【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#01

あらすじ

五反田にある総合保険調査会社「インスペクション」。自動車保険調査員になった上山ミキと、元敏腕刑事、周藤の凸凹コンビが難事件に挑む。ミキは、10年前に起きた父の失踪事件の真相に辿り着けるのか?一カ月ごとに事件や謎が解決していく、車×ミステリーの連作短編小説!

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

1st 車を擦ったのは誰なのか?
#01

わたしが総合保険調査会社「インスペクション」に入社してから、もう2カ月が経とうとしている。まだ半人前だけど、念願の調査員(オプ)にもなれた。
直属の上司は嫌味な人だけど、元刑事の捜査力は伊達じゃない。腕がいいのは確かだから、いまはただ、必死に食らいついて調査のノウハウを学ぶしかないと思っている。
 昼前、デスクでメールチェックをしていると、周藤に「ちょっと来い」と声をかけられ、一緒に応接室に向かった。
周藤がドアをノックした。誰かが中にいるようだ。
入室すると、見覚えのある人がすっと立ち上がったところだった。
「ミキちゃん、本当に調査員になったんだね」
「純くん――」
そういいかけて、やめた。ここは職場だ。
「河口先生、お久しぶりです」
わたしは言葉を選んで、ぎこちない挨拶をする。
「僕は別に、純くんでいいけどね」
河口純。インスペクションが提携している河口綜合法律事務所の弁護士で、代表弁護士の仁先生の2人の息子のうちの次男だ。長男は地方で公務員をやっている。事務所には年上の弁護士がほかにいるけど、ゆくゆくは純が事務所を継ぐことになるのだろう。
私立の男子校に通っていた純は、昔から勉強ができて、他校の女子にモテていた。
歳はわたしの3つ上で、家族ぐるみの付き合いがあったから、小さな頃から仲が良かった。ちょっと鼻につくところはあるけど、基本的にいい人だ。
「あ、ミキちゃん。せっかくだから名刺ちょうだいよ」
ポケットを探ってみるが、もちろん名刺ケースは入っていない。周藤からは来客だとはひとことも知らされていなかったのだ。
「ごめんなさい、今すぐ取ってきます」
純が手を大げさに振り上げた。
「あ、いいよいいよ、今度で」
やっとソファに腰を下ろす。
純のスーツ姿を見るのは初めてではない。いつも必ず3ピースのスーツを身につけている。左腕に光る時計はフランク ミュラー。ちなみに、愛車はポルシェのカレラ911だ。
純は周藤に向かって話し始めた。
「早速ですが、本日はご相談にお伺いしました。うちの代表が、この案件はどうしても周藤さんに担当してもらいたいと言っていまして。最近増えてきたカーシェアリングの事件です」
純が資料をテーブルに載せた。すぐに周藤がそれを手にとって眺め始める。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

第1話を読み忘れた方に! ダイジェスト版

千葉県柏市の住宅街で、セルシオが盗まれた! 犯人たちは、イモビライザーとオートアラームを装備している車両をどうやって盗んだのか? 調査を進めるうちに、被害者は以前にも車両盗難被害に遭っていたことがわかって……。果たして、事件の真相は!?​

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト​​​​​

[ガズー編集部]