【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#18

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

​4th ミキ、河口親子と対決!?
#18 純とのドライブ

わたしは2000GTで河口純のマンションに到着した。
​メールを送ると、すぐに彼がエントランスに現れた。車を見て、目を丸くしている。
ドアをゆっくりと開けて、顔を覗かせた。
「え、どういうこと? この車、どうしたの?」
「うん、まあちょっと、ワケがあってね」
わたしはそう言って、笑顔を見せた自分を褒めたいと思った。
「すごいな……。じゃあ、失礼します」
純が助手席におさまった。室内を舐めまわすように眺めている。
そして、今度はわたしを羨望の眼差しで見つめてきた。
「じゃあ、出発するね」
わたしは、アクセルを踏み込んだ。
「うわ、しびれるな……」
「今日の予定は?」
どこまでドライブするか、わたしは少しだけ悩んだ。ひとりなら湘南に行こうと思っていたけど、純と行くなら、もうちょっと近場がいいかもしれない。
「俺は何時でも大丈夫」
「仕事は?」
「休みにした」
「じゃあ、横浜のみなとみらいにしようかな」
「いいね。海を見たいな」
第一京浜を使って道なりに車を走らせる。運転中、純がこちらにチラチラと目線を送っていた。
言いたいことはだいたい予想がつく。この車を運転したいのだろう。したくて、したくて、たまらないはずだ。だって、純も相当な車好きなのだから。ヨタハチを運転させて欲しいと頼まれたことだってある。
でも、あんなにひどい仕打ちを受けて、こちらから2000GTを運転させてあげるほどわたしはお人よしじゃない。
特に会話もないまま2000GTは進み、やがて、みなとみらいの瀟洒な景色が近づいてきた。
赤レンガ倉庫の駐車場でエンジンを切る。
「ミキちゃん、改めてごめん。おれは本気だったんだ」
「じゃあ、なぜ」
そう言いかけて、口をつぐんだ。
兄弟では付き合えるわけがない。そんなことはわかりきっている。
「ミキちゃん、もしかしたら、気づいているかもしれないけど……」
わたしは純の目を見て、ゆっくりと頷いた。
「そっか。おれも、親父から聞いて衝撃を受けたよ。なんて言っていいのか……。あのあと、すぐに謝りたかったけど、ミキちゃんに会えば理由を話さなければならない。どうしたらいいのか悩んでいた」
純が視線を落とす。純の気持ちは理解できた。
わたしたちを乗せた2000GTに、行き交う人がチラチラと視線を送ってくる。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]