【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第2話#28

第2話「カーシェア事件を調査せよ!」

4th ミキ、拉致される!
#28

チェロキーが加速する。タカヒロの運転は荒い。
​「悪いけど、ちょっと付き合ってほしい場所があるんだ」
え、なにこれ。どういうことなのだろう?
「ごめんなさい。そんな強引な人だとは思いませんでした。すぐに降ろしてください」
「いや、ダメだ。お前には俺に付き合う義務がある」
さっきまでの優しかった態度はもう微塵も感じない。すっかり豹変している。
「あの、どういうことですか? どこに向かっているんですか?」
タカヒロが面倒くさそうに顔を一瞬こちらに向けた。
「方南町に向かっている。手荒な真似をするつもりは一切ない。俺たちが知りたいのは、誰がベンツに当て逃げしたかってことだ」
「そんな、まさか……」
そういうことだったのか。板金工場の寺田が教えてくれたうわさ。グレー系の車を擦って修理に出されている車体を探しているやつがいるらしい、どうやら、怖いやつらなんじゃないかって……。
わたしのことが好きで連絡してくれていたと信じてしまっていた。のこのこデートの誘いに乗ったりして、なんてバカだったんだろう。
「教えろ。デミオを運転していたやつは、どこのどいつなんだ」
ドスの利いた声だった。これが本来の声なのだろう。
「そのためにわたしに近づいてきたんですか」
一瞬、睨みつけられた。
「それ以外なにがあるっていうんだよ。俺はモデル系が好みなんだ。悪いけど、お前みたいなのに興味はない」
素直に信じていただけに、タカヒロの発する言葉に受けるダメージは大きい。
「恨むなら当て逃げした犯人を恨めよ。そいつも、なめたまねしてくれたよな」
騙されたのはわかったが、なんでこんなことになるのだろう。あの飲み会はどうやって設定されたのか。
「どうやって、わたしたちに近づいたんですか?」
「板金工場をしらみ潰しに当たって、デミオが怪しいと突き止めた。だが、それがカーシェアリングの車だとわかって、マジでイラついたよ。ただ、お前が調査していることがわかったから、会社を調べた。それで、お前の先輩を五反田でナンパしたんだ」
加納はタカヒロたちとどうやって知り合ったか教えてくれなかったが、そういうことだったのか。
「で、犯人はわかったのか?」
「正直、わかりません。調査も打ち切りになりました」
「なんだと? ふざけるなよ!」
タカヒロに怒鳴られたけど、わたしに当たられるのは筋違いだ。
「ふざけてなんか、いません! わたしだって、真相を知りたかったんです。でも、もう動けないんです」
わたしも思わず声を荒げていた。怒りと焦りと恐怖が一緒になって混乱している。

(続く)

登場人物

​上山未来・ミキ(27):主人公。

周藤健一(41):半年前、警察から引き抜かれた。敏腕刑事だったらしいが、なぜ辞めたのかは謎に包まれている。離婚して独身。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

松井英彦(50):インスペクションのやり手社長。会社は創業14年で、社員は50人ほど。大手の損保営業マンから起業した。

河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

上山恵美(53):ミキの母親。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]