スバル4WDの過去、現在、そして未来を知る(後編)

先日、スバルの雪上試乗会に出かけ、スバルのAWD(四輪駆動=4WD)について勉強をしてきました。前編ではスバルAWDのルーツを中心にお伝えしましたが、後編では現在、そして近い将来のスバルAWDについてのトピックをお伝えしましょう。

ハンドルを切った状態での発進性とスタック脱出性が向上

フォレスターやアウトバックなど(スバルとしては)背が高めのモデルには、AWDシステムに組み合わせて悪路走破性を高める電子制御機構が採用されています。それが「X-MODE」。スイッチを押すとスタビリティコントロール(VDC)が悪路重視の制御に切り替わるほか、デフのロック率(締結率)も高められてタイヤの空転をより防ぎ、スタックしにくくしてくれる力強いギミックです。実は、フォレスターもアウトバックも、最新のモデルではこの「X-MODE」の制御が進化しているのでした。

雪上走行をするアウトバック。電子制御のAWDシステムが雪道での走破性を高める

これまでは、ハンドルを大きく切った状態ではセンターデフのロック率が低めになっていました。低速で小さく曲がる際に、前後の回転差によりブレーキがかかったように減速する“タイトコーナーブレーキング現象”を防ぐためです。

しかし最新バージョンでは、その状況でもセンターデフのロック率を高める制御に変更。スリップしやすい路面ではタイトコーナーブレーキング現象が起きにくいため、この現象によるデメリットよりもトラクションがかかることを重視したのです。ハンドルを切った状態での発進やスタックからの脱出がしやすくなり、状況の悪い道でもますます安心感が高まっているのでした。

最新モデルのフォレスター。上り坂で片輪が浮き上がっていても、ほかのタイヤにしっかりとトラクションをかけて前へ進む

これから発売する最新進化版のAWDにも試乗

そして今回体験した最大のサプライズが、まだ発売されていない最新のAWDを雪上で試したこと。開発中のシステムを雪の上で体験走行させるとは、なんと太っ腹なのでしょうスバルさん!

そのシステムが、次の改良でWRX STIに搭載される予定の新「DCCD(ドライバーズ・コントロール・センター・デフ)」。ラリーやモータースポーツでも戦闘力を高めるこのシステムに、なんと2007年以来の大幅改良を実施したのです。最大のポイントは、挙動の安定とタイムラグのない作動のためにセンターデフに組み込んでいた「トルク感応式LSD」をあえて取り外したこと。結果的にアクセルオフ時はセンターデフがロックせずフリーになる作動となりました。

新DCCDを搭載したWRX STI。アクセルオフでの回頭性が向上し、“よく曲がる”ハンドリング性能を手に入れた

そのメリットはターンインでわかります。アクセルオフでの回頭性がスムーズになり、より曲がりやすいハンドリングに。たしかに、現行システム搭載車と次世代システム搭載車を乗り比べてみると、曲がり始めるときのスムーズさに違いを感じることができました。

エンジニアによると「トルク感応式LSDの取り外しは、ボディの進化で安定感が高まったことと、電子技術の進化で電子制御デフの反応が早くなったので実現できた」とのこと。車体の進化と電子技術の進化が、一見したところそれとはあまり関係がなさそうなAWDシステムにも変化を与えたというのがおもしろいですね。意外に思いましたが、言われてみればたしかに納得です。

雪の上で感じた「安心」と「愉しさ」

丸一日、雪の上でスバルのAWD車を走らせてもっとも強く感じたことは、「安心感」でした。スバルのAWDはいわゆる“クロカン4WD”のような徹底的に悪路走行に向けたシステムではありませんが、だからこそ気難しさや複雑な操作が必要なくて乗りやすいし、舗装路だって楽しく快適に走れる。そのうえ、雪道でも安心して移動することができるクルマなのです。

安心感と同時に、“愉しさ”も与えてくれたスバルのAWD。前の2台がフォレスター、後ろの2台はアウトバックだ

それから予想以上だったのは、スバルAWDの“愉しさ”です。より進化した新DCCDはもちろんのこと、ほかのシステムでもまるでドライバーの意図を汲み取るかのように、「楽しい走りをしよう!」と思っていれば、それに応えてくれるのが印象的でした。アクセルワークでクルマを曲げるという、安定性とはまるで逆の“楽しい乗り方”にもしっかりと対応してくれるのです。そんな懐の太さに、スバルAWDの真髄を見たような気がしました。

FR(後輪駆動)らしいドリフト姿勢で走るBRZ。AWDとはまた別の“愉しさ”がある

ところで試乗会には、AWDではなくFR(後輪駆動)のBRZも用意されていました。それはそれで雪道がとっても楽しかったのは、ここだけのナイショです。ええ、決してAWDがつまらないのではなく、スバルはFRもしっかりと楽しく走れるっていうことですよ(笑)。

(工藤貴宏+ノオト)

[ガズー編集部]

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