【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#03

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

1st ミキ、父の消息を追う。​​
#03 母、帰宅!?

20時15分前になって、図書館に閉館の音楽が流れ始めた。借りたい本は今のうちに手続きをするようにと促している。
​ちょっと恥ずかしかったけど、失踪マニュアル本も含めて何冊か借りる手続きをした。
歩いて自宅に戻る途中、スーパーによって食材を買おうかと思ったけど、面倒になって、結局、出来合いのお弁当とサラダを買った。足取りは重い。
自宅に戻って、玄関を開けてから、なんとなく違和感を覚えた。玄関にちょっとした変化を感じたのだ。
すぐに、母の靴があることに気が付いた。
母がついに海外旅行から帰ってきた。
すぐに自分の靴を脱ぎ捨てて居間に入ったが、真っ暗だ。慌てて電気をつけたけど、誰もいない。部屋で寝ているのだろうか。そう思ったけど、テーブルに母の書き置きを見つけた。
<ただいま。ちょっと時差ボケがひどいので、軽井沢にある友達の別荘でのんびり過ごすことにするわ。あなたの好きなチョコをお土産に買ってきてあげたわよ。土産話はまた今度ゆっくりね。 母より>
もしかして……。そう思って母のアルファロメオの鍵を探すと、見当たらない。車庫に走って確認すると、車は消えていた。
失敗した。わたしが車で出かけていたら、母は軽井沢に行かなかったかもしれない。
わたしは、ため息をついて、ソファに座り込んだ。
またしても逃げられてしまった。
テーブルの上に、チョコレートが置いてあった。ベルギーチョコだ。すぐに包みを開けて口に放り込む。いったいどこに行ったのだろうと思っていたが、ベルギーに行っていたのか……。
ラベルを見ると、たしかに現地で買ったような形跡があるけど、本当かどうか疑わしい。なんだか、あまりにタイミングがよすぎるのだ。
ソファから立ち上がり、母の部屋の前に移動した。そっと扉を開けると、大型のスーツケースが横になっていた。
電気を点けてゆっくりと開いてみた。中身はほとんど取り出されているようだ。
パスポートを探してみたけど、中にはない。今度は、机の中を調べることにした。ゆっくりと引き出しをあける。
突然、気配を感じてドアのほうを振り向いた。
でも、誰もいない。
わたしは何をやっているのだろう……。
リビングに戻って、スマートフォンを取り出した。
<お母さん、わたしの本当のお父さんは誰?>
そう打ち込んでから、すぐに消去した。こんなこと、メールで聞くことではない。
それに、あまり追い詰めると、もっともっと母が逃げて行ってしまう気がする。
さて、これからどうやって、母から真実を引き出そうか。
軽井沢に押し掛けて行って、聞き出すのがいいかもしれない。わたしの本気度が伝わるだろう。
そうしよう。ただ、その前に確かめておきたいことがある。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]