災害時に“最後の砦”となるNTTドコモの移動基地局車

今や生活する上で、携帯電話やスマートフォンは手放せない存在となっている。誰かとのコミュニケーションはもちろん、情報収集にとっても欠かせないデバイスであるが、いかなる場面でも利用できるのが当たり前に感じられる現代において、万が一、つながらなくなってしまったときの不安もひとしおだ。

そのような“もしも”の場面に備えるべく、携帯電話の回線を安定させるために活躍する“はたらくくるま”が、NTTドコモの所有する「移動基地局車」だ。

記憶に新しい2011年の東日本大震災などで派遣されたほか、人がごった返すイベント会場でも活躍するこの車両、一体どのような役割や仕組みを持つのか。株式会社NTTドコモのネットワーク本部 サービス運営部 災害対策室 担当課長を務める、高木晴男さんに伺った。

災害時の対応の振り返り結果をふまえて開発に着手

天高く伸びるアンテナが目立つ移動基地局車。そのメカメカしさにも目を奪われてしまいそうになるが、開発のきっかけは意外と古く、1993年に発生した「北海道南西沖地震」にまでさかのぼるという。

「当時は現在のように、老若男女の誰もが携帯電話を持つ時代ではなかったものの、ちょうどその可能性を感じ始めていたころでした。そんなときに北海道南西沖地震が発生し、携帯電話の基地局など通信インフラが被害を受け、その対応の振り返り結果をふまえて、翌年から移動基地局車の導入を開始しました」(高木さん)

移動基地局車とNTTドコモ ネットワーク本部 サービス運営部 災害対策室 担当課長の高木晴男さん
移動基地局車とNTTドコモ ネットワーク本部 サービス運営部 災害対策室 担当課長の高木晴男さん

実際、直近では2017年7月発生の九州北部豪雨や、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震でも現地に派遣された実績がある。携帯電話はエリアごとに設置された基地局を通して電波を運んでいるが、移動基地局車は「緊急時の救済手段」として活用されているという。

「携帯電話の回線は本来、エリアごとに設置された建物としての基地局を介して電波を中継しています。しかし、災害の状況によっては基地局設備が土砂で流されたりなどの被害も想定されます。移動基地局車はそういった場合に備えて、被災地に移動でき、被災エリアを救済できるというコンセプトで開発に着手しました」(高木さん)

基地局の代わりとして稼働する一方で、電波の混雑を解消する役割もある。実際、夏や年末に東京ビッグサイトで開催されるコミックマーケットや、大規模な花火大会などに派遣される場合もあり「あらかじめ混雑が想定される場所へ出動させています」と高木さんは解説する。

通常の基地局と同様の通信機器とアンテナを搭載

車両の種類はワンボックス車やトラックなど、移動基地局車は複数が用意されているという。車両自体は一般的なものを活用しているが、核となるのは3畳ほどある内部のスペースに設置された通信機器と、外部に見えるアンテナだ。

コイル状になっているのが電波を送受信するためのアンテナを動作させる物品の一部。本来は、先端に電波を送受信するための機器を設置する
コイル状になっているのが電波を送受信するためのアンテナを動作させる物品の一部。本来は、先端に電波を送受信するための機器を設置する

「車両の内部には基地局と同じ機器が設置されています。車上には地上で電波を送受信するためのアンテナのほか、衛星通信用のパラボラアンテナも設置されています。災害時には宇宙にある通信衛星を利用して、携帯電話ネットワークを構築する光ファイバー網の代わりとして機能します」(高木さん)

車両の天井部後方に設置された衛生通信用のパラボラアンテナ。電動で角度を変えられる
車両の天井部後方に設置された衛生通信用のパラボラアンテナ。電動で角度を変えられる

車両の後方には、電源が確保できない場合に備えて、大型の発電機も設置されている。あらゆる場面を想定して設計された移動基地局車であるが、実際に稼働する場合は、NTTドコモの「設備復旧班」が現地へ向かうことになる。

車体下部にはジャッキも搭載。さまざまな場所で車体を水平に保つために活用される
車体下部にはジャッキも搭載。さまざまな場所で車体を水平に保つために活用される

「たとえば、発生予測の難しい地震等が発生した場合にはまず、私どもの『災害対策室』が被害状況を収集します。被害状況によっては、移動基地局車の運用が必要となりますので、無線従事者等の資格を持つ人間で構成される『設備復旧班』を現場へ派遣します。あくまでも被害を受けた基地局の代わりとして派遣するため、サービス中断エリアを救済するために適した場所で、車両を固定した状態で活用しています」(高木さん)

万が一のとき、私たちの目には見えない電波は、現場のさまざまな人びとの努力により支えられている。

災害時に「派遣されない」ということが理想的な状態

現在、各都道府県に一定数を配置しているという移動基地局車。建物としての基地局と比較すると、一番の利点は車両タイプならではの「機動性」だと高木さんは話すが、一方で「車両を派遣しないでも携帯電話を使える状況にすることが我々の本望です」と思いを口にする。

「ドコモでは移動基地局車の導入の他にも災害対策に取り組んでいます。たとえば、基地局の伝送路の複数ルート化などによるそもそもの基地局の信頼性向上や、基地局被災時に遠隔操作により周辺基地局でのエリア補完を可能とする仕組みを持った基地局の展開などがあります。災害が発生したときは、まず基地局の復旧を最優先に努めますが、土砂崩れ等で駆付けができない場合の応急措置のひとつとして移動基地局車が存在するため、本来ならば現地に派遣せずとも携帯電話を使える状況を実現することが望ましいんです。現在、車両自体の認知度向上のためにトミカやチョロQを販売したり、自治体の防災フェアで展示したりといった試みも行っていますが、一方で万が一のときに車両が派遣されていなくとも携帯電話が使える状況がユーザーのみなさまにとって最善であるということをご理解いただけるよう、伝えていくのが私どもの課題でもあります」(高木さん)

ある意味、災害時の“最後の砦”となりうるのが、移動基地局車に求められる本来の役割なのかもしれない。毎年開催されるNTTドコモの見本市「DOCOMO Open House」などでも見られるので、興味のある方はぜひとも足を運んでもらいたい。

▼NTTドコモ
URL:https://www.nttdocomo.co.jp/

(取材・文:カネコシュウヘイ 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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