その瞬間の笑顔と涙 心に映った最終戦 ~スーパーフォーミュラ最終戦現場レポート~

チャンピオン決まりましたよ!すでにご存じの方も多いと思いますが、ニック・キャシディ選手(VANELIN TEAM TOM’S、以下ニック)が、2019年シーズンのドライバーズタイトルを獲得しました!おめでとうございます!最後は、パーフェクトなレース運びで、レース巧者のチームと速いドライバーによる大団円でした。

今季は、雨がらみが多かったですね。セーフティカーも入ることが多く、本当に速いドライバーは誰なのかを見失ってしまう、運頼みのレースとなることもありました。せっかく築いたタイム差が立ち消えになるのは、悲しかったですね。

運もレースのうち?なのかもしれませんが、レースですから速さを競いたい。ただ、安全を考慮してのセーフティカーですから、そこは仕方がありません。しかし、最終戦は、セーフティカーの介入はありませんでした。よってレースが中断することなく、タイムレースとなることもなく43周を走り切りチェッカーを受けました。安堵…。

シーズンを振り返ると、チームを移籍したニックは、開幕戦からとてもピリピリでしたね。チャンピオンを意識していました非常に…。2年所属したコンド―レーシングから、SUPER GTで所属しているトムスに移籍し新しいシーズンを迎えました。

昨シーズンは、1ポイント差で挑んだ最終戦で最後までコース上で競い、惜しくもチャンピオンを逃しましたので、もちろんタイトルが欲しいでしょう。F3で来日した際に、育ててもらったチームに移籍したわけですから、その思いはさらに募るはずです。

トムスのスーパーフォーミュラの2つのシートはなかなか空きが出ませんでした。しかし、2006年から長年在籍したアンドレ・ロッテラーが海外のレースに専念することで、そのシートが空席に。彼の活躍を考えると、時間の問題ではありましたが、それでも日本にいてくれました。2016年のシーズンが終了時のことでしたね…。いなくなるのが信じられませんでした。ちなみに、ニックがこのカテゴリーにデビューしたのが、2016年です。

2017年シーズンをドライブしたのは、ジェームス・ロシター選手。彼の成績次第でこのシートは、固定されないだろうと思っていました。(ごめん…)2018年シーズン、ニックがシートを得たわけですが、いつもの体制でスタッフとのコミュニケーションは無問題。英語を話せるスタッフがいっぱいの、いつものトムス。あとは、昨年以上の成績を目指すだけ。ターゲットはチャンピオン。チームとしてもそれがマストだと考えたはずです。

2019年のシーズン、ニック同様チャンピオンの山本尚貴選手(ドコモダンデライアンレーシング)もチームを移籍してのゼッケン「1」と環境を変えての参戦となりました。しかし、二人の速さはそれをハンデとしないシーズンでしたね。体制の変化に関係なく、速さをいかんなく発揮しました。

そして、速いルーキーたちの出現。アレックス・パロウ選手(ナカジマレーシング)は、プレシーズンテストから速かったです。そして、ルーキーイヤーにもかかわらずと言ったら失礼か…、タイトル争いに加わりました。

優勝も経験し、最終戦の予選は、ポールポジション獲得!これはもうサクッとタイトル持ってっちゃうのかなと感じさせる脅威の速さ。ただ、どうもクルマの調子が悪かったのか、決勝ではレース終盤、ぐんぐん後退してしまい残念でしたけどね…。

決勝では、ライバルたちがニックの後ろでやり合う中、ニックは盤石にギャップを築いていき、最後、優勝は逃したものの2位、1ポイント差で追いかけた山本選手の前でゴールしチャンピオンを獲得しました。

チェッカー後。山本選手の涙がもう見ていて辛く…。これ、感情移入してしまうと伝える者としてちゃんと仕事ができなくなるので、動揺しないようにしていましたが、ハートに訴えてくるので辛かったです。当初はタイトルを逃したことの涙だと思っていました。もちろん、そうでもあるのですが、記者会見で深くその涙の意味を知ることとなりました。

山本選手の所属するドコモダンデライアンレーシングは、今シーズンのチームタイトルを獲得しました。ドライバーズタイトルを獲得したニックと共に、村岡潔チーム代表が年間チャンピオン記者会見に出席しました。

そこで、村岡氏から、「表舞台から去る」という言葉が発せられました。チーム体制が変わったそうで、この最終戦を機に勇退されるというような意味合いの発言をされました。当然初耳で、長きに渡りこのカテゴリーを盛り上げ、実績も残してくださった方だけに、一抹の寂しさを覚えたと同時に、山本選手の涙を意味を一気に理解したわけです。

チームメイトの福住仁嶺選手もチームタイトル獲得の表彰式で涙ぐんでいたので、少し気になった瞬間がありました。やはり、そういうことだったのかと。山本選手が村岡氏と抱き合って泣くシーンは、テレビでも中継されていたと思いますが、強い絆で繋がっている同士の泣き方でしたよね?あの雰囲気は尋常ではなかったです。持っていかれましたココロを。

この業界は、派手に見えつつ意外にそうでもなく…。職人気質で、人と人の繋がりで成り立っていると思います。それこそ、その人との繋がりは、利益度外視な部分も多く、勉強になることも多くてね。技術的に高度なこともやりつつ義理人情の世界だったりして、ココロを揺さぶられることが多々あります。

監督とドライバー、関係性はチームの体制によってかなり違いますが、あの涙はね…。説明するまでもありませんね。むしろ、自分が業界を去るとき、もちろん個人の都合によるものでしかないのですが、業界の隅っこにいる自分が、いつかほんの少しでも交流のあった方々に思い出してもらえるような仕事ができたらと思いました。

今回のニックのタイトル獲得は、若さと、彼のこれからも続くであろう長いレーサーとしての将来を思うと、涙よりも笑顔かな。あまりにトムスは、スマートにタイトルを獲得したので…。

こちらの写真ですが、表彰式が終わり次のセレモニーに移るまでの時間に、山本選手がタイトルを競いあった二人を連れて、再び壇上にあがったシーンです。新チャンピオンを称えています。それだけ納得の行く戦いだったのでしょう。素晴らしい最終戦になったと感じました。スポーツマンシップとは、こういうことですよね。この笑顔、忘れません。一年間、お疲れさまでした。来季も楽しみにしています。

そして、今週末、再びニックは大一番です。SUPER GTの最終戦が開催されます。事実上LEXUS同士の戦いが、どんな結末を迎えるのか…。6号車と37号車。今週も良いレースを見せていただきましょう! では、また! Instagramも見てね!

(写真:折原弘之 / テキスト:大谷幸子)

[ガズー編集部]

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