今年で50周年。同じ年生まれのハイラックス、その生い立ちを振り返る

1968年生まれの私にとって、今年は50年を迎える年。同じ1968年生まれといえば、昨年13年ぶりに日本でも販売されたハイラックス。現在はタイ、アルゼンチン、南アフリカを中心に生産され、発売からすでに世界1772万台が販売されています。そんな日本生まれで世界で愛されるハイラックスがどのように成長してきたのか、振り返ってみました。

1968年3月21日、トヨタが企画し、日野が開発・生産を担当し、世に送り出されました。私の住む東京は、当時まさしく映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のような感じの名残があり、大通りには都電が走り、カラーテレビ、クーラーそして自動車(カー)が新三種の神器(3C)と呼ばれ、一部の家庭にしかなく、国民の憧れでやっと手に届きそうな時代。クルマでいえば、パブリカでは少し物足りなく、コロナやカローラに憧れがあるが、人だけでなく仕事で荷物も運びたい。細い路地でも入って行け、そしてセダンなどとあまり変わらない乗降性のよいクルマがいい。そんな時代にマッチしたのがハイラックスです。

初代からフロントウインドウが乗用車のようにスラントしていて、ドライバーからは乗用車を運転しているような景色が見えるようになっていました。そもそもハイラックスの語源は、「高級な」「より優れた」という意味の”High”のHiと「贅沢な」「豪華な」という意味の”Luxury”のLuxをくっつけた造語で、トラックとしての高い性能を持ちながら、高級感もあり乗用車としても使えることを目指したクルマ。2代目からはATがコラムシフトからフロアシフトになり、3代目は北米で人気となり、西海岸中心に車高を上げたハイリフトのカスタムカーが流行ったりして、日本でもタミヤがプラモデルを作ったりしました。こうして働くクルマだけでなく、ピックアップとして若者に人気が出てきました。

そして4代目。みなさんも見覚えがあると思うのですが、1985年の大ヒット映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で主人公のマイケルJフォックスが憧れていたブラックのハイラックスが現実に自宅の駐車場にあったこと。当時、北米では実際若者の間で、カスタマイズしたブラックのハイラックスを乗るのがCOOLでした。北米であれば本来、フォードやシボレーなどフルサイズピックアップがあり、そちらが一般的でしたが、ハイラックスのサイズ感、大衆化していなかったところが、エッジの効いた若者にもてはやされたようです。

5代目は、逆に日本がバブル時代に入り、六本木には大学生が親に買ってもらったBMWの318iで乗りつけるのがファッションとなり、当時この「BMWは六本木のカローラ」とさえ呼ばれるほど一般的でした。コンパクトな外国車も流行りましたが、さらにすごかったのはアウトドアブームとともにRV(現在のSUVに属する)の台頭です。パリ-ダカール・ラリーが日本でも盛り上がり、三菱・パジェロや、いすゞ・ビックホーン、日産・サファリ/テラノ、トヨタ・ランドクルーザー/ハイラックスサーフが都会に溢れました。そのなか、ハイラックスはスポーツピックアップとして若者に人気を博します。夜な夜な渋谷に集まるハイラックスに乗ったチームができたほどです。

6代目は引き続き海外では、アジアを中心に働くクルマとして、また仕事から家族とのドライブまで1台でこなせるクルマとして愛用されていました。国によっても異なりますが、タイの場合、ハイラックスのようなトラックタイプと乗用車では、税金や保険の額がかなり差があり、ハイラックスのようなピックアップは維持費も安く、市民の移動を支えていました。ただ日本では、RVブームを謳歌した若者が、結婚し、家族が増え、より人数が乗れ、居住性がよく、快適に移動できるミニバンに人気が集中するようになり、ハイラックスの需要が減ってきました。そして7代目は、トヨタの新たなグローバル事業として2002年に海外市場専用車を海外のみで国際分業するためのプロジェクト「IMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)プロジェクト」が立ち上がり、ハイラックスは海外生産、海外専用車となりました。

ただ6代目ハイラックスは、日本で働くクルマとして活用する方々が多く、販売終了から10年以上たっても、9,000台を超える登録車がありました。この6代目ハイラックスオーナーは、ほかに乗り換えられる新車がないため、とても困っていました。そこでこうしたオーナーの声に応え、タイ生産のハイラックスを日本でも販売するようになりました。2014年にランドクルーザー70を限定発売したところ、予想を大きく上回る販売となり、国内でもこうした本格4WD、ピックアップが欲しい、必要としている人たちがいる。ただランドクルーザー70は、ガソリンエンジンでマニュアルミッションのみの設定でした。今回、日本で販売されているハイラックスは、低燃費のディーゼルターボエンジンとAT仕様。発売開始とともに多くのバックオーダーを抱え、納車が9カ月以上先になるほど、日本でも歓迎されました。現在は4-5カ月くらい(4月2日時点・トヨタ自動車WEBサイト調べ)と、多少追いついてきましたが、相変わらずの人気です。

「Made in Japan」ではなく、「Made by Toyota」として世界中で信頼され、活躍するハイラックス。クルマのコモディティ化が話題に上がるなか、これだけクルマらしいクルマもなかなかないと思います。ぜひ機会があったら、一度乗っていただくことをお勧めします。乗用車にはない、なんともいえないクルマらしさを体感していただけると思います。私はハイラックスと同じ歳として、ハイラックスの持つ信頼性、耐久性(気力、体力)、悪路走破性(どんな困難も乗り越えられる)の高さを見習いたいと思います。

初代(1968年~)
初代(1968年~)
2代目(1972年~)
2代目(1972年~)
3代目(1978年~)
3代目(1978年~)
4代目(1983年~)
4代目(1983年~)
5代目(1988年~)
5代目(1988年~)
6代目(1997年~)
6代目(1997年~)
7代目(2004年~)
7代目(2004年~)
8代目(2015年~)
8代目(2015年~)

(文/寺田 昌弘)
(写真/トヨタ自動車)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。