ケンジさん逝く…  

先日、スーパーフォーミュラ開幕戦が開催されている最中、チームル・マンの山田健二エンジニアが急逝されたのは、ご存じの方も多いかと思います。現場で知ったのですが、ショックでね…。さすがに動揺しました。

山田健二エンジニア(以下、ケンジさん)は、トムスで敏腕を奮っていた時期が20年近くありまして、わたしも10年以上前に、こちらのチームで広報のお仕事をさせていただいていましたので、よくお話を伺いに行っていました。

10年くらい前、全日本F3選手権のカテゴリーで、ケンジさんは日本人ドライバーを主に担当されていて、トヨタ育成のドライバーは彼の教えを身に付け育っていった感があります。当時、このカテゴリーを総括していた、今は全カテゴリーを見ていらっしゃるトムスの山田淳エンジニアが外国人ドライバーを担当し、“ダブル山田”で無敵を誇っていました。

欧州にも、チームは名をとどろかせているのは言うまでもなく、年に一度のマカオグランプリのピットには、海外メディア、外国人ドライバー、チーム関係者がクルマを見に来ていましたね。本国のオートスポーツさんもよく取材に来られていました。あれは、マカオに行くと、外部の人間が言うのもなんですが、ちょっと鼻高々でした。ご本人たち常に全力で勝つこと以外考えていない、2位など要らないチームなのですが、勝ちすぎて皮肉を言われるようなこともありました。

その皮肉とは、トムスはクルマが良いからどのドライバーでも勝つ…と。なるほど、これはチームにとって名誉。その為にみんなが頑張っていますから素晴らしいこと。ただ乗ってるドライバーにしてみれば、悩むところですよね。しかも、若い彼らにトムスで乗る以上、優勝はマストでもあるし。ただ、それだけ良い環境で乗ることができる幸せは、シートを勝ち取ったという事でもあるし、何にせよ名門チームに在籍し名エンジニアと仕事をすることは、誇りでもあったと思います。

そんな中で、ケンジさんは厳しいエンジニアでありました。プロとしてのレースの“いろは”を教えてあげた人でした。メカニックたちもスパルタで鍛えられたのではと思います。サーキットでは、あまり状況が良くない場合は、こちらにそれを受け取らせない話術と、明るさがありました。レースは、何が起こるかわからないので、その話術とは次への可能性でもあったし、次に勝つための仕事が既に始まっているので、常にコメントは前向きでした。多分、私にレベルを合わせて話してくださっていたのかもしれませんけどね…。強面(失礼)だけどいつも笑顔で話してくださいました。 

トヨタのドライバー育成プログラムが始まってから、片岡龍也選手を筆頭に、中嶋一貴選手、石浦宏明選手、大嶋和也選手、国本京佑選手、井口卓人選手、国本雄資選手、蒲生尚弥選手、あと誰だ?育成ドライバーだけではないですが、ざっと名前をあげれば今大活躍のドライバーのみなさんを育てました。

ケンジさんのチームル・マンへの移籍は、かなり大きな話題でした。わたしもびっくりしましたね。いろいろ記憶にあります、2009年ですね。移籍されてからは、スーパーGTと当時のフォーミュラニッポンで活躍されました。こちらもそうそうたるドライバーと共に仕事をしています。あげたらキリがないくらい…。

昨年は、スーパーフォーミュラの現場から離れましたが、今季は大嶋和也選手の強いリクエストにより、彼の担当エンジニアとしてこのカテゴリーに戻って来たと聞いています。スーパーGTではずっと一緒だし、トムスF3でもチャンピオンを二人で獲ってますから、大嶋選手としても心強かったはずです。それだけ慕っていたはず。

それが突然の急逝で、大嶋選手の心情たるや…。開幕戦は、予選日までお元気でしたが、決勝日はいらっしゃらず…。片岡龍也監督の下、チームのみなさんと共に最後まで走り切りました。スーパーGTには、脇阪寿一監督と共に、フェリックス・ローゼンクヴィスト選手も加入し、今季こそチャンピオンを狙っていたことでしょう。

ショックは計り知れないほど大きいのは当然。それだけお仕事ができる方でもあったし。エンジニアの死は、大きな痛手ですが、ここを乗り越えてこそ成し得るものがありそうに思います、容易なことではないけれど。

彼レベルのエンジニア、しかもシーズン始まってますし、探すのは大変なのではと心配しています。このレポートがアップされる頃には、すでに現場は新しい体制で動いていると思いますが。見守りたいと思います。

昔の写真、載せたいんだけど、時間作って腰をすえてゆっくり探します。たくさんあるはず、10年以上前のが…。マカオグランプリのものとかもね。ごめん今回は。

熱い方でした…。奥様のリカコさんは、とっても元気な人。わんこに囲まれてお二人で暮らしてましたが、でもね…。ゆっくりゆっくり元気になってください。ケンジさんは、たくさん休んでください。お仕事ぶりを拝見するだけの私でしたが、この業界にいて素晴らしいエンジニアさまと巡り会えたことに感謝ですね。ご冥福をお祈りいたします。元気でね!

[ガズー編集部]