F1とヒマラヤの間にあるもの [レーシングドライバー 登山家 片山右京](2/3)
瞬く間に国内最高峰の王座を獲得し、F1へ
激動の6年間で得たものは…
- アグレッシヴな走りで夢を与えてくれたF1レーサー時代の片山氏
F1というものは全くの別世界。全日本F3000でチャンピオンを獲ったとかそういった肩書きは一切役に立たなくて。またゼロから新しい世界での戦い、世界的な興行の場であり、世界中の才能の集まる場所で、自分の存在の小ささとか、これから進まなきゃいけない長い道のりとか。セナとかプロストとかマンセルとか、テレビで観ていた人たちと一緒に走ることになった時には正直言ってカルチャーショックを受けたとしか言いようが無かったですね。
子供が一人目隠しをされてどこか知らないところに連れて行かれたような、そういう感じで。さあそこで本当に素手で戦いなさいというような。自分で一つ一つ考えて答えを出しながら新しいものを生み出したり、コミュニケーションをとって仲間を増やしたり。それを6年もやらせてもらったからこそ、今の自分がいる。田舎に住んでいた一人の子供が少しはグローバルにモノを考えられるようになったっていう点では、貴重な経験でした。
目に見える筋肉と目に見えない筋肉、ハートについている筋肉っていうのがあって。それは自信だったり経験だったり…、ある意味本当のF1ドライバーとかリアルレーシングドライバーと呼ばれるようになるには相当時間が掛かっちゃいましたけどね。
応援してくれている人たちは、表彰台の笑顔を待っていてくれていたと思う。心苦しい想いは今でも夢に出てくるくらい残っています。ただ言い訳になるけど、自分が出来るベストは尽くして自分は自分に対して負けないっていうものは、たくさんあったターニングポイントで確認することもできた。決してF1を後ろ向きに後悔しているわけでは無いですね。
- アグレッシヴな走りで夢を与えてくれたF1レーサー時代の片山氏
F1引退後、パリ・ダカールラリーへ挑戦
廃てんぷら油で走るランドクルーザーで完走を果たす
- 2007年のパリダカ世界初の100%バイオ燃料で68位完走
F1に出ていた頃は、まるっきり自分とは違う世界で興味も無かったんですよ。きっかけは、お世話になっている人たちがパリダカに出たいっていう、じゃあ一回話のネタに洒落で出ちゃいましょうよっていう流れで(笑)。
実際に出てみたら、あんなに過酷なレースは他にないのでもう二度とやらないって。それを周りの人たちが「それは逃げている」って。それからトヨタ車体さんにお世話になって。ずっと登山も続けていたので、氷河が上がるという環境破壊を目にして、自分たちには自分たちなりの戦い方があるはずだっていう風に模索しながら…、今のようなてんぷら油から作ったバイオディーゼル燃料で走ってメッセージを送ろうっていう形に変わってきたり、F1とヒマラヤ登山のちょうど真ん中に位置するのが、モータースポーツとして自然と共生しているパリダカという感覚です。
夕方に真っ暗闇で何も見えなくて恐怖が近づいてくる時間帯に、はっとした瞬間にピンク色に染まる大砂丘が見えて、エベレストの頂上直下で見る景色と同じように、地球っていうのはこんなに美しいんだって、そんな単純なものに動機付けされている部分もありますね。
- 2007年のパリダカ世界初の100%バイオ燃料で68位完走
これからのクルマ社会に望むこと
僕が行くチベットやネパール、パキスタンやインドやアフリカなどの国々では、オーバーな表現じゃなくて99%くらいトヨタ車です。トランクに「I」とか「F」とかその国のステッカーを貼った世界中から中古で輸入されたクルマが、例えばカローラが20年も30年も走っている。チベットに行ってもランクルが100%だって言っていいくらい。技術力があるから残っている。でも同時に技術力の側面にはそれだけの責任があるってことを自覚して欲しい。そういう人たちに渡すクルマを、今後はオピニオンリーダーとしてハイブリッドにするとか。包括的に自分たちが面倒を見てあげるくらいにやらないと環境も良くならない。それからモータースポーツをはじめとして、クルマはただのトランスポーテーションの道具じゃないので、2つの方向から見ていかないといけないんじゃないかなっていうのは、世界中を旅していると感じますね。
今パリダカに挑戦している廃てんぷら油のクルマも、これが全ての解決法だとは思っていなくて、一過性のワンコンテンツだと思っているんですよ。ヨーロッパではディーゼルが走り、日本や北米ではハイブリッドが走り、南米では少し食糧問題になっていますけどE85とかバイオエタノールが普及してきて。みんなで出来るコンテンツを増やして貢献しないと。そのための技術を支えているものは全てF1から来ている。モータースポーツで技術を磨いている。そういうことをもっと知ってほしい。
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