【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#04

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

​1st ミキ、父の消息を追う。​​
#04 ミキと水野

わたしは、電車で横浜の旧車ショップに向かっていた。
​​昨日、海外旅行から帰国した母がアルファロメオ ジュリエッタに乗っていなくなったため、もう足はない。ヨタハチはエンジン交換が済んでいないので、戻ってくるのはまだ先だ。
今日店に行くことは、オーナーの水野にはなにも伝えていなかった。
店に到着後、いつもなら新しい車が入っていないかチェックするところだけど、そのままオフィスに向かう。
ドアをノックすると水野の声が聞こえた。わたしを目にすると、水野はやや動揺した様子だったけど、すぐに笑顔を浮かべて受け入れてくれた。
「コーヒーを入れるからちょっと待っていてよ」
「いいえ、今日は買ってきました」
わたしはカバンから缶コーヒーを2本取り出して、1本を差し出した。
「お、悪いね、サンキュー」
水野が遠慮がちにそれを手にした。
「なんだい、もしかして、またヨタハチが恋しくなってきたのかい?」
「それも、ありますね」
意図的に使った「それも」という言葉に、水野はどう反応すべきか戸惑っている様子だ。
「前も言ったけど、まだヨハタチは新しいエンジンの到着を待っているところでさ」
「はい、わかっています」
わたしは、ほかに目的があることを目で訴えた。
「今日は、ほかになにかあったのかい?」
やっと、水野が話をふってくれた。
「ずっと聞きたかったことがあって……」
「なんだろうな」
水野が視線を逸らして、ソファに背をもたれた。
対するわたしはあえて、前のめりになった。
「単刀直入に伺いますが、水野さん、わたしになにか隠していることないですか」
予想通り、表情が一変した。
水野は、目を見開きつつも、口はかたく閉じたままだ。2人の間に、沈黙が訪れる。わたしはじっと水野を見つめて、目を逸らさなかった。
「ごめん……」
水野から一言、謝罪の言葉が発せられた。なにを指してのことかはまったく説明がない。
このまま黙って待っていても、ほしい情報は出てこなさそうだ。
「水野さん、手紙のこと、わたしの母に教えちゃいました?」
突然、ヨタハチの中から父の手紙が見つかった。その日から、母は海外旅行に行ったのだ。
水野の顔が一気にゆがんだ。大きく頭をたれた。
「この通り。本当に申し訳ない」
やっぱり。怪しいと思った。
「いいえ、もういいですから」
だが、水野はなかなか頭をあげようとしない。どうやら、まだなにかを抱えているようだ。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:MEGA WEB

編集:ノオト

[ガズー編集部]