自動運転に備えてリニューアル。スバルの新しいテストコースはまるで仮想現実だった

「高度運転支援技術」を磨くためのテストコースを新設したので見に来ませんか? スバルからそんなお誘いを受けて、北海道へ行ってきました。テストコースは美深(びふか)という町にあります。といっても、多くの人は聞いたこともない町かもしれませんね。ボクも初めて知りました。

旭川空港に降り立ち、目的地のテストコースまではクルマで2時間ほどの移動。車窓に広がる雄大で美しい大自然は、名ドラマ「北の国から」のワンシーンのよう……なんて思いましたが、あの舞台となった富良野は同じ北海道とはいえ150kmも離れた別の場所でしたね。長野出身のボクにとって、北海道といえばついつい「北の国から」なので……。

それはさておき、実はスバルは以前から美深にテストコースを持っていました。しかし主に雪上での走行評価や暖房など車両性能を確認するための冬季テスト用で、使われているのはほぼ冬場のみ。しかし今後、高度運転支援技術やその先の自動運転の技術を磨くにあたってのテストコースが必要という判断から、約30億円という莫大な投資をしてコースを大改修。この夏に完成し、お披露目されたというわけです。

上が高速周回路、手前にあるのが市街地路。CGによるイメージ
上が高速周回路、手前にあるのが市街地路。CGによるイメージ

敷地面積は361ha(ヘクタール)という広さで、日本の自動車メーカーの中ではもっとも北にあるテストコースなのだそうです。ちなみに自動車メーカーが北海道にテストコースを作る大きな理由のひとつが、比較的フラットで広い土地を確保できるから。さすがにこの規模の施設を本州に作ろうと思えば土地の用意が大変そうです。

コースは実際の道路に近い環境

テストコースと聞くと、みなさんはどんなイメージでしょうか? 広くて長い直線とバンク付きの旋回部分を備えた高速周回路を想像する人も多いかもしれませんね。自動車メーカー各社、もちろんスバルもそんなコースを栃木県南部に持っていますが、ここ美深のテストコースはかなり違います。メインは全長4.2kmの“高速道路を模した高速周回路”と片側一車線の対面通行を想定した市街地路なのです。

高速周回路は分岐や合流もあって高速道路といっても遜色のない作り
高速周回路は分岐や合流もあって高速道路といっても遜色のない作り

高速道路を模した高速周回路は、緩やかなカーブがいくつも作られています。そのうえインターチェンジを想定した分岐や合流、そしてサービスエリアを想定した場所まであって、走ってみると本当に高速道路を走っているかのように錯覚するほどでした。

四角い部分がサービスエリアを想定。高速道路本線から分岐して入れるようになっている。高度運転支援技術や自動運転の開発にあたってはこういう場所までチェックする必要があるのだ
四角い部分がサービスエリアを想定。高速道路本線から分岐して入れるようになっている。高度運転支援技術や自動運転の開発にあたってはこういう場所までチェックする必要があるのだ

雄大な自然をバックに4車線の高速道路(のようなコース)があり、外国をドライブしているような不思議な感覚でしたよ。たしかに、自動運転につながる技術を磨くなら単純に路面だけのテストコースではなく、公道に似せた道路が必要ですよね。

まるで造成した住宅街のようなこちらは市街地路。交差点で安全運転支援機能などが試せる。ちなみに「アイサイトver.3」は赤信号も検知でき、アダプティブクルーズコントロール作動時に前方が赤信号だとアクセルをオフにする制御になる
まるで造成した住宅街のようなこちらは市街地路。交差点で安全運転支援機能などが試せる。ちなみに「アイサイトver.3」は赤信号も検知でき、アダプティブクルーズコントロール作動時に前方が赤信号だとアクセルをオフにする制御になる

市街地路は交差点や信号機などがあるほか、交差点での右折レーンや導流帯など現実に即した形状の道路を再現。そしてラウンドアバウト(円形交差点)なんかもあって、まるで映画のセットのよう。高速道路を模した周回路もそうですが、この市街地路も実際の道路環境をきちんと再現しているのがこのテストコースの最大の特徴ですね。

信号機があり、交差点があり、なんだか造成したばかりの住宅地みたいに見えてきませんか? 地元では「仁宇布ニュータウン」(仁宇布とはテストコースが置かれた地域名)と呼ばれているとかいないとか(説明員談)。ちなみにこの地域(テストコース周辺)には信号機がひとつしかなく、この市街地路に設置された2つの信号機が地元で2つ目と3つ目なのだそうです。そのくらいのんびりした場所に作られているということですね。

敷地内には大掛かりな“動物ゲート”も設置

北海道の雄大な自然といえば、このテストコースの周辺には野生動物もたくさんいます。キツネなど小型動物だけでなく、クマなどの大型動物まで。そんな動物たちがもし高速周回路に入り込んで高速で走る車両とぶつかったら……。そんな痛ましい事故を防ぐ工夫もありました。

大型バスも出入りできるゲート。高速走行中のクルマが動物に衝突した場合、動物だけでなくクルマに乗っている人も重大なダメージを受ける可能性がある
大型バスも出入りできるゲート。高速走行中のクルマが動物に衝突した場合、動物だけでなくクルマに乗っている人も重大なダメージを受ける可能性がある

それがこの高速周回路に入る道に作られた「動物ゲート」。高速周回路は動物が入れないようにグルリとフェンスで囲まれていて、テスト車両が入る出入口には大きなゲートが作られているのです。こんな設備も北海道らしいですね。ちなみにこの動物ゲート、従来は手動で開け閉めしていたものが、改修後は管理センターからの遠隔操作で開け閉めできるよう進化したそうです。

地元の人の理解と協力がテストコースを支える

スバルが美深で冬のテストをはじめたのは1977年。当初は周囲の一般道で試験していましたが、1989年からは冬季閉鎖の道道や町道を借りて実施するようになり、専用の「試験場」が開設されたのは1995年になってから。そして今回、自動運転までをも視野に大改修が行われたのでした。

「昔は少人数で細々と運転支援システムを開発していました。そんな我々のために広大なテストコースを作っていただけるなんてなんとも感慨深いです」とは、20年前から安全運転システムの開発に携わる、スバル自動運転プロジェクトゼネラルマネジャーの柴田英司さん。トヨタやホンダも近年、安全支援システムや自動運転のために新たにテストコースを整備していますが、高速道路を模した高速周回路を備えるのはまだ珍しいですね。

スバルが美深にテストコースを作ることを決めたのは、地元の人々の協力があったからだといいます。冬季テストを始めたころから多くの配慮や支援を受けていて、1988年にはスバルと地元をつなぐ「富士重工業美深会」という組織も地元の人たちを中心に発足。テストコース内で見学やマラソンなどのイベントを開くなど、スバルと美深町やその周辺の人たちを繋ぐ役割を果たしています。テストコースを走れるイベントも開催するなど、スバルファンにとってはうらやましい環境ですね。また今回のテストコースのメディアお披露目の際には、地元の人たちによるランチがふるまわれました。施設と地元の良好な関係は、微笑ましいものです。そして地元とつながった自動車メーカーっていいですよね。

帰り道は、高速道路でハンドルに手を添えているだけで車線をキープしてくれる「アイサイトツーリングアシスト」を搭載したレヴォーグを運転しながら旭川空港へ。地元や動物とも共存しながらこれを磨き上げていくんだな、とスバルの高度運転支援システムの進化がますます楽しみになりました。

(取材・文:工藤貴宏 編集:木谷宗義+ノオト)

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