トヨタ ヴォクシーZS vs ホンダ ステップワゴンスパーダZ 比較レポート

ミニバンビジネスを考えた場合、必須ともいえるのがエアログレードの設定である。

メーカーによってはカスタムやエアロなど呼び方はさまざまだが、要はエアロパーツをまとい“押し出しの強いフロントマスク”や“より安定感のあるフォルム”をアピールするモデルである。

今回試乗したヴォクシーにはエアログレードとして最上位にあたる「ZS」が設定されている。一方、ライバルとして用意したステップワゴンのエアロ系が「スパーダ」である。

エクステリア ~ワイルドな中にもセンスが必要

2013年の東京モーターショーでプロトタイプが公開されるや、やれ「ミニ・ヴェルファイアだ」などと話題になったヴォクシー。ミニ○○と言われてしまうと担当したデザイナーはひょっとしたらガッカリかもしれないが、多くのファンが待っていたデザインであったことは間違いない。前評判も上々だったわけだが、実際登場したZSのエクステリアはワイド感を強調し、インパクトは十分だ。
ミニバンを購入する時に必要なのは「オレっていいクルマに乗っているなあ」という満足感。特に前車のルームミラー越しに映った際「うおっ」と思わず車線を譲ってしまうような押し出しの強さが重要なのである。しかし単にエアロパーツをゴテゴテと装着すればいいというものでもない。そこには空力の問題や全体のフォルムとの調和も求められる。もう少し簡単に言えば「ワイルドでもセンスが良くないとね」といったところだろう。今回のヴォクシー/ノアはこのエアログレード同士でもすみ分けがうまく行われており、ZSが前述した通りワイド感を強調しているのに対し、ノアのエアロバージョンであるSi(ZSにはない専用のフロントグリルを採用)は圧倒的な存在感をアピールする。どちらを選ぶかは本当に好みの問題だろう。

一方のステップワゴン スパーダだが、2012年のマイナーチェンジでフロントマスクの意匠を大きく変更。特にLEDのアクセサリーランプを内蔵したフロントグリルはなかなかインパクトがあり、これもまたひと目でスパーダだ、とわかる。ただし5ナンバーサイズにこだわり過ぎたため、フロントからの眺めに踏ん張り感が足りないのである。ヴォクシー/ノアは専用のフロントバンパーやフェンダーなどを採用することで3ナンバーになっているが、さらに全高を先代より25mm下げたことで、このクラスでもよりワイド&ローなボディに仕上げている点は見事である。

  • 個性的なフロントマスク。「“毒気”のあるクールな造形をさらに進化させた」というのが、新型「ヴォクシー」のデザインコンセプト。
  • フロントマスク。マイナーチェンジを機に、グリルやバンパーの形状が新たなものに。メッキパーツの占める割合もアップした。
  • リヤビュー。左右に張り出したリヤコンビネーションランプにより、室内の広さ感が演出されている。
  • リヤのコンビネーションランプやハイマウントストップランプには、LEDが採用されている。
  • 後方に向かって吹き抜ける、広いグラスエリアも特徴のひとつ。
  • 全長は、「ヴォクシーZS」(4710mm)とほぼ変わらない4690mm。ホイールベースも5mm違いの2855mm(ヴォクシーは2850mm)となっている。

インテリアと視界 ~両者絶妙のヒップポイント

ボディサイズが大きいミニバンに求められるのは、それを感じさせない取り回しのよさである。そのための重要な要素のひとつは視界の広さなのだが、ヴォクシーは今回、新型のプラットフォームを採用することで低床化を達成。ベルトラインとウインドゥ下端を下げることで従来よりも広々とした視界を確保した。これに伴い三角窓も縦横ともに広くなっており、左側面の確認もしやすくなっている。
また低床化の大きなメリットとして特筆したいのが、乗り降りのしやすさだ。地面からのヒップポイントは720mmと低く、従来のように「よっこらしょ」とよじ登る感覚はかなり薄まっている。

一方、ステップワゴンも“元祖低床ミニバン”の名にふさわしく、地面からのヒップポイントは730mmと乗降性は良好だ。ただウインドゥ面積は広いものの、ヴォクシーに比べて下方向への広がりが足りないこともあり、若干ではあるが囲まれ感は強くなる。

インストルメントパネルのデザインなども、収納の多さや曲面をうまく使うことで、ヴォクシーが最新モデルであることを感じさせる設計となっている。ただ惜しいのは、空調の吹き出し口がカーナビの取り付けスペースの下に配置されていること。風の流れは計算されているとはいえ、ドライバーの顔ではなく左腕に風が当たる傾向がある。
一方、ステップワゴンは、ナビスペースの両側に吹き出し口を配置している点はうまい。いわゆるインパネの“一等地”をどう確保するかがデザイナーと電装系技術者との勝負(?)になるが、ヴォクシーの場合はセンター上部にマルチインフォメーションディスプレイを設置している関係もあり、最終的にこのような造形に落ち着いたのだろう。メーターの視認性は両車とも良好だが、正直に言えば、ステップワゴンのデザインに古さを感じることは否めない。

  • インストルメントパネル周辺は、視界に考慮し端々の高さが抑えられている。助手席側のオープントレイや、ウォークスルーが可能なセンターコンソールもセリングポイント。
  • インパネまわりは、水平基調のデザインが採用されている。「ステップワゴン スパーダ」には、シフトパドルや本革巻きのステアリングホイールなどが与えられる。
  • これまでインパネ中央にあったメーターパネルは、運転席の前方に移設された。写真は、ガソリン車「ZS」のもの。
  • 大きなスピードメーターを中央にすえる計器盤。中央に見える葉っぱのマークは、燃費を優先した「ECONモード」選択時に表示される。
  • 「ヴォクシー」の最前列。シート地は、グレードにより全3種類のファブリックが用意されている。
  • 「ステップワゴン スパーダZ」のシート。カラーは「クールブラック」に限られるが、グレードにより、上質な人工皮革とファブリックのコンビシートも選ぶことができる。

広さと機能 ~王様気分のセカンドシート

新型ヴォクシー/ノアにはグレードに応じて7人乗り仕様と8人乗り仕様が設定されているが、やはり注目すべきは7人乗り仕様だろう。 シートアレンジの多彩さはミニバンの“命”ともいえる重要なセリングポイントだが、その中でも2列目(セカンド)のキャプテンシートの使い勝手のよさは秀逸といっていい。最大810mmと“超”が付くほどのスライド量を誇るセカンドシートだが、従来のシートのロングスライド機構は一度シートを中央に寄せてから後ろにスライドさせる、という2段階の手間がかかっていた。しかしヴォクシーのシートスライドはレバーを1段引くと前後のみ、同じレバーをさらにもう1段引くだけの簡単操作で前後左右自由に動かすことができる。

そして最も後ろにシートスライドさせた際の足元の広さは圧巻で、上位モデルの「エスティマ」のような快適性。まさに気分は“王様”である。

また、よく考えられているのがサードシートとの関係だ。セカンドシートを最後端まで下げるためにはサードシートを跳ね上げておく必要があるが、この状態でも、若干ではあるが、リクライニングができる。一方サードシートは前述の機構を実現するために旧型より薄型化されている。着座直後のフィット感は決して悪くはないのだが、その薄さが長時間走行ではややつらくなる場面もあるだろう。乗車時には低反発クッションなどを敷いて乗るというのが現実的かもしれない。とはいえ、これらを含め本当に家族が便利と感じる機能、さらにそれらを簡単に使えるように組み込んでいる点は、ライバルを大きくリードしているのだ。

一方のステップワゴンだが、マイナーチェンジで2列目のキャプテンシートを旧型同様メーカーオプション設定とした。シートスライド量はヴォクシーには及ばないが、このシートにはチップアップ機構を採用している。さらにサードシートはこのクラスでは唯一の回転床下収納を採用。リアクオーターウインドゥを遮ることがないので左側後端の視界は良好。またチップアップ機構を使い、セカンドシートを最前部へ、サードシートを格納すれば前後だけでなく左右もスッキリとした大空間を作り出すことができる。ただしこの機能を実現するためにサードシートの背もたれ部分の長さは不足気味だ。快適性ではヴォクシーのほうに一日の長がある。

  • 7人乗り仕様のセカンドシートは、独立型の“キャプテンシート”。シート間には折りたたみ式のサイドテーブルが備わる。
  • セカンドシート。セパレートタイプのキャプテンシート(写真)はオプションとして選択できる。
  • サードシートを上部に跳ね上げ、セカンドシートを一番後ろまで下げた様子。スライド幅は、最大810mmとなっている。
  • 7人乗り仕様のセカンドシートは座面のチップアップが可能。この状態で前方にスライドさせることで、後方に大きなラゲージスペースを生み出すことができる。
  • サードシートの定員は3人。中央席に着座する際は、別途ヘッドレストを取り付ける。
  • サードシートの定員は3人。座面は一体型だが、シートバックは6:4の割合で左右別々に倒すことができ、さまざまな荷物の積載に対応する。
  • サードシート使用時のラゲージスペース。ラゲージスペースの容量は、分割式のサードシートを左右上部に跳ね上げ、さらにセカンドシートを前方に寄せることで拡大できる。
  • サードシート使用時のラゲージスペース。写真手前、キャビンの後端部にサードシートが収納できる。
  • 収納時のサードシートの張り出しは先代モデルよりも抑えられており、そのためセカンドシートの超ロングスライドも可能となっている。
  • “消える3列シート”格納の様子。シートバックを前方に倒してから、シート全体を後方に回転させて床下にしまい込む。

走行性能 ~静粛性とサードシートの快適性に注目

正直言うと、これだけアピアランスや使い勝手の面で大きく進化しているヴォクシーゆえに、走りの部分は「それほど気にしなくても、旧型並みであれば十分じゃないか」と思っていた。しかし乗りだしてすぐにそれは大きな間違いであることがわかった。

エンジンスペックに関しては後述するが、全体としては出だしからの滑らかさと高回転域までエンジンを回さなくても十分な加速が得られるという点が印象的だ。従来採用されているバルブマチック機構やCVTのワイドレシオ化など細部の改良も加わって、静粛性の高さや実用燃費にも期待できる。数回試乗してみて驚いたのだが、こんなにガソリン仕様が静かで快適になっているとは思わなかった。さらに平均で12.8km/リットルだった実燃費に関しても、カタログ数値からの低下率が2割程度と優秀。もちろんガソリンはレギュラー仕様だし、おサイフに優しいのは言うまでもない。
また大柄のボディでありながらフットワークもスッキリとした乗り味だ。ZSというグレードの性格上、タイヤもワンサイズ大きなものを履いているが、不整地を通過した際の、ショックのうまいいなしかたは、確実にこのクラスではトップレベルと言えるだろう。この手のクルマでは必ずといっていいほど、サードシートに乗車した際、コーナリング時にワンテンポ遅れたようなねじれ感が出て、さらにふらつき感を覚えるものだが、それを抑えこんでいる点も見事。 ボディ補強などによりサスペンションの追従性が向上していることは、乗ってみれば誰もがわかるほどの仕上がりである。

ではステップワゴンはどうか? 正直に言えば、決して悪くはない。というか、実は意外と元気に走る。ただアクセル操作に対してやや過敏な反応(加減速)をしてしまうのが気になる部分だ。最近のクルマは、ほとんどが「エコモード」を選択できるようになっている。ホンダ車の多くは「ECON(イーコン)」スイッチになるが、これをオンにしておくと、このあたりをうまく抑えることができるだろう。
足回りに関しては、やや古さを感じる。ワイドタイヤの採用もあるが、ボディ剛性や路面からの突き上げ感などは、やはり発売から時間のたったモデルであることを感じさせるのだ。

  • 高速道路を行く「ヴォクシーZS」。
  • 「ヴォクシーZS」(写真左)と「ステップワゴン スパーダZ」(写真右)。ともに、エアロフォルムを用いたスポーティな外観を特徴とするグレードだ。
  • JC08モードの燃費は、16.0km/リットルを記録する。
  • 「ステップワゴン スパーダZ」のJC08モード燃費は14.8km/リットル。なお、ノーマルタイプの最高値は15.0km/リットルである。
  • ガソリン車のエンジンは、152PSと19.7kgf・mを発生する2リッター直4のみ。グレードにより、アイドリングストップ機構が備わる。
  • エンジンは、2リットルの直列4気筒。150PS/6200r.p.m.と19.7kgf・m/4200r.p.m.を発生する。

“真のナンバーワン”への課題

新型ヴォクシー/ノアの発売後約1カ月の販売データによれば、両車合わせて、予定の8倍近いオーダーが入っているという。そのうちハイブリッド車が約4割ということからも、いかにユーザーがこのクラスのミニバンのハイブリッド化を求めていたかがわかる。ヴォクシーに関しては、ガソリン車の比率が7割に迫る勢いで、これにはエアログレードの存在による部分も大きいと予想する。

ライバルにこれまで辛酸をなめさせられたヴォクシー/ノアもこれからがいよいよ逆襲の時。まさに死角なし、と言いたいところだが、注文もしっかりある。今回のセレナのマイナーチェンジではエマージェンシーブレーキやLDW(車線逸脱警報)などの先進安全装備が装着されているのに、ヴォクシー/ノアには設定すらない。また販売店へは「なぜエアログレードのハイブリッドが無いのか」という問い合わせも多いと聞く。特に先進安全機能に関しては、昨今では軽自動車にも一部機能が採用されるほどである。もちろん安全装備である以上、搭載するためには超えなければならないハードルがあるのだろう。しかし、ライバル車で採用されている以上、無視することはできない。これとエアログレードのハイブリッドモデルがそろった時、名実ともにヴォクシー/ノアはMクラスミニバン・ナンバーワンの座を奪還することになるだろう。