【スズキ ジムニー 試乗】腹に落ちる、とはこういうことか…島崎七生人

スズキ ジムニー XC
腹に落ちる……とはこういうことか。誰もが心の中に持ち続けていた初代や2代目のイメージを、(最新技術こそ織り込まれつつも)余分な解釈は加えずピュアに再現されたところが、新型『ジムニー』の心を打つ理由だと思う。

原点回帰のような外観は、やはりインパクトがある。実際にはカーブさせているが立ったフロントガラスは平面に見えるし、存在感を主張するドリップモールでフチ取られた、まるで昔の2軸・有蓋貨車のようなキャビンは正真正銘の“箱”。今ならヒット作の『ハスラー』に引っ張られるようなデザインであっても不思議ではないが、ディテールに至るまで見るからに、あくまで『ジムニー』で、その徹底ぶりは鮮やかだ。

水平基調のインパネが備わるインテリアも、あくまで機能本位。トリムなど樹脂類のシンプルだが肉厚な造りで好感がもてる。『スイフト』などと同様、フルオートエアコンの3連ダイヤル風の中央ベゼル部分がフェイクなのは個人的にいつも残念に思うこと。後席は楽な姿勢で着座でき頭上空間もゆとりがある。ラゲッジスペースは後席ヘッドレストを外してシートバックを倒せばフラットなスペースができ、幅が最大で1300mmというのも使いやすい。

肝心の走りも想像以上の出来だった。もっとも驚かされたのは、走行中の音・振動が高級乗用車のように低いこと。これはフレーム構造のメリットだ。前後リジッドアクスルにつき、オンロード走行時に左右輪の高低差があると素直にボディが揺れるが、タイヤへ入力があった際のショックの伝わりかたは小さく、ピッチングも気にならない。

エンジン性能は実用上、十分と思えるもので、電子制御スロットルの操作感もきわめて自然。5速が1.000のMTも、従来と同じギヤ比という4速ATも、どちらもスムースで洗練された走りを実現している。オンロードで車線逸脱警告が機能するのは現代的。最小回転半径4.8mの扱いやすさも見逃せない。

オフロードも試乗できたが、ダンパー付きのステアリングは不快なキックバックが皆無で、走行中のシフトレバーの揺れも小さい。クルマが捩れるような場面でボディが軋む感じがほぼしないのもいい。それとオフロードでとにかく威力を発揮するのが「ブレーキLSDトラクションコントロール」で、実際には険しい路面状況下でも難なく安定した走破を試乗コースで見せつけた。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★

島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編集/執筆/撮影を経験後、1991年よりフリーランスとして活動を開始。以来自動車専門誌ほか、ウェブなどで執筆活動を展開、現在に至る。 便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。

(レスポンス 島崎七生人)

[提供元:レスポンス]レスポンス