【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第1話#31
第1話「セルシオ盗難事件を調査せよ!」
6th マークX、厚木へ走る。
#31
マークX が左に車線変更すると、用賀パーキングエリアに入った。一気に五反田まで行くと思っていたが、トイレにでも行きたくなったのだろうか。
周藤は駐車場に車を停めると、降りる様子は見せずにスマートフォンを操作している。
「こういうことだ」
画面を見せられた。
《千葉県警は詐欺未遂の疑いと窃盗罪で、柏市に住む主婦の笠松由佳と、松戸市に住む娘夫婦、野崎雅也と由美の3人を逮捕した。母親は容疑を否認しているが、娘夫婦は容疑を大筋で認めている。発表によると今年10月、3人は共謀し、父親が所有する自動車を盗難し通報。母親は損害保険会社から保険金を詐取しようとした疑いがある。》
周藤と柏警察署に行ったときのことを思い出した。あの時、すぐにこの可能性を考えて、秋元に相談したのだろう。
「俺たちは警察じゃない。逮捕の権限なんてないんだ。やれることをやれるところまでやるだけだ。くれぐれも、思い上がるなよ」
周藤にスマートフォンを返す。
「はい……。係長、わたし、もう少し、部下でいさせてもらえるのですか」
「まあ、思っていたよりは使えるようだからな」
「もっと使える人間になれるようにがんばります」
この男に認められるような一人前の調査員になりたい。そう決意を新たにする。
「それから、謝らなければならないことがある。お前を1人にすればすぐに調査対象者に見つかると思ったんだ」
え?
「案の定、あの後、由佳は慌てて娘に連絡を取って、動き出したそうだ。お前はなにも悪くない。むしろ、お前が逮捕に貢献したと言える」
「……」
「千葉県警も感謝していたよ。だから、あのことはあまり気にするな。あまり凹むと俺が複雑な心境になるだろ」
そう言うと、周藤は笑い出した。
わたしは由佳を動かすための手駒だったのか。「思っていたよりも使える」って、そういうこと!?
「あ、明日、俺はまた用事があって会社には行かないから。調査報告書作成チームへの報告は任せた。まあ、最初だし、手探りでやってみて。ダメだったら突き返されるから」
そういって、またクックックと笑う。
悔しい。悔しすぎる。
いつかこの男を絶対に見返してやろうと思う。
(第1話・完)
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。
周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
上山恵美(53):ミキの母親。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:MEGA WEB
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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