BMW 2シリーズグランクーペ 新型試乗 初めてFWDのBMWを欲しいと思った…中村孝仁

だいぶ前の話だが、BMWが初めてFWDの『2シリーズ』を上梓した時に、やっぱりBMWの横置きFWDはまだまだだなぁ…というニュアンスのことを書いたことがある。

あれからすでに6年の月日が流れ、BMWはとっくの昔にFWDを上手く仕上げる術を知っていることは、この横置きFWDのレイアウトを持つモデルレンジが日に日に広がっていることを見ても容易に想像が付く。しかしそうは言ってもBMWで敢えてFWDモデルをチョイスして購入しようという気にはならなかったことも事実。勿論この話にはお金があれば…という落ちが付くのだが…。

ところが今回『218dグランクーペ』に乗って、そのお金があればこいつを日常の足にしたい…という思いがふつふつと頭を擡げたことを告白しよう。そう、初めてBMWのFWDモデルを欲しいと思った。

◆3サイズは2世代前の『3シリーズ』と同サイズ


『1シリーズ』が従来のFRからFWDにその姿を変えて以来、どうも販売があまり芳しくないという噂を聞く。それ見たことか。やっぱりBMWはFRじゃないとな…。と思っていたのはほかならぬ僕自身。同業者も最後のFR仕様の1シリーズを購入して大いに満足げに日々モータリングデイを過ごしている。やっぱり乗って楽しいのはFR。まあ鉄板の話ではあるのだが、どうもそうでもないぞと雲行きを怪しくしたのが218dグランクーペである。

そもそもそのサイズ感がとても都合が良い。3サイズは 全長4535×全幅1800×全高1430mm。昨今クルマのサイズが横方向と縦方向に特に伸び過ぎていてどうもあまり良くない兆候だと思っていたのだが、これだとちょうど2世代前の『3シリーズ』とほぼ同じサイズ。つまりE90のサイズということである。本当のことを言えばもう1世代前のE46あたりがベストサイズなのではあるが、このあたりは許容範囲である。

次にスタイルが良い。真横から見て僅かにフロントオーバーハングが長いものの、このクラスでありがちなハッチバックモデルと比べた時、リアオーバーハングもそれなりに長くされているので、サイドビューのバランスが良いのである。敢えて、トランクとしてテールゲートをつけなかったのは恐らくボディ剛性の関係だろうか。しかしこれが実はこのクルマの走りの関係しているのだと思う。

◆トルクの小ささを補って余りある走り


そして3つ目のポイントがその走りだ。今回のモデルは2リットルターボディーゼルを搭載した218d。正直言って最近ドイツ御三家のディーゼルに対するアプローチがだいぶ変わってきたのは正直残念ではある。それが何かというと2リットルターボディーゼルだったら、ちょっと前までパワーにして200ps前後。トルクに関して言えば400Nmは当たり前だったものが、横並びというわけではないだろうがVW、アウディ、BMW、メルセデスすべてが2リットルターボディーゼルのパワーを150psに絞った。本国にはパワフルなものもあるが、日本仕様はこうなった。

もっとも、最高出力を要求するような走りが出来るところは無いので、これはこれでOK。次に最大トルクがやはり低く設定されている点である。この傾向は2019年あたりから顕著。今でもパワフルなジャガーの2リットルターボディーゼルだと430Nmもある。だから、これだけトルクがあるとパーシャル領域からグイグイと加速する豪快さを味わえるのだが、どうもそれが少し希薄になった。とはいえ、218dの場合はそれを補って余りあるひらりひらりの運動性能が素晴らしい。

ディーゼルの透過音も小さくなった印象だ。以前から常用域で流しているような状況ではほとんどそれがディーゼルであるという明快なサウンドを聞こえてこなかったのだが、この218dではその領域がさらに広がった印象である。勿論燃費もガソリンに比べたら大幅に良い。

◆「お前ら違いがわかるのか?」と試されている


ワインディングをガンガン攻めまくっても全く安心感を持って乗れるし、極端なスピードでない限りFWD特有の強めのアンダーステアは顔を出さない。まあ、大抵のドライバーなら、FRかFWDかの違いには気付かず、楽しいドライビングを堪能できるはずで、日頃からFWDに五月蠅いことを言う我々に対しては「お前ら違いがわかるのか?」と試されている印象すら受ける。

高いボディ剛性がそれを実現しているようで、前述したように敢えてテールゲート付きセダンとしなかった理由がここにあるように感じる。

等々、日常のアシグルマにするにはこれほど都合の良いモデルはないのである。勿論文中に記した「落ち」があることを織り込んで読んでほしいのだが…。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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