乗っていたランドクルーザー70を日本に持ち帰り、しばらく乗っていましたが、1999年から前述の横田紀一郎さんにお声がけいただき、プリウスを旗印に世界中のエココンシャスなヒト、コト、モノに触れるプロジェクトにTeamACPの一員として参加させていただけることになりました。最初は北米大陸横断。ロサンゼルスからニューヨークまで約2ヶ月かけて旅をしました。翌年は欧州8カ国を走りましたが、どの国でも、昔アフリカをランドクルーザーで走っていた時と同じように、プリウスを観た現地の方々が、日本人はこういったすばらしいクルマを作るのがすごいと褒められました。ランドクルーザー同様、海外の方々に称賛されるハイブリッドカーにとても興味が湧き、TeamACPメンバーでハイブリッドカーを乗ろうという話になり、横田紀一郎さんがハリアーハイブリッド、カメラマンの松前次三さんがプリウスを買うということで、私はクルーガーハイブリッドを選びました。

2012年当時の親戚宅にて。ハイブリッドカーとともに世界中を旅した話をしていたら、親戚もハリアーハイブリッドとプリウスに乗り換えた
2012年当時の親戚宅にて。ハイブリッドカーとともに世界中を旅した話をしていたら、親戚もハリアーハイブリッドとプリウスに乗り換えた

V6 3.3リットルガソリンエンジンとモーターの組み合わせは、発進加速がトルクフルで今までのクルマにない新しい走りに感動しました。アクセルを強く踏むと、V6サウンドが聴こえ、個人的にはとても好きでした。プリウスに乗った時は、アクセルを離し、回生して充電しているのがモニターで確認でき、ドライビングにアクセルを離す新たな喜びを加えてくれた新しいクルマ、環境だけでなく人の心にもやさしいクルマだと驚きましたが、クルーガーハイブリッドは、ハイブリッドカーがガソリンエンジンだけのクルマより強くたくましく感じられ、それでいて同じ排気量のクルマと比較して12km/Lと実燃費もいい。また私にとって大事なのは4WDであること。クルーガーハイブリッドは、必要に応じてモーターでリヤ駆動をするE-FOUR、電気式4WDも魅力でした。ランドクルーザー70を持っていたので、さすがにクルーガーハイブリッドでオフロードは走りませんでしたが、それでも雪道などE-FOURのおかげで安定した走りが魅力でした。

再びダカールラリーに挑む。でも愛車は

2009年に片山右京さんとコンビを組んでランドクルーザープラドでダカールラリーに参戦することとなり、再び過酷な大自然に挑みました。さらに2011年、2012年とチームランドクルーザートヨタオートボデーの2号車ドライバーとして、エジプトのラリーにランドクルーザー100で、ダカールラリーにはランドクルーザー200で参戦しました。やはりラダーフレームにサブトランスファーがある4WD、ランドクルーザーシリーズの信頼性、耐久性、悪路走破性の高さを世界一過酷なラリーで体験し、あらためていつかは新しいランドクルーザーに乗ってみたいと思いました。

2009年、舞台を南米大陸へ移したダカールラリー。片山右京選手のナビゲーターとして参戦
2009年、舞台を南米大陸へ移したダカールラリー。片山右京選手のナビゲーターとして参戦
ランドクルーザープラドで参戦。右京さんのドライビングの横に乗れる贅沢なナビゲーターでした
ランドクルーザープラドで参戦。右京さんのドライビングの横に乗れる贅沢なナビゲーターでした
2010年、エジプトで開催されたファラオラリーにランドクルーザー100で参戦
2010年、エジプトで開催されたファラオラリーにランドクルーザー100で参戦
2011年、チームランドクルーザー トヨタオートボデーの2号車ドライバーとしてランドクルーザー200でダカールラリーに参戦
2011年、チームランドクルーザー トヨタオートボデーの2号車ドライバーとしてランドクルーザー200でダカールラリーに参戦

ハイブリッドカーの進化を体感したくて3台目はH.H.

クルーガーハイブリッドを9年乗り続けて、そろそろ買い替えようと思っていたところ、ハリアーハイブリッドが復活することを知り、ハイブリッドカーがどのように進化したのか、日常で体感したくて乗り換えました。エンジンは2.5リットルガソリンエンジンとモーターとの組み合わせでコンパクトになりましたが、そのぶん車両重量が約100kg軽くなり、軽快な加速感が楽しめ、モーターのみで走行する距離も伸び、実燃費も17km/Lと着実に進化していることを実感しました。クルーガーハイブリッドは、エンジン、モーターの存在感が強く、常用域では感じませんが、スポーツ走行をすると、プラットフォームやサスペンションがついてきていない感じでしたが、ハリアーハイブリッドは、パッケージとしてとてもバランスがとれたクルマです。ボディデザインも気に入っていましたが、特にインテリアが上質で、とても居心地がいい。東京に暮らし、仕事で長距離移動をする私にとって、移動中の快適さと値ごろ感のある経済性がぴったりでした。

ボリュームのあるフロントマスクのデザインが気に入っていたハリアーハイブリッド
ボリュームのあるフロントマスクのデザインが気に入っていたハリアーハイブリッド
再び親戚の家へ。私がハリアーハイブリッドにする前に、すでにハリアーハイブリッドはLEXUS RX450hに、プリウスも新型に買い替えていた
再び親戚の家へ。私がハリアーハイブリッドにする前に、すでにハリアーハイブリッドはLEXUS RX450hに、プリウスも新型に買い替えていた

また新しいランドクルーザーを相棒に選んだ理由

普段乗るのであれば、ハイブリッドカーがライフスタイルに合っていたのですが、もともとランドクルーザーとともに世界に挑んできたので、いつかはまた新しいランドクルーザーに乗ってみたいと思っていました。ダカールラリーやサハラ砂漠での医療支援活動などで乗っていたのは、すべてディーゼルエンジン搭載のランドクルーザーだったので、新世代のディーゼルターボエンジンが搭載されたら、また検討しようと思っていました。そこへ2.8リットル直噴ターボディーゼルエンジンの1GD-FTVが、2015年に発表されました。

熱損失を低減し、トルクフルで燃費のいいクリーンディーゼルターボ、1GD-FTV
熱損失を低減し、トルクフルで燃費のいいクリーンディーゼルターボ、1GD-FTV

最大熱効率が44%と世界トップレベルで、従来の1KDエンジンより、ダウンサイズしながらも燃費、出力、トルクすべて二ケタで向上しているのに興味が湧きました。海外で新型ハイラックスやフォーチュナーに搭載されたので、オーストラリアや南米、タイで乗ってみると、低回転からトルクがしっかり出ていて走りやすさにびっくりしました。国内でもランドクルーザープラドに搭載され、こちらもオフロードコースで走らせてみると、私の4.2リットル直列6気筒ディーゼルエンジン搭載のランドクルーザー70より、格段にトルクフル。急坂を登る時など、その差が歴然で、自分のドライビングがうまくなったのかと勘違いするほどです。しかも乗り心地がいい。
そして今年マイナーチェンジが行われ、フロントマスクのデザインがより落ち着いた感じになり、選んだグレードは、TX“Lパッケージ” (クリーンディーゼルエンジン車)。確かにオフロードで走破性を高めてくれるマルチテレインセレクトや特にオンロードでスタビライザーを効かせ、オフロードでオフになるKDSSは魅力で、最上級グレードのTZ-Gがよいのは事実。しかしサスペンションを変えたりすることを考えると、エアサスでないほうがボルトオンで換装できるし、何よりダカールラリードライバーですから、自分のドライビングテクニックでオフロードを走破したいと思いまして。万一に備え、リヤデフロックは装備しました。

10月初旬にハリアーハイブリッドと代替えで普段の相棒となったランドクルーザープラド
10月初旬にハリアーハイブリッドと代替えで普段の相棒となったランドクルーザープラド

納車してすぐ約400km移動することが4回続きました。ここはToyota Safety Sense Pの機能を体感してみようと思いました。Toyota Safety Sense Pは、ミリ波レーダーと単眼カメラを併用した高精度な検知センサーと統合的な制御により、クルマだけではなく、歩行者の認識も可能で事故の回避や衝突被害の軽減を支援してくれます。高速道路走行中は、レーダークルーズコントロール(ブレーキ制御付/全車速追従機能付)機能があり、クルーズコントロールを先行車の車速より少し高く設定すると、一定間隔を空けて追従走行をしてくれます。これは精神的に楽です。あと特に驚いたのが、シートとステアリング。シートは乗り始めこそ多少硬めに感じるのですが、400km近く走っても、おしりも腰もまったく疲れない。ステアリングは適度な重さがあり、神経質にステアリングを補正する必要がないため気軽です。
そしてまったく別の角度でも日本でランドクルーザープラドを購入する魅力があります。国内で車両価格を見ると、みなさん決して安くはないと思われますが、仮に約430万円の仕様で似たものを海外で買おうとすると、オーストラリアでは約530万円、ロシアでは約600万円、フランスでは約640万円、モロッコ約では700万円(12月13日為替レートにて算出)と日本が一番安いのです。海外の知人からは「日本はランクルが安く買えていいな」と羨ましがられます。クルマの価値をわかっているかたは、この価格以上の価値をランドクルーザープラドに見出しています。
いろんな角度から、私がなぜランドクルーザープラドを相棒に選んだかを思い返してみました。ランドクルーザー70から派生して生まれたランドクルーザープラドが、70系、90系、120系、150系と進化をし、クリーンディーゼルターボとトヨタの「実安全の追求」から生まれた衝突回避支援パッケージを搭載するまで進化しました。現代のランドクルーザーと、21年前に購入した、武骨なまで機械的なランドクルーザー70と2台所有し、ランドクルーザーの変遷を感じたいのが一番の理由です。

これから少しずつですが、自分らしい1台にするため、少しカスタムをしていきたいと思います。次回をお楽しみに。

(テキスト:寺田 昌弘)
(写真:寺田 昌弘ほか)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。