「富士スピードウェイ」50年以上の歴史を振り返る

日本を代表するサーキットのひとつである富士スピードウェイ。レースファンにとっては馴染みの深いサーキットですが、その歴史を知れば、さらにサーキットが好きになってレース観戦も楽しくなることでしょう。そこで、今回は富士スピードウェイの歴史を振り返ります。

モータリゼーション真っただ中の1965年に誕生

日本にモータリゼーションが到来した1960年代は、同時にレースにも注目が集まった時代でもありました。1962年に三重県鈴鹿市に鈴鹿サーキットがオープン。同年に第1回全日本選手権ロードレースを開催、翌1963年には日本における最初の本格レースとなる第1回日本グランプリ自動車レース大会が開催されました。憧れの存在であったクルマが競うレースは当時、非常に大きな注目を集めたのです。

その熱気の下、1963年に富士スピードウェイの前身となる日本ナスカー株式会社が設立されます。「ナスカー」とは、アメリカで行われていたレースシリーズで、それを日本やアジアで開催しようというのが設立の狙いでした。また、ナスカーのレースは、楕円のいわゆるオーバルコースで開催します。つまり、最初はオーバルコースが想定されていたのです。

しかし、計画は紆余曲折を経て、ナスカーとの関係を白紙撤回。欧州風のレーシングコースが作られることに。当時、世界的に有名なレーシングドライバーのスターリング・モス氏も来日し、コース作成に対するアドバイスも行われました。サーキットを作るために、150万坪ある用地内にあった2つの尾根が切り崩され、3つの谷が埋められます。運んだ土の量は300万立方メートルにもなる大工事でした。

1964年から1965年にかけて行われた富士スピードウェイ建設の様子
1964年から1965年にかけて行われた富士スピードウェイ建設の様子

約1年をかけた1965年11月末に工事は終了。完成したのが、30度のバンクを備えた、全長6㎞のレーシングコースでした。30度バンクを使って全周を走るときは右回り。30度バンクを使わないようにショートカットした4.3㎞のショートコース設定も用意されており、その場合は左回りで走るようになっていました。

1966年3月に富士スピードウェイで初の4輪によるレース「第4回クラブマンレース」が開催された
1966年3月に富士スピードウェイで初の4輪によるレース「第4回クラブマンレース」が開催された

完成後の1966年1月に富士スピードウェイは営業を開始し、3月には2輪のオープニングレースと最初の4輪のレースとなる第4回クラブマンレースを開催。そして5月には第3回日本グランプリ、10月に国際格式の「日本インディ」が華々しく開催されました。その後、毎年のように開催される日本グランプリには、毎回10万人もの観客が集まる人気イベントになります。

メインストレートの先にあった30度バンクを駆け下りてくるレース車両。現在も、コースの一部が残っている
メインストレートの先にあった30度バンクを駆け下りてくるレース車両。現在も、コースの一部が残っている
1966年の開設直後のコースで、1963年と65年のF1チャンピオンであったジム・クラークがテスト走行を行った
1966年の開設直後のコースで、1963年と65年のF1チャンピオンであったジム・クラークがテスト走行を行った
  • 30度バンクを使用していた1960年代のメインストレート
    30度バンクを使用していた1960年代のメインストレート
  • 30度バンクを備えた1966年から1974年のサーキットレイアウト
    30度バンクを備えた1966年から1974年のサーキットレイアウト

GC(グラチャン)や初のF1に沸いた1970年代

1970年になって突然のように社会問題となったのが「排気ガスの公害問題」です。その影響で、1960年代に人気を集めた日本グランプリは中止に。その穴埋めとして富士スピードウェイは、1971年より独自の新しいレースシリーズをスタートさせます。それが「富士グランチャンピオンシリーズ(通称“グラチャン”)」です。

このシリーズはテレビで中継されたこともあり、すぐ人気を集めることに成功します。その後、1973年のオイルショックにも負けず、シリーズは1970年代だけでなく1980年代まで高い人気を維持し続けました。ただし、1974年には30度バンクの使用が中止になり、コースは右回り4.359㎞となります。

1971年より始まった富士スピードウェイ独自のイベント「富士グランチャンピオンシリーズ(通称“グラチャン”)」
1971年より始まった富士スピードウェイ独自のイベント「富士グランチャンピオンシリーズ(通称“グラチャン”)」

1976年、富士スピードウェイは大きなイベントを呼び込むことに成功します。それが日本発となる「F-1世界選手権in JAPAN」でした。大雨の中で開催されたレースで、ジェームス・ハントが逆転で年間チャンピオンを獲得。星野一義や長谷見昌弘、高原敬武などの日本人レーサーなどの活躍もあってレースは大成功に終わり、翌1977年もF1が開催されました。

1976年に開催されたF1は雨中のスタートとなった
1976年に開催されたF1は雨中のスタートとなった
1974年、30度バンクの使用を中止、右回り4.359㎞のコースに
1974年、30度バンクの使用を中止、右回り4.359㎞のコースに

耐久レースが人気になる1980~1990年代

1982年、富士グランチャンピオンシリーズの人気を横に、富士スピードウェイにおいて新たなレースイベントとなる、世界耐久選手権富士6時間レース(WECジャパン)が開催されます。その後、グループCと呼ばれる純粋なレーシングマシンを使った耐久レースは人気レースのひとつとして定着。現在も、ル・マン24時間レースを含む耐久レースとして高い注目を集めます。

また、現在のスーパーGTの源流ともいえる全日本ツーリングカー選手権も1985年にスタート。そのシリーズの天王山として富士スピードウェイでの「インターTEC」も始まりました。全日本ツーリングカー選手権は、1994年には全日本GT選手権に発展。現在のスーパーGTの前身として一大イベントに成長します。

その一方で、サーキットは1984年と1987年に、安全性向上のための改修を実施。シケインや減速用のコーナーが追加されました。

1982年より始まった世界耐久選手権富士6時間レース(WECジャパン)
1982年より始まった世界耐久選手権富士6時間レース(WECジャパン)
1990年インターナショナルF3リーグの勝者となったミハエル・シューマッハ。後にF1チャンピオンを7度獲得
1990年インターナショナルF3リーグの勝者となったミハエル・シューマッハ。後にF1チャンピオンを7度獲得
1994年の「全日本GT選手権」の様子。現在の「SUPER GT」の前身となる人気レースだ
1994年の「全日本GT選手権」の様子。現在の「SUPER GT」の前身となる人気レースだ
  • 984年、最終コーナーに減速用のシケインを設置。全長4.41㎞に
    1984年、最終コーナーに減速用のシケインを設置。全長4.41㎞に
  • 1987年、100Rの手前に減速用のコーナーを設置。全長4.47kmに
    1987年、100Rの手前に減速用のコーナーを設置。全長4.47kmに

トヨタの傘下となり2003~2005年にかけて大改修を実施

2000年になると富士スピードウェイにトヨタが資本参加。施設を全面改修するために、2003年12月より2005年3月まで営業を停止します。

その改修工事は驚くべき大規模なもので、コースは舗装すべてが剥がされ、コースレイアウトも一変。メインストレートの位置さえも変更されていました。また、付帯施設もすべて作り替えられ、サーキット最高基準、グレード1の認定を得た現代の最新鋭のサーキットに生まれ変わったのです。

2003年から2005年にかけてコースや施設を一新する大改修が行われた
2003年から2005年にかけてコースや施設を一新する大改修が行われた

その後、富士スピードウェイは2007年と2008年にかけて、再びF1を招致。2012年には、世界耐久選手権(WEC)が富士スピードウェイに帰ってきました。2018年には50年ぶりとなる24時間レース「スーパー耐久シリーズ第3戦 富士SUPER TEC24時間レース」を開催して、大きな話題を集めています。

2007年と2008年にはF1を開催。写真は2008年開催時
2007年と2008年にはF1を開催。写真は2008年開催時
2005年にリニューアルオープン。サーキット最高基準のグレード1認定に
2005年にリニューアルオープン。サーキット最高基準のグレード1認定に

昔も今も、「クルマが好きでレースが好き!」という人が集うサーキット。富士スピードウェイは、そうした使命を50年以上続けてきた日本を代表するサーキットなのです。

(取材・文:鈴木ケンイチ 写真提供:富士スピードウェイ 編集:木谷宗義+ノオト)

<関連リンク>
富士スピードウェイ
https://www.fsw.tv/

[ガズー編集部]

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