【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第3話#25
第3話「Twitter男を調査せよ!」
5th ヨタハチに残されたもの。
#25
わたしは電車に乗って、横浜の旧車ショップに向かっていた。
10年前に失踪した父の手紙が見つかったのだという。
いったい、どんなメッセージを残したのだろう。
いたずら好きの父だったから、車に手紙を隠していたということ自体には驚かない。
子供のころもよく、誕生日やクリスマスなんかに、わたしが喜ぶようなサプライズをしかけてくれた。
今回の手紙にも、きっと、どうでもいいようなことが書いてあるに違いない。
気がつくと、あのころを思い出して自然と笑顔になっていた。電車の窓に、笑みを浮かべた自分が映っている。
お父さんに会いたい。会えるはずもないのに。
ほどなく、駅に到着してホームから改札まで駆け下りた。
駅からは15分ほど歩かなければならない。わたしは迷わず、駅前でタクシーを捕まえた。
水野の旧車ショップは、もうすっかり店じまいをして明かりは消えている。
事務所への入り口にまわりこむと、突然、水野が現れて叫び声を上げてしまった。
「ビックリさせちゃったかい。そろそろだと思ってさ」
水野が優しく微笑んでくれた。
「遅い時間に押しかけてしまってごめんなさい」
時計を見るともう22時近い。頭を下げる。
「それで、例の手紙は?」
水野に早速聞いた。早く読みたい。
「とりあえず、事務所で座ろうか」
「そうですね」
水野の後をついて歩く。本当は走りたいくらいだった。
事務所は静まり返っていた。もちろん、他の従業員はもういない。
促されるまま、いつものソファに腰をかける。
水野は温かいコーヒーを運んできた。デスクの上に古びた手紙が置いてある。
「そういえば、『自分になにかあったら、大切に乗ってくれる人にヨタハチを譲ってほしい』と父が言っていたと、先日話してくださいましたね」
わたしはヨタハチを預けにきたときのことを思い出していた。
「そうなんだ。知らない人間に売ったりせず、俺と接点のある人にあのヨタハチを譲れば、手紙が見つかった時にミキちゃんに渡るだろうとミキちゃんのお父さんは考えたのかもしれない」
水野がコーヒーを一口すすったあと、立ち上がった。
(続く)
登場人物
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。
小説:八木圭一
1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。
イラスト:古屋兎丸
1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001
イラスト車両資料提供:mizusawaさん
編集:ノオト
[ガズー編集部]
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