地平線の彼方に夢を描く、ある夫婦の話(後編)

1980年代から90年代にかけ、世界的に特に注目されたモータースポーツのパリダカールラリー(通称:パリダカ)に魅せられ、オフロードモータースポーツに挑み続ける仲間がいます。新堀忠光さん、香織さん。彼らは国内、海外のラリー、クロスカントリーレイドに挑み続ける夫婦です。特にオフロードモータースポーツが盛んな海外で果敢に挑む姿がかっこいい。そんなお2人をご紹介する今回のコラム、後編をご覧ください。
(前編はこちら http://gazoo.com/article/column_terada/180831.html

メカニックとして活躍し、モロッコで挑戦し続ける香織さん

同じようにテレビでパリダカを観て好きになり、いつか出場しようと思い、そのためにはマシン整備のスキルが大切だと、メカニックになった香織さん。持ち前の集中力と献身的な心でスキルを上げ、なんとWRCに参戦するチームのメカニックになりました。最初は高山自動車短期大学チームのサポートメカニックとしてWRCオーストラリアに挑戦し、その後はプロダクションカー世界ラリー選手権(PWRC)に参戦するSUBARUワークスチームにも参加するほどに。私は、香織さんが駆け出しのころにお会いしたことがありますが、こんな可愛らしい華奢なかたがラリーマシンまで作るなんてすごいと鮮明に覚えています。女性メカニックの可能性を切り拓いてくれたすばらしい女性です。

そして21世紀になる時、2001年のダカールラリーに日野レンジャーで参戦している「HINO TEAM SUGAWARA」のメカニックとして参加出来ることになりました。フランス・ルマンにあるガレージでの出発前整備と、ヨーロッパステージのみ帯同し、日野レンジャーの総合2位をサポート。憧れのアフリカ大陸へは行けませんでしたが、「冒険の扉」を開け、サハラ砂漠への道が見えてきました。

メカニックとして着実にキャリアを積んできた香織さんは、選手としてサハラ砂漠を走る時が来ます。モロッコで開催される女性だけのラリー「ラリー・アイシャ・デ・ガゼル」に2016年から毎年参戦しています。「ガゼルのビデオを目にして、一瞬でその魅力に引き込まれてしまいました。憧れの美しく壮大な砂漠や、活き活きした参加者の瞳、スケール感が半端ないモロッコの大自然を舞台にした冒険をとても魅力に感じ、出場してみたいと思いました。」

TRDラリーチャレンジで知り合った小山昌子さんと意気投合し、2014年の暮れにチームを結成。説明会やレンタルラリー車両の契約、ナビゲーショントレーニングなどでフランスへ行き1年半の準備期間を経て、ついにアフリカの大地でのラリーのスタート地点に立ちます。ラリー初参戦の一番の思い出は4時間スタックしたこと。硬い路面に見えたところの下が泥状にぬかるんでいて、主催者がみても脱出不可能だと。ここで香織さん達は主催者のレスキューを受けず、自分達だけで脱出すると宣言。炎天下のなか4時間も泥を掘って脱出に成功しました。

「このラリーの魅力の一つは、クルー2人の力ですべてやりきらなければならない事。マシンが壊れても、スタックしても、2人の力でビバークまで帰る。主催者に助けてもらったらペナルティです。この時のスタック脱出の様子はガゼルのビデオでも登場し、ビデオを見た参加者の多くが、昌子と香織が出来たのだから、自分達もやれば出来ると言う気持ちになったそうで、私達を尊敬したと言ってくれたことは一生忘れられない思い出です。いまだに伝説になっています(笑)」

ガゼルラリーの参加者は、主婦やモデル、経営者、エンジニアそしてプロドライバーなど職業は様々。皆それぞれの目標を持って挑戦しています。今までの自分を変えたいなど自分のために頑張る人、病気の人や自分と同じように酷い虐待を受けて社会復帰出来ずにいる人を元気づけようと他人のために頑張る人。出場者がみなエネルギッシュでかっこいい女性ばかり。ラリー初挑戦は4×4クラス83位。翌2017年は香織さんがドライバーとなり、仲良くなったステファニーさんとコンビを組んで参戦。参加台数137台中総合2位の快走を見せますが、かなり古いレンタルマシンであるため、金属疲労によるトラブルが多く、香織さんの高いメカニック技術を活かしてなんとか11位でゴールしました。これもすごいと思いましたが、香織さんはいいマシンで出たいと考えました。すると忠光さんが自家用車で使っていたトヨタFJクルーザーを使えばと提供してくれました。そこから2人でマシンを作り上げ船積みしてモロッコでのリベンジへ。惜しくも転倒してしまい順位はつかなくなってしまいましたが、最後まで走り切りました。「うまくいかなかった時のほうがいろんなことを学んでいます。ガゼルラリーでは世界中から参加する多くの仲間が出来ましたし、もっと挑戦していきます」とラリーに懸ける思いは増すばかりです。

  • ラリー・アイシャ・デ・ガゼルに初参戦した香織さんのマシン
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  • モロッコの大地から初参戦した2人への洗礼、スタック
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  • この状態から4時間かけ、見事脱出した。ビバークへ着くとほかの出場者から称賛の嵐が
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  • 女性だけが挑戦出来るラリー。世界各国からクールな女性達が集まる
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クルマに触れている時が何よりも好きな香織さん
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今年も様々なオフロードモータースポーツに挑戦する新堀夫婦。忠光さんが挑戦する時は、香織さんがメカニックとしてサポートし、香織さんが挑戦する時は、忠光さんが全面的にバックアップする。未踏の大地に新たな轍をつけて走ることは、人生そのもの。力を合わせ2人で挑戦し続け、いつかダカールラリーへ挑戦するという、地平線の向こうへ夢みる2人のこれからのさらなる挑戦に期待しています。

(写真:DIRT COMP MAGAZINE・Rallye Aïcha des Gazelles du Maroc / テキスト:寺田昌弘)

ダカールラリー参戦をはじめアフリカ、北米、南米、欧州、アジア、オーストラリアと5大陸、50カ国以上をクルマで走り、クルマのある生活を現場で観てきたコラムニスト。愛車は2台のランドクルーザーに初代ミライを加え、FCEVに乗りながらモビリティーの未来を模索している。自身が日々、モビリティーを体感しながら思ったことを綴るコラム。


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