心機一転 前進あるのみ! ~レーシングドライバー平手晃平選手~

そろそろ国内モータースポーツのシーズン開幕が待ち遠しい今日この頃。各メーカー、チームの今季の体制発表が続いていますね。そこには悲喜こもごも現実の世界が描かれているから、毎年、試験の合格発表のような緊張感を持って受け止めていますが、今月8日、トヨタ自動車から今季の活動計画が発表されました。先般のWRC(世界ラリー選手権) 、WEC(世界耐久選手権)のワークス体制に続き、待ちに待った国内の発表です。その布陣には、大幅な変更がありました。特に、SUPER GTでは、小林可夢偉選手、ローゼン・クヴィスト選手、山下健太選手の加入や関口雄飛選手のチームの移籍と、盤石なレクサス陣営と大いに感じるラインナップでした。

そんな中、若手ドライバーの育成プログラムのサラブレッドとして10代で渡欧し、国内へ戻ってからはSUPER GTで2度のタイトルに輝いた平手晃平選手の今季は、GT500クラスに名前はありませんでした。オフシーズン、彼の身に起こった変化は、言うに言えないけれども誰もが心情を汲み取ってしまうSNSのタイムラインで、知る所となりました。心配された方も多かったでしょう。正式発表までの短い期間ではありましたが、どんな心境で日々を送られていたのか、元気かなと気がかりでもあったので、お話を伺って参りました。

――――昨年戦ったシートを失うことを知った時はいつでしょう?そして、その時の心境は?
平手:昨年の11月ですね。最初は、なぜ?という思いがありました。悔しかったです。しかし、振り返れば昨シーズン、チカラ不足だったことも自覚しています。自分の判断ミスや接触で結果に繋がらなかったレースもありました。自分らしいレースだと言ってくれる人も居ましたし、やってしまった事に自分でも後悔はない部分もありますが、それは戦う上で正しくはなかったのです。妻に最初に連絡をしましたが、これからどうするの?と心配してくれました。でも、悲しんでいてもしょうがなく、家族を養っていかないといけないので、来季に向けすぐ動きました。

――――相談された方は、いらっしゃいますか?
平手:寿一さん(脇阪寿一TOYOTA GAZOO Racingアンバサダー、現レクサスチームルマンワコーズ監督)に話をしました。以前、セルモから移籍する際にも相談に乗ってもらったことがあります。“俺にチカラがあれば…”とまで言っていただきありがたい限りです。そして、“俺にできることがあれば何でも言ってくれ”と、とても心強かったですね。

――――今シーズンの活動は、まずどのような方向性で動きましたか?
平手:最初にこのままGT500クラスのシートを獲得したいと考えました。厳しい現状であることも理解しつつ、いろんな方に話を聞いていただきました。これまで動いたことのないくらい活動しましたね。裏方的な開発ドライバーでも良いと考えたりもしましたが、結果的にGT500クラスのシートは得ることができませんでした。他メーカーの方からは、自分の立場を尊重する言葉もいただきありがたかったです。沢山の方が時間を割いてくださったことに感謝しています。二度タイトルを獲った事のプライド、自分が500クラスにステップアップした際に低迷していたサード(レクサスチームサード)でチャンピオンになった事もあり、どうにか500(GT500クラス)に乗れないかとこだわっていました。

――――古巣のチームでシートを獲得しましたね
平手:以前、ヨーロッパから帰って来た時に在籍したチームの金曽さん(apr金曽裕人監督)から、オファーをいただきました。その際に“実家に帰ってきたつもりで、頑張って欲しい”、“晃平の悪い所は叩き直してやる”と、本当にありがたい言葉をもらいました。12月29日に正式に返事をしましたが、他の可能性も探っていたので、実は返事を金曽さんが待ってくれていたというのが正しいですね。感謝しかないです。

――――将来、海外のカテゴリーもあり?
平手:自分自身、海外経験もあるのでこれを機に視点を変え、日本のレースにこだわらず新たなチャンスが到来したと考えています。ここで外の世界を見るのもありなのかと。年齢が今、31歳。来月32歳になり最後のチャンスかもしれませんが、是非チャレンジしたいです。10代の頃、今みたいにインターネットも無い時代にホームシックになりながら、イタリアでレースをさせてもらっていました。英語の勉強もそこでしましたが、英会話学校を出ると、まわりはイタリア語。そのうちイタリア語も理解できるようになり、チームとのコミュニケーションの取り方も身に付けました。また、F1チームのテストなどもやらせてもらい、今思えば貴重な経験をさせてもらいました。それも生かし、今度はアメリカや自分にとって未知の世界のレースもしてみたいです。GT3のドライブも経験したいし、ハコでもフォーミュラでも何でもチャレンジしたい。今は、SUPER GTを戦い、その上で出来ることをトライして行こうと思っています。他のカテゴリーについては、これからじっくり詰めたいですね。

――――新しいチームメイトの嵯峨選手とは、いかがでしょう
平手:大丈夫です、心配しないでください。もちろんチャンピオン目指して頑張ります。GTのドライバー紹介のパフォーマンスをやりましょうと既に言われていますが、どうしましょう。ちょっと恥ずかしいですね。

シートを得るもの、失った者、プロの世界は本当に厳しい。だからこそプロなのですが、プロとして仕事をする訳ですから、雇用する側のその判断に個人的な意見はありません。きっとご自身がよくわかっていると思いますから。ただ、どんな経緯があれ、走り続ける方は応援したい母性の強いわたし。繰り広げられるドラマに泣いたり笑ったり大変ですけどね(笑)。こんなシーンは、毎年どこかで起こっています。平手選手のケースも珍しくないです。今後の生き方が大事になって来ますよね、家族もありますしね。腐ってもいられない。これからは、恩返しするつもりで頑張るとの事ですから、しっかり見届けたいと思います。

敢えて、このような質問に応えてくれたことに感謝。正式に発表になった事でむしろ楽になったのではないでしょうか。気持ちも切り替え、まず一山乗り越えた感のある平手選手は、明るいいつも“晃平”でした。頑張ってくださいね!そして、金曽さん!また、よろしくお願いします!

(写真 折原弘之、テキスト 大谷幸子)

[ガズー編集部]