モビリティ社会の足元を変える「エアレスタイヤ」とは?

自動車が生まれた当初、動力を地面に伝える役割は、馬車と同様に「木製の車輪」が担っていた。より速く走らせるための改良が進む中、1895年にフランスのミシュランが「空気が入ったタイヤ」を初めて自動車の車輪に使用。それまでの倍の速度で走行する事を可能にしたと言われている。以来、約120年もの間、自動車の車輪を構成する「当たり前の存在」として、世界中の道を走り続けている「空気が入ったタイヤ」。
しかし、自動車業界が迎えている「100年に一度の転換期」の中で、そのタイヤも大きな変化を迎えようとしている。今回はクルマに関する新技術の見本市『人とクルマのテクノロジー展』に出展されていた、新時代の「エアレスタイヤ」をガズー編集部が取材。『TOYO TIRES』ブースでの試乗体験、開発者へのインタビューを通して未来のタイヤの可能性をご紹介したい。

「エアレスタイヤ」とは?

そもそも『エアレスタイヤ』とは、文字通り「空気(エア)を使わない(レス)タイヤ」であり、フランスのタイヤメーカー「ミシュラン」が2005年に発表したコンセプトモデルに端を発する。ミシュランはその後、スキッドステアローダー(その場で旋回できる機能を持つ建機)用のタイヤとして開発を進め、2019年には日本でも販売が開始される予定だ。
空気を使わないため、悪路でのパンクに悩まされる事が無くなる他、ホイール自体が衝撃吸収を担う事で乗り心地の向上などのメリットが謳われる、まさに「未来のタイヤ」。
『乗用車装着タイヤ』としては、TOYO TIRESが2006年から研究開発をスタートしており、業界を先駆ける存在。その開発レベルは市販車に装着してクローズドコースを走行できる段階に到達している。

  • 今回、取材に伺ったTOYO TIRESブース
  • 乗用車装着エアレスタイヤの世界ではパイオニアだ

「乗ってみよう、エアレスタイヤ!」ガズー編集部員・試乗レポート

何事も「現地で体験」がモットーのガズー編集部。TOYO TIRESさんのご厚意にて、広い駐車場に設置されたテストコースでデモ車両の助手席同乗体験をさせていただける事に。
現地で我々を待っていたのはデモ車両のダイハツ・ミライースと、その足元を鮮やかに飾るTOYO TIRESのエアレス・コンセプトタイヤ、『ノアイア(noair)』。
従来のタイヤに充填される「空気」の役割を果たす、振動を吸収する樹脂性のスポーク部分は、TOYO TIRESが10年以上の研究開発を経て辿り着いたという「X型」の構造。青い色もその形も、ひと目見ただけで従来の「タイヤ」の概念を一蹴するほど。ただ、見たところ特徴的なトレッドが刻まれたゴム部分は薄く作られており、乗り心地はどうなんだろう?というのが正直な印象…。

  • テストコースにてデモ車両とご対面
  • 見るも鮮やかなエアレスタイヤ『ノアイア(noair)』

同乗するのはガズー編集部イチ、タイヤの変化に敏感な「実走派」ことO部員。助手席に乗り込み、いざコースイン。TOYO TIRES開発ドライバーの運転により、発進・加速・スラローム・急制動など様々なシチュエーションを体験した。さて、その印象はいかに?

ガズー編集部員O
「樹脂スポークによる連続した接地音が大きいのではと思っていましたが、想像していたよりも、静かでした。タイヤに剛性感があり、加減速などタテ方向の挙動は違和感無いです。ただ旋回時にタイヤがヨレないので、ヨコ方向は限界を超えると少し滑る印象です」

流石は編集部が誇る人間センサー。指摘がマニアックです。
『現状はコンセプトモデル』にも関わらず、試乗後の第一声が「思っていたよりも普通」という所が、個人的には大きな驚き。見た目タイヤも薄く、感想は「硬い」の一点張りだと思っていましたが、見た目よりも自然な乗車フィーリングだったという『ノアイア』。流石に長年の開発を経ている事もあり、完成度はすでにかなり高い印象。
だが、TOYO TIRESの開発担当さんによると 「乗り心地などは素材の吟味など含めて、今後調整していくイメージです。(ヨコに粘らない事について)現時点では幅も狭く、ゴムの厚みも無いのが影響しているので、これも改善していきます」との事。専門家の目で見るとまだまだ乗り越える壁があるようだ。

  • デモ車両に乗り込む、「走れる」編集部員O
  • こんなにゴム部分が薄くても、自然な乗車フィーリングとは驚き

TOYO TIRESの開発者に聞く「エアレスタイヤ」

同乗体験終了後に、こちらもご厚意にて開発担当のタイヤ先行技術開発部・柏原さんからお話を伺うことができた。
教えていただけた内容をまとめてご紹介させていただきます。

Q:エアレスタイヤのメリットとは?
A:パンクレス(空気が入っていないので)/メンテナンスフリー(空気圧の管理など必要ない)

「パンクが無くなる事で外出先でのトラブル対応で嫌な思いをしなくて済む。また、高速道路走行中の急なタイヤバーストは交通事故減少につながると考えます」
「今後訪れるであろう自動運転/カーシェア社会において、自分のクルマを所有しない人が増えると、タイヤに対する関心が低下すると想定されますが、そんな状況にはメンテナンスフリーという点で最適のタイヤとなる可能性があります」

未来のカーライフ・モビリティ社会への好影響など、シンプルながら非常に効果的なメリットだと考えられる。
また、メインのメリットではないものの、従来のタイヤには出せない特性として以下が語られた。

「高い剛性がもたらす低い転がり抵抗(=低燃費)かつ、高いブレーキ性能の実現という相反する機能の両立が可能です」

よく止まり、よく転がる。しかもパンクも無く、頻繁なメンテナンスも不要…まさに夢のようなタイヤである。


Q:今後のロードマップ・課題とは?
A:まだ技術的にも、環境的も課題が多い

「耐久性など、同サイズ相当の空気入りタイヤの法規試験は合格しています」
「ただし、エアレスタイヤの規格がまだ業界で定まっていない。こちらの整備も必要」
「早めに実用化したいが、技術だけ先行しても難しい。世間の認知とインフラ構築も重要と考えています」

同乗体験で感じられた完成度から、「意外とすぐに実用化するのでは?2020年には実用化しますか?」と無邪気に質問してしまったガズー編集部ですが、実際にはまだ乗り越えるべき課題が多く存在するとの事でした。
また、テレビCMや走りイベントのスポンサーなど、TOYO TIRESさんと言えばドリフト!モータースポーツ!というイメージを持っていたガズー編集部。「ドリフトなど、モータースポーツでの使用などは?」と伺ってみましたが、こちらは流石にまだまだ…というお話でした(縦剛性の高さから、ドリフトよりサーキット走行の方が…という楽しい会話があったような気もします)。

  • スポークのカラー、タイヤのパターン…新しいカスタマイズが生まれそう
  • テストコースでは激しい走行はできなかったが、いずれは…?

こんな未来が待っている?ワクワクを感じる「エアレスタイヤ」に期待!

今回の取材を通して、「エアレスタイヤ」に感じた『未来の世界』をガズー編集部なりにまとめると…

  • メンテフリーなタイヤの誕生 = スマートモビリティ社会普及への貢献
  • パンクリスクによる事故が減らせる = 安全な車社会
  • 樹脂による色付きスポーク構造 = 新しいデザインによるカスタマイズの世界

今までの当たり前を変える事で、非常に多くのメリットや新たな世界が見えてくる…これはまさにイノベーションと呼べるのではないでしょうか?なによりクルマの未来に対して『ワクワクする』事ができたのがとても楽しい!そう感じられた取材でした。

新しいモビリティ社会にもクルマへのワクワク感は、ある。

また、今後クルマの足元だけでなく、世界が取り組むモビリティ社会の足元をも支える存在となるのか?
ガズーでは引き続きエアレスタイヤに注目したいと思います。

[取材:ガズー編集部]
[取材協力:TOYO TIRES]

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