【小説】 女子オプ!−自動車保険調査員・ミキ− 第5話#21

第5話「父の失踪事件を調査せよ!」

4th ミキ、河口親子と対決!?
#21 仁の事務所へ

わたしは勝負服のジャケットを着て、ヨタハチの運転席に座った。保険調査で、ここいちばんの勝負の日に着て、気持ちを奮い立たせていたジャケットだ。
​​ そして、高校生の時に父に買ってもらったネックレスも。
行き先は銀座なのだから、車で向かう必要はまったくない。でも、ヨタハチで乗り込みたい気分だった。
ハンドルを握る手に力が入る。ついに、あの男と対決する日がやってきたのだ。
事前にアポイントメントは取り付けていた。
東銀座に到着すると、コインパーキングに駐車する。
河口綜合法律事務所の入っているビルに足を踏み入れた。何度も顔を合わせたことがあるベテラン秘書が立ち上がり、所長室に案内される。
河口仁は、椅子を反転させてこちらを向いた。秘書はなにかを察してか、すぐに部屋から出ていってくれたので助かった。
「本日はお忙しいところ、お時間をいただき、大変恐れ入ります」
あえてよそよそしく言う。
「いつ来るのかと思って、待っていたよ」
そういって、仁は立ち上がり、ゆっくりと応接用のテーブルにやってきてわたしに座るように促した。わたしは、仁が好きな和菓子をテーブルに置いて、腰を下ろす。
「お待たせしてしまって、すみません」
わたしは皮肉をこめて吐き捨てた。
「いろいろ嗅ぎまわってくれたみたいだね。君のお母さんも随分とショックを受けていたみたいだよ」
「わたしは、そのために、保険調査員になったんですから」
仁が鼻で笑った。わたしの手土産には目もくれない。
「こんなことになるのなら、インスペクションに紹介するんじゃなかったな」
わたしはむっとして、膝に爪を立てた。でも、下手に優しくされるよりは、挑発された方が強気に出られる。
「先生には大変感謝しております。おかげで、調査の能力を身に付けられました」
仁がわたしに冷たい視線を送ってきた。こちらの態度に苛ついている様子だ。
「じゃあ、だいたいのことはわかったということなのかな?」
「そうですね」
仁がソファに背を預けて腕を組んだ。
「いまさら、父親面をしようとは思わない」
「それを聞いて、安心しました」
仁が笑みをこぼした。
「すっかり、わたしは敵になってしまったようだな」
「そうでしょうか。話し合いの結果によるのかなと思っています。事前に確認しておきたいのですが、本日は時間ごとに発生する相談料は必要ありませんか? そして、事実をすべてお話していただけるのでしょうか?」
仁がさらにきつい視線をこちらに向けてくる。

<続く>

登場人物

上山未来・ミキ(27)
上山未来・ミキ(27):主人公。新米保険調査員。父の失踪の理由を探っている。愛車はトヨタスポーツ800。

周藤健一(41)
周藤健一(41):元敏腕刑事。なぜ警察を辞めたのかも、プライベートも謎。社長の意向でミキとコンビを組むことに。

桜川和也(29)
桜川和也(29):ミキの同僚。保険調査の報告書を作成するライター。ミキのよき相談相手。彼女あり?

成田真由子(27)
成田真由子(27):ミキの中学校時代からの親友。モデル体型の美人。大手損保に勤務する。時間にルーズなのが玉に瑕。

河口仁(58)
河口仁(58):河口綜合法律事務所の代表。インスペクションの顧問弁護士で、ミキの父親の友人。なにかと上山家のことを気にかけている。

河口純(30)
河口純(30):河口仁の息子で、ミキの幼馴染。ちょっと鼻につくところはあるが、基本的にいい人。愛車はポルシェ911カレラ。

小説:八木圭一

1979年生まれ。大学卒業後、雑誌の編集者などを経て、現在はコピーライターとミステリー作家を兼業中。宝島社第12回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2014年1月に「一千兆円の身代金」でデビュー。宝島社「5分で読める!ひと駅ストーリー 本の物語」に、恋愛ミステリー「あちらのお客様からの……」を掲載。

イラスト:古屋兎丸

1994年「月刊ガロ」でデビュー。著作は「ライチ☆光クラブ」「幻覚ピカソ」「自殺サークル」など多数。ジャンプSQ.で「帝一の國」、ゴーゴーバンチで「女子高生に殺されたい」を連載中。
Twitterアカウント:古屋兎丸@usamarus2001

イラスト車両資料提供:FLEX AUTO REVIEW

編集:ノオト

[ガズー編集部]