【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#05

第3話「Twitter男を調査せよ!」

1st マークX、熊谷へ走る
#05

高速を降りると、すぐに鹿浜の焼肉店に到着した。さすが有名店。行列ができている。
​助手席から駆け降りて、店内を覗き見る。
中山は見当たらない。
マークXの運転席に向かって首を振った。
念のため店の駐車場も確認する。だが、ハスラーは停まっていない。思わず溜息が洩れた。
店に戻って店員に聞いてみる。中山の顔写真がプリントされた資料を見せた。
「この男性がさきほどお店に来ていませんでしたか?」
店員が怪訝そうな表情で資料を見つめる。
「いたかな。うーん、ちょっと覚えていないけどね。なに、おたくは?」
つい動揺してしまう。
「いえ、あの……家族なんですが、ちょっとすれ違ってしまって」
「家族なら、携帯電話かなにかで本人に直接聞けばいいでしょ」
確かに。大声で真っ当な返答をされて、さらに動揺してしまう。
「ちょっと、変なことはやめてくださいよ。うちはお客さんのこと大切にしていますからね」
列に並んでいる人たちも白い目を向けてくる。
「す、すみません」
すごすごと引き下がり、マークXの助手席に戻った。
「中山が来店したのかどうか、わかりませんでした……」
「とりあえず、熊谷に戻るぞ」
首都高速川口線で北上する。川口ジャンクションで東京外環自動車道に入り、美女木ジャンクションで、今朝も使った首都高速埼玉大宮線へと入った。
やがて、下道へ降りて、熊谷に入る。これで今日2回目……。そう思うと疲れが増してくる気がした。周藤も無言だ。
中山の自宅に向かうと、わたしたちが今日ずっと追いかけていたオレンジのハスラーが停まっている。
ナンバーを確認して、撮影する。
その場を離れて、周藤は熊谷駅前方面に車を走らせた。
「泊まりで大丈夫なのか?」
周藤に聞かれて、なぜか少しドキッとした。
「ええ、もちろん、そのつもりできました」
今夜は熊谷市に泊まって、明日は朝一から調査をすることになっている。
「じゃあ、高くないビジネスホテルを検索してくれ。どうせ寝るだけなんだ」
「わかりました」
iPadで、宿泊サイトから検索をかける。明日は、早朝から中山の自宅前で張り込むことになる。
シングルが2つ空いていた熊谷駅前のビジネスホテルに入った。部屋に入ると、意識していなかった疲れを一気に感じる。わたしはベッドに倒れ込んだ。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

編集:ノオト

[ガズー編集部]