未来のクルマに運転席はあるのか-マツダが考える自動運転時代のインターフェイス

メーターやナビのディスプレイ、空調やオーディオの操作パネルなどを組み込んだインストルメントパネル(インパネ)は、21世紀に入って大きく変化した。

カーナビの普及にともない見やすい場所にディスプレイを装着することが前提となったことや、物理的なスイッチを持たないタッチスイッチやヘッドアップディスプレイ(HUD)の採用によって、クルマのインターフェイスに求められるものが変わったからだ。

これから先、自動運転技術の進化と普及によって、さらにインターフェイスは変化していくと考えられる。未来の自動車は、いったいどんな運転席を持つのだろうか。マツダ株式会社で統合制御システムを開発している大池太郎さんに話を伺った。

不注意運転3要素「見るわき見」「意識のわき見」「操作の負荷」

未来の話をする前にまず説明したいのが、マツダが「ヘッズアップコックピット」と呼ぶ、インターフェイスづくりにおけるコンセプトだ。大池さんはこう言う。

「すべては “安全”が最優先です。そのため、人間中心で考える“ヒューマン・マシン・インターフェイス”を心掛けています。人間にとって負荷が少ない、注意散漫にならない状態とはどういうことか。それをひとつずつ紐解きながら、設計しています」

事故を防ぐためには不注意運転の3要素、「見るわき見=前方から目が離れる」「意識のわき見=前方から心が離れる」「操作の負荷=ステアリングから手が離れる」を減らさなくてはいけない。

たとえば、メーターやカーナビを見るとき、前方から目が逸れて「わき見」となるが、このとき「視線移動」と同時に、「目の焦点を調節する」「表示を脳が判断する」というプロセスが必要とされる。これらのプロセスを極力減らすことで、不注意運転の3要素をなくそうという考えだ。

「現在のマツダ車では、カーナビのディスプレイをインパネ上部の比較的遠い位置(運転席から約750mmの距離)に設置し、運転席前方にヘッドアップディスプレイを採用。ディスプレイやメーターに使われる文字の大きさフォント、行間などを最適化することで、3つのプロセスの低減を図っています。同時に、カーナビやオーディオの操作をタッチスイッチ式ではなく、シフトレバー後方に設置したダイヤルで行うことで、視線を動かすことなく操作できるようにしました」

マツダの興味深いところは、こうしたインターフェイスのほとんどをコンパクトカーのデミオから大型セダンのアテンザまで全車種で共通化していること。国内メーカーでクラスを超えてインターフェイスを統一している例はほかにない。マツダのこだわりが見える部分だ。

自動運転化でディスプレイは増えていく。しかし…

さて、未来のクルマについて聞いてみよう。この先、クルマのインターフェイスはどうなっていくのか大池さんに質問すると、「ディスプレイが増える方向にある」という答えが返ってきた。

「自動運転技術が進歩していくにつれて、クルマからドライバーへの情報量が増えていくでしょう。たとえば『今、自動運転中である』『ここからはドライバーが操作する必要がある』といった情報もドライバーに伝える必要がありますよね。でも、ドライバーが一度に把握できる情報には限度があります。できるだけドライバーに発信する情報量を増やさずに走れるインターフェイスが理想です」

いつかは本を読んだりスマートフォンなどモバイル機器を操作したり、運転席に座っていても運転以外のことをしてもいい完全自動運転の時代がやってくるだろう。そのときに、どんな情報をどのようにドライバーに伝えるのか。ディスプレイを増やすだけではない、別の方法を考える必要があるのかもしれない。

ハンドルが格納される時代はやってくるのか

近年のモーターショーに並ぶコンセプトカーは、自動運転を前提として作られていて、自動運転中にハンドルがインパネの中に格納されるようになっているクルマをよく見かける。果たしてそんな時代は本当に訪れるのだろうか。

「それをやりたいと思っているカーメーカーもあるかもしれませんし、そういうインターフェイスを先進的だと思うユーザーもいるでしょう。実際に格納式のステアリングを持つクルマも生まれてくると思います。しかし、マツダはドライバーが運転することを基本に考えていて、運転することを大切にしたいと思っている会社です。まだどのような形になるかは模索している段階ですが、あくまでも『自分が運転するんだ』と感じさせるインターフェイスを持つクルマでありたいと考えています」

完全自動運転のクルマが街を走るようになるまでには、まだ年数を必要とするだろうが、部分的な自動運転技術は続々と市販車に搭載されている。急速に進化する自動運転技術が、インターフェイスに大きな影響を与えるのは間違いない。10年後、20年後に発表されるクルマが、今とはまったく違うインターフェイスを持つ可能性は大いにあるのだ。

<取材協力>
マツダ株式会社 統合制御システム開発本部 上席研究員 大池太郎
マツダ http://www.mazda.co.jp/
マツダの運転環境作り http://www.mazda.co.jp/beadriver/cockpit

(工藤貴宏+ノオト)

[ガズー編集部]