【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#03

第3話「Twitter男を調査せよ!」

1st マークX、熊谷へ走る
#03

すれ違いで、午前中をまるまる無駄にしてしまった。調査の時間は無限にあるわけではない。緊張が高まってきた。
​中山はまだ、浅草にいるだろうか。まさか、すぐに熊谷へ帰るようなことはないと思うが……。わたしは、固唾を呑んで、中山のTwitterとFacebookをチェックする。
やがて、Twitterに動きがあった。
<浅草の有名店で天丼。行列で1時間待ち! 味が濃い>
良かった。そのまま浅草にいてくれた方がこっちとしては助かる。
「周藤さん、中山はたったいま、浅草で天丼を食べ終わった模様です」
「了解」
できれば、また人気店に並んで時間をとられてほしい。それにしても、なぜ、一緒にいる人を明かさないのだろうか?
周藤は相変わらず、マークXを繰って先行車両を追い抜いていく。
しばらくして、Twitterが反応した。
<どら焼き、でか! 高いけど、うまい!>
写真を見ると、わたしも大好きな「亀十」のどら焼きだ。
「周藤さん、中山はいま、雷門の近くの和菓子屋にいます」
「了解」
場所を特定しやすい投稿はありがたい。わたしたちはもう東京都内に入っていた。あと、1時間もあれば浅草に到着できるはずだ。
周藤はアクセルを踏み続けている。
ようやく、浅草駅前までたどりついた。時刻は、15時を過ぎている。
さっきまで、TwitterやFacebookに動きはなかったが……。
<東京スカイツリーなう。いまだにすごい人。暇人多すぎ>
自分も暇人でしょ……と思いながら、周藤に報告する。
「周藤さん、中山はスカイツリーに移動しました」
舌打ちが聞こえた。確かに、スカイツリーで人探しは骨が折れる。
わたしたちが警察で、中山が何か大きな事件の犯人だったら、携帯電話の微弱電波で追跡できるのだが。
「急ぐぞ。スカイツリーの駐車場は?」
慌てて、iPadで検索をかける。
<お体の不自由なお客様用駐車スペースについて>という表記を見つけた。
中山は松葉杖をついていることになっている。もしかしたら、ここに停めているかもしれない。
「周藤さん、東京スカイツリータウンに立体駐車場と地下駐車場があります。それに、体の不自由なひとのためのスペースも。このあたりから攻めましょう」
「わかった。俺は立体駐車場に停めて、そのままそこでハスラーを探す。お前は地下駐車場を探せ」
「わかりました」
マークXが進み、間もなく、空高くそびえるスカイツリーが迫ってきた。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]