クラシックカーが生きる秘密基地。WAKUI MUSEUM

幼い頃、クルマを見てワクワクした気持ち……感じたことあるだろうか。そんな気持ちを思い出させてくれる絶好の場所がある。それが埼玉県加須市にある小さな博物館、WAKUI MUSEUMだ。

ロールスロイスとベントレーの専門輸入商を始めた涌井清春氏。自身も大変な「クルマ道楽」で数々の貴重なコレクションを所有していたことから、これらを無料公開しようと始めたのがきっかけ。近くには在庫車の販売を行う「ヘリテージ」と修理・メンテナンスを行う「ファクトリー」も併設されている。

今回お世話になったのはWAKUI MUSEUMの長嶺周造氏だ。

決して広くはない敷地だが、ロールスロイスやベントレーといった超のつく高級車がズラリと並ぶ様は圧巻
しかもこれらはすべて動態保存されており、いつでも動かせる”現役“なのだ

こちらのベントレー・3リッターは故白洲次郎氏の愛車。氏の登録ナンバーもそのまま残っている。
英国のBDC(ベントレー・ドライバーズ・クラブ)のメンバーが所有しており、どんな買い手が来ても決して譲ることはなかったそう。現在日本にあるのは、涌井氏の長年の交渉の賜物。
故白洲氏の愛娘・桂子さんを乗せたこともあるそうだ。孫の信哉氏とはミッレ・ミリアで1600キロを走ったという。もちろんこちらも現役。

こちらのロールスロイス・1937年製25/30HPスポーツサルーンは、故吉田茂元首相の愛車。
故白洲次郎氏は吉田内閣のブレーンでもあった。すでに故人となった2人の愛車がこうして揃っていることは、感慨深いものがある。こちらもメンテナンスはされているが、座席シートは当時のまま。運転手の真後ろの後部座席は、いまでも氏が座ったときのように少しへこんでいる。

こちらのベントレーは4 1/2リッターの第一号にして、1928年ル・マン24時間レースで総合優勝した有名なワークスカー。その後もさまざまなレースで輝かしい成績を残している。チームメンバーから「オールド・マザー・ガン」と愛称されたこのクルマの戦歴は、訪れたときに聞いてみてほしい。

飛行機エンジンを積んだロールスロイス・ファンタムⅢ。1935年秋にデビューしたものの、第二次世界大戦が勃発して生産は中止。生産台数はわずか715台しかない
故森繁久彌氏の愛車である茜色が美しいオールド・ライレー
アメリカで生産されたというロールスロイス・シルバーゴースト
第二次世界大戦後、ロールスロイスが最初に製作したシルヴァー・レイス
コーチビルダーのプレート。当時はどこの会社が何を造ったのか、所有者は誰だったのか、すべて記録がされていた。こうした歴史をさかのぼってみるのも、クラシックカーを味わう醍醐味のひとつ

こうした希少な高級車たちは、涌井氏が金にあかせて買い占めたものではない。どうしてここへ来るに至ったのか、人と人の絆を感じるエピソードが一台一台に備わっている。このエピソードがまた面白く、当時の時代背景と涌井氏の人柄がひしひしと伝わってくる。もし訪れたのなら、ただ眺めるだけではもったいない。ぜひそれぞれの昔話を聞かせてもらうことをオススメする。

「名誉ある一時預かり人」の使命

「ヘリテージ」「ファクトリー」も見学させていただいた。もうすぐヴィンテージとなるクルマたちは現代のクルマと仕様が違い、古い技術が必要。現在も持ち込まれるクルマに対して、技術者が足りないそうだ。
取材中にも「このオーナー、毎日銀座をぶっ飛ばすんだから困っちゃうよ」と言葉とはうらはらな満面の笑みで、クルマのメンテナンスをされている方に会った。この人たちがいなくなってしまったら、動かせなくなる貴重なクルマたちがたくさんある。

涌井氏は希少なコレクションの所有者でありながらも、「名誉ある一時預かり人」としてクラシックカーの文化を次世代に残せるようさまざまな取り組みをしている。
「WAKUI MUSEUM」を無料公開しているのも、「子どもたちには古い機械でもいいものがある、クルマのデザインにも歴史があることを感じて欲しい」という涌井氏の想いからだそう。
実際に家族連れが見学に来たり、子どもがスケッチや課外授業の見学で訪れたりすることも。WAKUI MUSEUMでも近所の小学校へ赴き、子どもたちをクルマに乗せて走らせることがあるそうだ。

珍しいロールスロイスやベントレーの見学というだけではなく、古いクルマの歴史と文化まで教えてもらえる貴重な博物館「WAKUI MUSEUM」。
クラシックカーマニアの人はもちろん、そうでないクルマ好きの人もきっと夢中になってしまうだろう。

<施設情報>
WAKUI MUSEUM
埼玉県加須市大桑2-21-1
0480-65-6847
http://www.wakuimuseum.com
開館日:土曜・日曜 11:00~16:00
※日曜日は涌井清春氏に会うこともできる

(ヤマウチ+ノオト)

[ガズー編集部]