【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#16

第3話「Twitter男を調査せよ!」

3rd ミキと周藤、再び熊谷へ。
#16

つけ麺屋を後にして、再び調査対象者である中山智史の自宅に向かった。
​自宅のある路地に入ると、遠くからでも、パッションオレンジのスズキ・ハスラーが確認できる。
「どうやら、お帰りのようだな」
周藤が安堵の声を漏らした。
今日、彼らを逃したら、またここまで来なければならない。できれば、今これから中山のヒアリングをして、この案件に決着をつけたいというのが本音だった。
周藤は堂々と家の前にマークXを停めた。チャイムを鳴らす。
足音が聞こえた後、ドアがゆっくりと開いた。
最初に顔を見せたのは、いつも中山と一緒に行動していた女性。中山のFacebookアカウントの「友達」にいた西田亜美だ。
「どちらさまですか?」
用心深くこちらの様子を窺っている。
「突然お邪魔してすみません。決して怪しい者ではありません。わたしたちは――」
周藤がそう言いかけたところで、松葉杖をついた中山が後ろから顔をのぞかせた。わたしたちに気づいて怪訝な顔をしている。
「あの、あなたたちは?」
周藤が頭を下げた後、笑顔で説明する。
「保険調査会社のインスペクションから参りました。中山さんに少しだけお話をお伺えないかなと思いまして。お忙しいところ、突然すみません」
周藤が名刺を取り出して、手前の西田に渡した。西田が中山に渡す。
名刺を見つめる中山の動揺が伝わってくる。
「な、なんでしょうか?」
西田も困惑した様子だ。
「あの、病院の診断書なら、提出しているはずですが」
周藤はじっと、中山の目を見つめていた。
「はい、それはわたしたちも重々承知しております。ご不便な生活をされていますよね。ただ、状況にお変わりないか、お聞きしたかったのです。突然ですし、ご迷惑でしたらもちろん、引き上げますので……」
周藤が諦めて帰るそぶりを見せた。わたしもそれに同調する。
2人は逡巡している。西田が振り返って、中山と目を合わせた。
中山がわたしたちを見つめ、小さく頷いた。
「わかりました。立ち話もなんですし、もしよろしければ、どうぞ」
わたしたちは、中山の家に上がった。

(続く)

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:mizusawaさん

編集:ノオト

[ガズー編集部]