トヨタ GRヤリス 新型試乗 まさに“Bセグ・スポーツカー”!3グレードの走りを比較…大谷達也

トヨタ GRヤリス RZ(プロトタイプ)
環境問題に電動化、さらには自動運転やシェアリングなどの対応に多忙を極めているはずのこの時期に、トヨタという自動車メーカーから「モータースポーツを見据えた本格ホットハッチ」が誕生したことを、まずは率直に歓迎したい。いや、本当に、これはなかなか他メーカーにはマネができないことだと思う。

『GRヤリス』は足回りだけでなく、エンジンも駆動系も、さらにいえばボディまで専用設計のスポーティモデル。いや、スポーティモデルなんか生半可な表現ではとうてい足りない。“Bセグメント・スポーツカー”とでも呼びたくなるくらい、クルマの根っこからしっかりと作り込まれたハイパフォーマンスモデルである。

今回試乗したのはGRヤリスのプロトタイプ。もっとも、同じプロトタイプといっても、昨年12月に試乗した段階から目覚ましい進歩を遂げていることは明らかだった。しかも、今回は「RZハイパフォーマンス」、「RZ」、「RS」と名付けられた3グレードへの試乗を許された。まずは各グレードの概要をお知らせしよう。

◆GRヤリスの3グレードを比較


RZハイパフォーマンスはGRヤリスの最上級グレードである。エンジンは最高出力272psの3気筒1.6リットルターボエンジンで駆動系はGRヤリス最大の特徴といってもいいトルク配分率可変式のスポーツ4WD“GR-FOUR”を採用。前後にトルセン式LSDを装備し、ミシュラン・パイロットスポーツ4Sというハイパフォーマンス・タイヤを装着しているのが特徴だ。

RZはそのダウングレード版だが、エンジンや駆動系はRZハイパフォーマンスと共通。ただし、前後のLSDが省かれているほか、タイヤがダンロップ・スポーツマックス050に置き換えられるといった違いがある。

残るRSはGRヤリスのエントリーグレードで、エンジンは最高出力120psの3気筒1.5リットル自然吸気エンジンで駆動系も前輪駆動とCVTの組み合わせとなるが、上級グレードと同じGRヤリス専用の3ドア・ボディが与えられる。

ちなみに、今回試乗したのは以上の3グレードだが、このほかにRZと同様のパワートレインに軽量化を施した競技ベース用の「RC」も存在する。

◆「RZハイパフォーマンス」&「RZ」に試乗


路面がぐっしょりと湿った富士スピードウェイのショートコースで最初に試乗したのはRZハイパフォーマンス。これが12月に試乗したプロトタイプとは違って、面白いようにクルクルと回る。といってもスピンするわけではなく、アクセルを踏んでもオーバーステア、限界的コーナリング中に軽くブレーキを踏んで前荷重にしてもオーバーステアが顔を出すという具合で、上級者にはたまらない設定なのだ。

リッターあたり170psを誇る3気筒エンジンはトルク特性がフラットなうえに、どの回転域からでもレスポンスよく吹き上がる。トップエンドでのスムーズさも良好。3気筒特有のビート感をあまり感じさせないところも好印象だった。


続いてRZに試乗する。クルクルとよく回る傾向はRZハイパフォーマンスと同様。ただし、LSDが装着されていない分、滑り始めたあともスロットルオンで積極的にクルマを前に押し出すのは難しい。それでも、4WDゆえにオープンデフを積んだ後輪駆動に比べればはるかにトラクションがよく効くので、とめどなく車速が落ち込んでストレスが募るということはない。

また、RZハイパフォーマンスよりグリップレベルがワンランク下がるタイヤとのバランスも良好で、絶対的な速さやコントロール性がRZハイパフォーマンスに及ばないのを別にすれば、「これはこれでアリ」と思わせるまとまりだった。

◆GR-FOURのトラック・モードが50:50の理由


ところで、GRヤリス最大の特徴であるスポーツ4WD“GR-FOUR”のトルク配分は、ノーマル・モードでF:R=60:40、トラック・モードで50:50、スポーツ・モードは30:70に設定されている。このうち、後輪駆動に近いステアリング特性と4WDらしいスタビリティの両立を狙ったスポーツ・モードが30:70とされたのはいいにしても、トラクション性能の最大化を狙ったトラック・モードが50:50とされたのは興味深い。なぜなら、前後の重量バランスと駆動配分を揃えるのが、理論的にはもっともトラクション性能を高くできると考えられるからだ。

この点をエンジニアに訊ねたところ「私たちも意外に思っていますが、様々なテストを行なった結果、これがもっとも優れたトラクションを発揮するとの結論に達しました」との答えが返ってきた。どうやら、加速時には静的な重量バランスよりも実際にはリア寄りになるなどのことから、50:50が最適のトラクションという答えになったようだ。

もっとも、ここに挙げた数値はいずれも代表的なものであり、ブレーキング時にはほんの少しだけリアにトラクションを伝えてスタビリティを向上させるといったダイナミックな制御も随所で行なわれているらしい。


4WDモデルにはオフロードコースでも試乗できた。ここでもバツグンのコントロール性を示し、ドリフト走行を満喫できたが、サーキット走行の際と同じようにどれほどドリフト・アングルを深くとってもスピンする気配を見せない点にも驚かされた。これは4WDシステムの熟成がきわめて高いレベルに到達している証左だろう。

なお、前後の駆動スピードを等速とするトランスファー、機械式LSD、ラリー用ダンパー(開発中)などがオプションで用意されており、オフロード走行時はこれらを使用した。このうち等速トランスファーは、リアを増速したままだとオーバーステアが際限なく増大するために用意されたものだという。

◆1.5L&CVTの「RS」もガワだけじゃない


最後にRSにもショートコースで試乗した。正直、乗る前は「格好だけGRヤリスを真似た廉価版でしょう」と思っていたのだが、荷重移動次第ではオーバーステアも引き出せる本格的なスポーティ・ハンドリングに度肝を抜かれた。

もちろんエンジンパワーは限られているし、前輪駆動だからアクセルを踏んだだけでドリフトに持ち込めるわけではないが、そのハンドリングは、タイヤと対話しながらワインディングロードを攻めたいスポーツドライビング派にも受け入れられる本格的なものといえる。

大谷達也|自動車ライター
元電気系エンジニアという経歴を持つせいか、最近は次世代エコカーとスーパースポーツカーという両極端なクルマを取材す ることが多い。いっぽうで「正確な知識に基づき、難しい話を平易な言葉で説明する」が執筆活動のテーマでもある。以前はCAR GRAPHIC編集部に20年間勤務し、副編集長を務めた。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本モータースポーツ記者会会長。

(レスポンス 大谷達也)

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