トヨタ エスクァイア 開発責任者に聞く(2/3)

コンパクトキャブワゴンの棄却理由に着目

​​エスクァイアに込めた思いを語る水澗チーフエンジニア。

前回のインタビューでもお話ししましたが、1990年代から2000年代初頭にかけて、いろいろなスタイル・サイズのミニバンが雨後の筍のように登場した後、現在では淘汰が始まっている、と言っていい状況ですが、3列目もしっかり使える5ナンバーサイズで背の高いパッケージのコンパクトキャブワゴンは子育てファミリー層の高い支持を受け、しっかりと生き残り、順調に台数を伸ばしているとても有望なマーケットです。

しかも、ご購入いただいているのは子育てファミリーだけではありません。もし、そうであれば少子化の進む中、台数が増えることは考えにくい。実際に新型ヴォクシーやノアをお買い上げいただいたお客様の中には初代や2代目のヴォクシー/ノアからの買い替えのお客様が大変多い。つまり、子育て期間が終わっても、クルマの乗りやすさや使い勝手から離れられず、引き続きコンパクトキャブワゴンを選んでいただけるお客様がたくさんいらっしゃるということです。

しかし、その一方で、このマーケットはホンダのステップワゴン、日産のセレナ、そしてトヨタのヴォクシーとノアの4車種でほほ市場を独占し、熾烈な開発競争が繰り広げられてきました。だからそこに新しいクルマが割って入るのはたいへん難しい。当初は社内でも「3つはいらないんじゃないか?」という議論もありました。

そこで私たちが注目したのがコンパクトキャブワゴンの棄却理由です。つまり、一度はコンパクトキャブワゴンの購入を検討したけれど、最終的に選ばなかった理由は何か?ということです。その結果、コンパクトキャブワゴンの乗りやすさや使い勝手は魅力だけれども、「スタイル/外観」そして「室内の見栄えや質感」がネックとなって購入を断念されているお客様が多いことが分かりました。

バリュー・フォー・マネーな合理性はコンパクトキャブワゴンの大きな魅力です。しかし、それ故にこれまでは「外観や内装にもう少しこだわりたい」「質感の高いものが欲しい」という多くのお客様の声に応えるクルマがなかったのです。

裏返せば「スタイル/外観」や「室内の見栄えや質感」を高めることで、新しいお客様を取り込むことができると考えたのです。

高級感を追求し、洗練を極めたデザイン

​計算された配置のメッキバーで型作られたフロントグリル。堂々かつ高級感に満ちた顔つきとなっている。
​「Esquire」の名前とアイデンティティを明示するフロントシンボルマーク。

外観デザインでこだわったのは、クルマの正面から見た顔つき(フロントビュー)です。特に堂々としたTの字構えのフロントグリル。グリルを覆う縦基調のメッキバーのきらびやかさが、ワンランク上の高級感を表現しています。立体感が出るように1本1本のバーの造形を緻密に計算して配置していて、写真だけではなかなか分からないかもしれませんが、実車で確認いただくとその質感の高さを感じていただけるはずです。

グリルのセンターにはエスクァイア(Esquire:英語で「様」、「殿」など男性への敬称。語源は中世ヨーロッパの「従騎士」)の名前にちなんで、騎士の盾と矛、さらにはスーツ姿の襟元をモチーフに、クルマのアイデンティティを明示するシンボルマーク(エンブレム)をデザインしています。また、これはよく見るとEsquireの「ESq(小文字のQ)」の形にもなっているのです。すごく凝ってるでしょう(笑)

さらに、フォグランプを全車標準装備としました。低くワイドに構えて、堂々としたフロントビューをより一層引き立てています。

また、サイドビューではステンレスベルトモールとメッキ加飾を施したアウトサイドドアハンドルが高級車に相応しい品格高き存在感を生み出しています。

これらにより、エスクァイアをぱっと見て、ヴォクシーやノアと見間違うことはありません。パッケージは同じクルマですが、外観の印象は大きく異なるクルマに仕上がっています。

ボディカラーではヴォクシーやノアにはないエスクァイア専用色として、スパークリングブラックパールクリスタルシャインを設定(メーカーオプション)しています。これはハリアーで起こした新色ですが、艶やかな深みのあるブラックが意匠にさらなる高級感と上質感をプラスします。

高級車ならではの上質さに満ちたインテリア

全グレードで採用された本革巻きのステアリング。内装色はバーガンディ&ブラック。
昇温降温抑制機能付き合成皮革が採用されたシート表皮。横スライドで豊富なシートアレンジが可能。内装色は上写真と同じく、バーガンディ&ブラック。

そしてエスクァイアの一番のポイントは内装の質感です。外観もさることながら、コンパクトキャブワゴンは家族でお出かけして、長時間、車内で過ごすことが多いクルマだからこそ、最も重要視しました。

そのため、ワンランク上の高級感・優越感を追求するとともに、ヴォクシー/ノアとは異なる素材も使用しています。たとえば、ステアリングはウレタンではなく、全グレードで高級感のある滑らかな手触りの本革巻です。動きのあるシルバー加飾や上級グレードではブラックの木目調加飾など、上質な室内と調和するデザインを採用。グリップの硬さの最適化やフィンガーレストの採用など、握り心地の良さも追求しています。

最大の特徴は合成皮革(以下、合皮)の使い方にこだわって質感を高めたことです。インパネから助手席側のドアトリムに続く合皮巻きオーナメントを始め、ヴォクシー/ノアでは樹脂やファブリックになっているところに見た目も美しく、質感の高い合皮を採用しました。そして、効果的なステッチや金属調オーナメントを配してさらなる気品の高さを演出しています。

本格的に高級感を追求するのであれば本革を使うべきではという意見もありましたが、このクルマのメインユーザーとなる30代、40代の中の、特に女性は合皮に対してとてもポジティブです。おしゃれで質感が高くて、使いやすい。手入れも楽ですし、汚れたら拭けばいい。ファッション業界などでは有名ブランドも合皮をポジティブに使っています。まさに上級コンパクトキャブワゴンにピッタリの素材です。しかも価格も抑えられる。エスクァイアにおいても、お求めやすい価格であること、バリュー・フォー・マネーはきわめて重要であることに変わりはありません。

室内配色はブラックをベースに洗練された大人のイメージを表現したモダンでクールな空間を、上級グレードでは一部の色分けにバーガンディという色を設定し、深い赤みが艶やかさを添える上質な空間を作り出しています。標準グレードのシート表皮にはヴォクシー/ノアで開発した消臭機能付きの上級ファブリックを、上級グレードのシート表皮には、新しく開発した、夏涼しく冬には冷たく感じにくい昇温降温抑制機能付きの合皮を採用しています。

このようにエスクァイアの内装は、従来のコンパクトキャブワゴンにはなかった上質の質感を目指しました。ファッションに敏感でデザイン性や質感にこだわる若い世代の人たちにも、価格を含めて、十分満足いただけると自負しています。

さらにはこれまで高級車をお乗りいただいていたお客様にも、乗りやすさや使い勝手を重視した「新しい高級車の選択肢」の一つとしてご検討いただきたけるのではないかと期待しています。