プジョー 208 新型試乗 アンチ・ゴーカート・フィーリングの気持ち良さ…南陽一浩
よく欧州ハッチバックの定番といえばVW『ゴルフ』が挙げられるが、Cセグでのゴルフの定番ぶりと同じぐらい、Bセグで不動の定番であり続けているのがプジョーの“2”シリーズだ。
とくにベルギーの下半分やフランスから南欧にかけてのラテン系の地域では、CセグよりもBセグのハッチバックの方が販売面でも車格サイズ的にもポピュラーな存在。定番だが決して「ネガのない優等生キャラ」でないところが、新しい『208』の落としどころでもある。
日本市場にこの夏から導入が始まった仕様は3種類。まず受注生産で装備ごと控え目な「スタイル」(239万9000円)と、16インチ仕様でACCも付くなど装備バランスはいいけどパノラミックガラスルーフは選べない「アリュール」(259万9000円)、さらにセミバケットタイプのシートなどスポーティトリムで17インチ仕様の「GTライン」(293万円)だ。
以上はすべて直列3気筒1.2リットルターボのピュアテック100ps・205Nm+8速ATというガソリンのパワートレインだ。後2者の仕様のみ、はほぼ同じ装備トリムで136ps(100kW)・260NmのピュアEVパワートレインも用意され、アリュールもGTラインも+130万円高となる。
本国ではさらにディーゼルのパワーユニットも用意されるが、外観はほとんど違いのない208のままで、乗り手に好きなパワーユニットの選択肢を自由に与えるというのが、新型208の特長でもある。ドイツ車がICE(内燃機関)版と並行して、EVには別シリーズの別ボディを用意しているのとは対照的といえる。今回の試乗車は、ガソリンのGTラインだった。
◆個性的だけど調律と抑制の効いたエクステリア
近頃のプジョーの定石となっている前後「3ツ爪ライト」と「牙LED」に加え、デザインでひとクセ感じさせるのはグロスブラックのホイールアーチだ。SUVクロスオーバーならマットなウレタンプラスチックでお約束といえる処理を、あえて艶アリのブラックでGTラインだけに付けて、1430mmの低い車高と相まって、精悍に見せる。
全幅1745mmは旧208より+5mm増と気持ち拡がった程度だが、外見がかなりロー&ワイドになった。全長は旧3975mmに対し+80mmの4055mm、ホイールベースの2540mmは変わらないが、旧モデルより腰高感が抑えられた伸びやかなプロポーションに生まれ変わり、フロントマスクだけが大き過ぎるバランス悪さもない。それでいてボディパネルの面処理も凝り過ぎず、映り込みがキレイなので、主張するようでじつは周囲の景色に馴染みやすいデザインといえる。
またボンネット両端が軽く抉られているので、ドライバーズシートから車両感覚が掴みやすい上に、リアウインドウの形と三角定規を当てたようなCピラーは、『205』を彷彿させる、そんな抜かりなさもある。全体として、近年のスモールカーでは飛び抜けて鮮やかな手並のエクステリアといえるだろう。
余談ながら、このデザインをまとめたスティル・プジョーのチーフ、ジル・ヴィダルは7月末にルノーへ電撃移籍し、本国の自動車業界では大きな話題となっている。
いずれプジョーのスモール・ハッチバックがソツのない優等生に終わらないのは、どこか弾けるような期待感をビジュアルに宿しつつ、走り出すとそれが確かに露わになるからだ。
◆物足りないとは思わせない1.2リットルターボ
スペックよりも走りがずっと元気に感じられるのはフランス車の常だが、ことプジョーはその傾向が強い。1140kgという今どきのBセグ・ハッチバックとして驚異的に軽い車重も相まって、100ps・205Nmという鼻で笑ってしまいそうな数値からは想像できないほど、208は力強く加速する。
これはCMPというPSAグループでも最新のプラットフォームに拠るところが大きい。また余談だが、この車台を開発したエンジニアのジル・ラ・ボルニュもルノーに移籍した。それぐらいルノーが、なりふり構わずフットボールでいうPSG状態である訳だが、そのPSGはついにCL決勝に進出した。
話が逸れたが、加速しばなにローギアードの1速が速攻で吹け切るのは、5名フル乗車で荷室満載での坂道発進といった実運用上のエクストリーム状態に備えてのこと。2-3-4速の軽快な繋ぎぶりときっちり目のロックアップは、さすがアイシンAWの安定の仕事ぶりだが、走行モードがノーマルのままだと減速時、とくに低速でやや前のめりのショックがある。逆にいえば、街乗りではコースティングによる滑走感を利してのエコモード推奨セッティングといえる。
走行モード切り替えにはもうひとつ、スポーツモードがある。ノーマル時よりも1~2段低いギアを選んで2500~3000rpm弱を保つため、アクセルのレスポンスも敏感になり、高速道路の合流などで加速に鋭さが加わる。エキゾーストノートには増幅音が加わり、それこそ猫科が喉を鳴らすニュアンスなのだが、ちょっと大袈裟という気もする。それこそが、同じCMPプラットフォームでコンフォート志向の『DS 3 クロスバック』と、スポ―ティな208のキャラクターの違いでもあるのだが。
◆アンチ・ゴーカート・フィーリング
街乗り程度の速度域でも不快な突き上げはなかったが、速度域が上がると208の動的質感は途端に輝きを増す。高速巡航でスポーツモードは煩いのでノーマルモードのままだが、ステアリング中立付近がどしっと座ってくる。緩やかなコーナーで少しだけ舵角を当てるような時も、中速S字の切り返しのような場面でも、盤石のニュートラルステアとトレース性が味わえる。
ステアリングフィールはアンチ・ゴーカート・フィーリングともいうべきものが。ロールは許容するが傾きもロールスピードもあくまで控えめ。それでいて路面のギャップを少しばかり拾っても乱されない足さばきは、Bセグとは思えない貫禄すら感じさせる。
加えて小径ステアリングの少ない動きで、狙ったラインにストレスなくのせられるから、結果的に長距離を走っても疲れが少ない。地味ながらも、次々とグッド・サプライズに満ちている、そんな動的質感の高さというか、積極的に操るほど応じてくれる、そういう乗り味だ。
一方で、ADAS制御には車間距離の調整やレーンキープの仕方に、やや生硬さを感じなくもない。だがステアリングなりアクセルペダルなり、乗り手が意図的にオーバーライドするときの移行の自然さというか、粘って余計なことをしないプログラミングは、むしろこなれている。これは先述した、街乗りではエコモード推奨にも似て、あくまで今のADASでレベル2の使い勝手を磨くより、ドライバーの意志を優先させる姿勢がみてとれる。
ようは新しい208には、人側のミスをカバーしようとする優等生じみた配慮はない。でも乗り手が意志をもって操るなら、間髪入れずに沿ってくれる潔さがある。そこが、決まりやロジックに守られる方が心地いいと感じるタイプには、向かない定番というわけだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
(レスポンス 南陽一浩)
とくにベルギーの下半分やフランスから南欧にかけてのラテン系の地域では、CセグよりもBセグのハッチバックの方が販売面でも車格サイズ的にもポピュラーな存在。定番だが決して「ネガのない優等生キャラ」でないところが、新しい『208』の落としどころでもある。
日本市場にこの夏から導入が始まった仕様は3種類。まず受注生産で装備ごと控え目な「スタイル」(239万9000円)と、16インチ仕様でACCも付くなど装備バランスはいいけどパノラミックガラスルーフは選べない「アリュール」(259万9000円)、さらにセミバケットタイプのシートなどスポーティトリムで17インチ仕様の「GTライン」(293万円)だ。
以上はすべて直列3気筒1.2リットルターボのピュアテック100ps・205Nm+8速ATというガソリンのパワートレインだ。後2者の仕様のみ、はほぼ同じ装備トリムで136ps(100kW)・260NmのピュアEVパワートレインも用意され、アリュールもGTラインも+130万円高となる。
本国ではさらにディーゼルのパワーユニットも用意されるが、外観はほとんど違いのない208のままで、乗り手に好きなパワーユニットの選択肢を自由に与えるというのが、新型208の特長でもある。ドイツ車がICE(内燃機関)版と並行して、EVには別シリーズの別ボディを用意しているのとは対照的といえる。今回の試乗車は、ガソリンのGTラインだった。
◆個性的だけど調律と抑制の効いたエクステリア
近頃のプジョーの定石となっている前後「3ツ爪ライト」と「牙LED」に加え、デザインでひとクセ感じさせるのはグロスブラックのホイールアーチだ。SUVクロスオーバーならマットなウレタンプラスチックでお約束といえる処理を、あえて艶アリのブラックでGTラインだけに付けて、1430mmの低い車高と相まって、精悍に見せる。
全幅1745mmは旧208より+5mm増と気持ち拡がった程度だが、外見がかなりロー&ワイドになった。全長は旧3975mmに対し+80mmの4055mm、ホイールベースの2540mmは変わらないが、旧モデルより腰高感が抑えられた伸びやかなプロポーションに生まれ変わり、フロントマスクだけが大き過ぎるバランス悪さもない。それでいてボディパネルの面処理も凝り過ぎず、映り込みがキレイなので、主張するようでじつは周囲の景色に馴染みやすいデザインといえる。
またボンネット両端が軽く抉られているので、ドライバーズシートから車両感覚が掴みやすい上に、リアウインドウの形と三角定規を当てたようなCピラーは、『205』を彷彿させる、そんな抜かりなさもある。全体として、近年のスモールカーでは飛び抜けて鮮やかな手並のエクステリアといえるだろう。
余談ながら、このデザインをまとめたスティル・プジョーのチーフ、ジル・ヴィダルは7月末にルノーへ電撃移籍し、本国の自動車業界では大きな話題となっている。
いずれプジョーのスモール・ハッチバックがソツのない優等生に終わらないのは、どこか弾けるような期待感をビジュアルに宿しつつ、走り出すとそれが確かに露わになるからだ。
◆物足りないとは思わせない1.2リットルターボ
スペックよりも走りがずっと元気に感じられるのはフランス車の常だが、ことプジョーはその傾向が強い。1140kgという今どきのBセグ・ハッチバックとして驚異的に軽い車重も相まって、100ps・205Nmという鼻で笑ってしまいそうな数値からは想像できないほど、208は力強く加速する。
これはCMPというPSAグループでも最新のプラットフォームに拠るところが大きい。また余談だが、この車台を開発したエンジニアのジル・ラ・ボルニュもルノーに移籍した。それぐらいルノーが、なりふり構わずフットボールでいうPSG状態である訳だが、そのPSGはついにCL決勝に進出した。
話が逸れたが、加速しばなにローギアードの1速が速攻で吹け切るのは、5名フル乗車で荷室満載での坂道発進といった実運用上のエクストリーム状態に備えてのこと。2-3-4速の軽快な繋ぎぶりときっちり目のロックアップは、さすがアイシンAWの安定の仕事ぶりだが、走行モードがノーマルのままだと減速時、とくに低速でやや前のめりのショックがある。逆にいえば、街乗りではコースティングによる滑走感を利してのエコモード推奨セッティングといえる。
走行モード切り替えにはもうひとつ、スポーツモードがある。ノーマル時よりも1~2段低いギアを選んで2500~3000rpm弱を保つため、アクセルのレスポンスも敏感になり、高速道路の合流などで加速に鋭さが加わる。エキゾーストノートには増幅音が加わり、それこそ猫科が喉を鳴らすニュアンスなのだが、ちょっと大袈裟という気もする。それこそが、同じCMPプラットフォームでコンフォート志向の『DS 3 クロスバック』と、スポ―ティな208のキャラクターの違いでもあるのだが。
◆アンチ・ゴーカート・フィーリング
街乗り程度の速度域でも不快な突き上げはなかったが、速度域が上がると208の動的質感は途端に輝きを増す。高速巡航でスポーツモードは煩いのでノーマルモードのままだが、ステアリング中立付近がどしっと座ってくる。緩やかなコーナーで少しだけ舵角を当てるような時も、中速S字の切り返しのような場面でも、盤石のニュートラルステアとトレース性が味わえる。
ステアリングフィールはアンチ・ゴーカート・フィーリングともいうべきものが。ロールは許容するが傾きもロールスピードもあくまで控えめ。それでいて路面のギャップを少しばかり拾っても乱されない足さばきは、Bセグとは思えない貫禄すら感じさせる。
加えて小径ステアリングの少ない動きで、狙ったラインにストレスなくのせられるから、結果的に長距離を走っても疲れが少ない。地味ながらも、次々とグッド・サプライズに満ちている、そんな動的質感の高さというか、積極的に操るほど応じてくれる、そういう乗り味だ。
一方で、ADAS制御には車間距離の調整やレーンキープの仕方に、やや生硬さを感じなくもない。だがステアリングなりアクセルペダルなり、乗り手が意図的にオーバーライドするときの移行の自然さというか、粘って余計なことをしないプログラミングは、むしろこなれている。これは先述した、街乗りではエコモード推奨にも似て、あくまで今のADASでレベル2の使い勝手を磨くより、ドライバーの意志を優先させる姿勢がみてとれる。
ようは新しい208には、人側のミスをカバーしようとする優等生じみた配慮はない。でも乗り手が意志をもって操るなら、間髪入れずに沿ってくれる潔さがある。そこが、決まりやロジックに守られる方が心地いいと感じるタイプには、向かない定番というわけだ。
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1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
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