ハンドドライブを可能とする「運転補助装置」の種類や操作性

事故や病気で身体に不自由を抱えてしまった場合、その部位や程度によってクルマの運転が困難となり、運転免許証の維持、あるいは新規の取得も難しくなります。しかし、「運転補助装置」のサポートにより、健常者と変わらずに運転ができ、また免許証を維持、取得できる場合もあるのです。

今回は、そんな運転補助装置の設計や製作、取り付けを行う有限会社フジオート(以下:フジオート)の代表取締役、杉山光一さんにお話をうかがいました。

障害者でも免許証を取得することはできる

これまで運転免許証を所有していた人が身体障害者となった場合、運転免許試験場や運転免許センターで、クルマに乗り続けるための審査を受けます。程度によって運転のための条件が提示され、運転補助装置が必要とされる場合があります。

新規に運転免許証の取得する場合も同様で、教習所の入所前に審査を行います。条件が判明したあと、教習所に設備があるかを相談し、無ければ条件に合ったクルマを持ち込むか運転補助装置をレンタルして入所します。

運転補助装置とは、例えば片足、あるいは両足を自由に動かすことのできない人が、ほかの部位でアクセルやブレーキを操作するための装置のこと。フジオートは運転補助装置の設計や製作、取り付けを専門に行っている企業で、教習所への無償レンタルも行っています。販売前の相談や問い合わせだけで、年間に1,000件以上も受けているそうです。

会社のルーツは創設者自らの事故経験にあった

フジオートによる運転補助装置の開発は、グループの創設者である藤森善一氏より始まったと杉山さんは語ります。

「藤森は元々、タクシードライバーをしていました。ところが事故により両足を大腿部から切断。そのあとも仕事を継続するため、自ら運転補助装置を製作し、クルマに取り付けて運転に挑戦しました」(杉山さん)

画像提供:フジオート
画像提供:フジオート

試行錯誤の末に運転補助装置は完成。運転免許試験場にクルマを持ち込んで、問題なく運転できることを証明しましたが、当時の法律により不適とされ、免許証を失います。

藤森氏はひどく落胆しますが、1960年に道路交通法が施行され、身体障害を持っていても検査に合格すれば免許証を取得できるように。藤森氏は施行当日に申請を行い、再び免許証を手にしました。

画像提供:フジオート
画像提供:フジオート

その後、藤森氏は同じ境遇にある人たちを力づけるため、クルマによる日本一周を敢行します。そして、その途中や達成後に寄せられた「自分もクルマを運転したい」という声にあと押しされ、長野県に障害者専門の教習所を設立しました。

教習生が抱える障害はそれぞれ異なり、必要となる装置も個々に合わせる必要があるものです。そこで藤森氏は、新たに運転補助装置の設計を主とする「藤森式自動車運転装置研究所」を設置。しかし、当時は車種別に装置の認定を得なければならず、クルマに関する専門的な知識や技術が必要とされました。

藤森氏はご子息である藤森善男氏の経営する自動車整備会社「フジオート」に業務を委託。のちにフジオートは、研究所や教習所から独立して有限会社となり、専門で補助装置の設計や製造、取り付けを行う企業としてスタートを切ります。

ほぼすべての国産車に取り付け可能

必要とされる装置は、人により異なります。また、ドライバーが所有するクルマ、所有したいクルマもそれぞれ異なるため、フジオートの運転補助装置は実際に相談を受けてから製作し、取り付けを行うそうです。

「基本となる汎用品を製作し、ドライバーの抱えるハンディキャップやクルマに合わせて調整する方法もあります。ですが、つないで伸ばしたパーツが走行中にゆるみ、本来の役割を果たせなく可能性があるものです。安全性を追求するなら、重要なパーツは一本のバー、あるいは一枚の板のまま使用し、装置全体もシンプルである必要があります。そこで私たちの出した結論は、ドライバーとクルマに合わせて装置を製作し、グループの会社で責任を持って取り付けることでした」(杉山さん)

フジオートでは各メーカーの代表的な車種を購入し、研究とデータの採取を兼ねて運転補助装置を装着。車両は、相談に訪れたお客さんに見せる装着例としても活用されています。

「国産車に限れば、ほとんどの車種のデータを保有しているので、お客様が必要とする機能と仕様、そして取り付けを行う車種がわかれば、すぐ製作に取りかかることができます。まだデータがない最新モデルの場合も、お客様のクルマを借りて、現車に合わせながら製作を行います。ただし輸入車の場合、CPUからウインカー用の信号を拾えない車種が増えてきています。取り付け作業に入ってから仕様の変更が判明するケースもあり、国産車より長く、取り付け時間を頂くかもしれません」(杉山さん)

ウインカー用の信号が拾えない場合、手動運転装置からのウインカーの操作ができなくなります。その場合は代替手段を提案しますが、お客さんの不自由な部位によっては対応できないケースも出るそうです。また、装着実績のある車両型式であっても、大幅な仕様変更で過去のデータやノウハウが生かせなくなるケースがあります。こうなると再び運転補助装置の設計をし直すため、取り付け時間の延長や追加費用が発生します。

自由に動く部位で、不自由な部位をフォローする

運転免許試験場、運転免許センターの審査で出された条件とドライバーの希望を元に、運転補助装置の構成を提案。合意後、使用する車種に取り付けられるよう、製作を開始します。

基本となる構成は、運転操作ができる四肢(右手、左手、右足、左足)により概ね、決まり、例えば右手が動かせない場合、左手で右手の操作や役割を補えるよう「ステアリンググリップ」「左ウインカーレバー」「ライト等のスイッチ」といった装置を施します。

ステアリングの左手側に施されているのが「ステアリンググリップ」。手のひらで握るのが難しい人は、ノブの代わりに右手で使用しているグローブを選択できる
ステアリングの左手側に施されているのが「ステアリンググリップ」。手のひらで握るのが難しい人は、ノブの代わりに右手で使用しているグローブを選択できる

右足が不自由な場合は、左足と両手で操作ができるように「左アクセルペダル」「手動サイドブレーキレバー」を装着します。両足が自由に動かせない場合は、アクセルとブレーキ操作を手で行う「手動運転装置」のほか、乗り降りがしやすいよう「トランスファーグッズ」と「車いす格納・収納装置」を施します。

実際に、「両足に障害を抱え、車いすで生活しているドライバー」を想定したデモカーで、助手席から運転する様子を見せてもらいました。

車種はトヨタ「シエンタ」を使用。もちろんほかの車種でも運転補助装置の取り付けが可能
車種はトヨタ「シエンタ」を使用。もちろんほかの車種でも運転補助装置の取り付けが可能
こちらが運転席まわり。補助のためのレバーやノブが見える
こちらが運転席まわり。補助のためのレバーやノブが見える
左手でもウインカーを操作できる「左ウインカーレバー」
左手でもウインカーを操作できる「左ウインカーレバー」
左手で操作する「手動運転装置」。押し込むことでブレーキペダルが踏まれ、手前に引くことでアクセルペダルが踏まれる。側面の白いボタンはブレーキロック、橙色のスイッチはウインカー、前方にある銀色のボタンがクラクションとなる
左手で操作する「手動運転装置」。押し込むことでブレーキペダルが踏まれ、手前に引くことでアクセルペダルが踏まれる。側面の白いボタンはブレーキロック、橙色のスイッチはウインカー、前方にある銀色のボタンがクラクションとなる

このデモカーで混んだ都内の道路を走行してもらったところ、スタートからの加速、ブレーキ、カーブの進入もスムーズで、通常の操作による運転と比べてまったく遜色はありませんでした。操作の難しさを聞くと「左足でブレーキ操作を行う感覚に近い」との返答。乗り始めた直後はどうしてもぎこちないものの、すぐに慣れて思い通りの操作ができるそうです。

左手でアクセルとブレーキを操作して走る
左手でアクセルとブレーキを操作して走る
車いすからの乗り降りがしやすいよう、足下には「トランスファーグッズ」が、後部座席には「車いす格納・収納装置」が施されている
車いすからの乗り降りがしやすいよう、足下には「トランスファーグッズ」が、後部座席には「車いす格納・収納装置」が施されている

「各運転補助装置の取り付けに、大がかりな加工は不要です。交換可能なパーツに加工を施すことはありますが、ボディやシャーシに穴を空けることはほぼないので、クルマを乗り換える際に大きくマイナス査定がつくことはありません」(杉山さん)

さらにフジオートでは、ステアリングや「手動運転装置」を操作するだけの力がない人や、両手が不自由な人に向けて、「Jドライブシステム」という特別な装置も用意しています。

「Jドライブシステムは、いわゆる『ジョイスティック車』と呼ばれるものです。通常の運転補助装置では運転できない人に向けたもので、1本のスティックでクルマを動かせます」(杉山さん)

「ただ、Jドライブシステムは、クルマ全体に大きな改造が必要となります。費用は高額で、装置を外しても元通りには戻らないため、下取り価格も望めません。また原則、そのクルマ限りの装着となるので、システムを外して別のクルマに取り付けることも不可能です。こうしたことに納得してもらった上での選択となります」(杉山さん)


私たち健常者にとって、クルマの運転は「移動手段の獲得」に過ぎません。しかし、身体に障害を抱えた人にとって、自分で運転でき、好きな場所へと行けるようになるのは、大きな希望や心の支えの獲得になるそう。もし、クルマに乗ることに悩んでいる人がいたら、「気軽にフジオートに連絡をして欲しい」と杉山さんは語ります。自動車メーカーでも運転補助装置を用意していますが、こうして独自に実績を持つ企業があることも、心強いものですね。

<関連リンク>
有限会社フジオート
http://www.fujicon.co.jp

(取材・文・写真:糸井賢一 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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