ホンダ N-ONE RS 新型試乗 MTビギナーにもトライして欲しい1台だ…まるも亜希子

  • ホンダ N-ONE RS
◆「RS」は逆境の時代の新しい光

変わっていないように見えて、実はすごく変わっている。2代目となった新型『N-ONE』をひと言で表すなら、そうなるだろう。とくに、全刷新されたエンジン、ミッションを携え、軽自動車で初めてとなるFFターボ+6速MT/CVTを搭載する「RS」が登場したことは、スポーティなクルマに逆境と言われる時代に、新しい光をもたらしたと感じる。

しかも、中身にはホンダが誇る本格ミドシップ・オープン軽スポーツ、『S660』の技術が受け継がれたとなれば、期待も大きく膨らむというもの。秋口にその情報を知ってから待ちに待って、ようやく試乗する機会に恵まれた。


試乗車のRSは6速MTモデルで、目にも鮮やかなプレミアムイエロー・パール&ブラックのツートーンカラー。よく見ればエクステリアはRS専用で、フロントグリルモールやフォグライトガーニッシュモールなどに、大人なスポーティを演出するクロームメッキが使われ、サイドモールやドアノブはブラック、大型のテールゲートスポイラーやホイールもブラックで全体的にN-ONE本来のキュートさが控えめになり、凛と引き締まった印象だ。

インテリアを見れば、RS専用の本革巻ステアリングや本革巻MTシフトノブ、フロントコンビシートにオレンジの挿し色が効いていて、座るだけでテンションが上がる。スタートボタンを押すと、目の前のメーターにはスピード計だけでなく、Gメーターやブースト針も浮かび上がり、ますます走るのが楽しみになってきた。

◆「S660」のパワートレインをそのまま…ではなかった


実は今回、初代N-ONEの頃から「MTを作って欲しい」という要望が多かったことから、開発当初よりMT搭載の検討をしていたというが、その流れを強めたのはS660と『N-VAN』の存在だったという。

64ps/104Nmのターボエンジン+6速MTというスペックだけ見れば、S660のパワートレーンをそのまま移植したかに思えるかもしれないが、実際はそんなに甘くはなかった。ミドシップレイアウトのS660用をそのままFFのN-ONEに載せるには、ケースの強度を含め無理があると判断。では、自然吸気エンジン+6速MTがあるN-VAN用を載せたらどうか、と思えば、今度はケースやデフの強度に不安が残ってしまう。結局、N-ONE用に最適化する手間をかけて、載せることにしたという。

またギアレシオについては、最初はN-VAN用をそのまま持ってくればいいだろうと試してみたところ、N-VANは商用なので、やはり1−2-3速が比較的ローで、今ひとつスカッとする加速フィールが得られない。そこでS660のギアレシオをそのまま入れてみると、今度はS660のデフがワンサイズ大きいため、そのまま持ってくるのは難しい。


さらにN-ONEはそこまで本気のスポーツカーではなく、どちらかというと乗り味やシフトのつなぎ、上質感といったものと、強度をうまくバランスさせたかったため、新たにMT専用部品として開発したのが、「スピードコントロール ピークトルクリミッター」と「クラッチダンパー」だ。

クラッチペダルを素早く操作した際に、オイル油路を絞ることでペダル戻り、クラッチ継合速度を速め、シフトショックを軽減するのが「スピードコントロール ピークトルクリミッター」。そしてトランスミッション側の油圧脈動をダイヤフラムの振動によって減衰させ、クラッチペダルに伝わる振動を小さくするというのが「クラッチダンパー」。これらを含め、MTモデルの開発は数値よりもフィーリングを重視して進められ、何度も試しては直し、試しては直しと地道に仕上げていったという。

きわめつけは、シフトノブの位置を当初の位置より3度下げることで、フィーリングがグンとアップしたことと、いろんなものを試した結果、いちばんよかったというS660のシフトノブを採用したということ。そこまで細かく調整したのかと、開発の苦労が窺えるエピソードだ。

◆「RS」をMTで走らせる醍醐味


そんなRSのMTモデルを走らせると、出足からビュンと元気よく、ショートストロークのシフトがカチッカチッと決まるのが気持ちいい。2−3−4速とアップしていくにつれ、下から湧き上がるようなトルクが加速フィールに厚みを持たせる感覚で、市街地ではまだまだ使いきれない余裕がたっぷり残っていると感じる。

今回は高速道路を走れなかったのが残念だったが、決して高速域ではなくても、シフトチェンジのたびに感じるシッカリとしたクラッチフィールだったり、カーブを曲がる際にジワリと一定に荷重移動してくれるしなやかさだったり、1つ1つの操作と、減速する・曲がる・再加速するという一連の流れがピタリと一致する楽しさが、どこでも何度でも味わえる。この満足感こそ、RSのMTモデルの醍醐味ではないかと感じたのだった。


また、会場には無限とホンダアクセスによるカスタムモデルの展示もあったが、このイケイケの走りを体験して熱くなった後に見ると、どちらも心をくすぐるパーツが盛りだくさん。「Real "K" Car Racing」をコンセプトとした無限は、空力に効くというフロントアンダースポイラー、鍛造アルミホイールなど、見た目からも「速そう」になるパーツで精悍さがかなりアップする。

「ヘリテージホンダコーディネート」がテーマのホンダアクセスからは、往年のホンダ車をイメージしたつや消しブラックのフードなど、エクステリアパーツをはじめ、快適な乗り心地を保持しながら車高ダウンが叶うサスペンション、放熱性や摩擦粉の除去に効果的なディスクローター ドリルタイプなど、機能性もアップするパーツが登場している。これらを装着して、自分好みのRSモデルに仕立てていくのも、また楽しみの一つになりそうだ。

◆MTビギナーにもトライして欲しい1台

さらに、RSにはCVTも設定されているが、MTが予想以上に楽しいモデルになったことで、乗り比べた時に「もっとCVTも楽しくしよう」ということになり、Sレンジを専用セッティングとしてMTのダイレクト感をいかに出せるか、チューニングに苦心したとのこと。普段はラクに走りつつ、いざとなれば爽快なスポーティ感も味わえるようになっているのがCVTモデルだ。

MTを良いものにしようとした相乗効果でCVTも良くなり、結果としてほかの「Premium」「Original」とは違う個性がしっかり引き立ったというRS。初代からN-ONEユーザーのボリュームゾーンだという40代~50代の男性に響くだけでなく、200万円を切る価格の希少なMTモデルということで、ぜひ免許取り立てから20代のMTビギナーにもトライして欲しい1台だ。



■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト
映画声優、自動車雑誌『ティーポ(Tipo)』編集者を経て、カーライフ・ジャーナリストとして独立。 現在は雑誌、ウェブサイト、ラジオ、トークショーなどに出演・寄稿する他、セーフティ&エコドライブのインストラクターも務める。04年・05年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
  • ホンダ N-ONE RS
  • まるも亜希子氏とホンダ N-ONE RS
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